お友達作戦改め、ボッチ脱却作戦開始!
主人公がいろいろ頑張るけど空回りしちゃう話っておもしろいよね。
この話はそんな話にしたい。
「ローガン、大変だローガン! 由々しき事態だよ!」
「落ち着いてください坊っちゃん。 ほら、紅茶でも飲んで」
「いやもう由々しき事態過ぎて紅茶飲んでも落ち着けそうに…あっつぅ!」
「落ち着きましたか?」
「その口調から察するにあえてこんなにもお紅茶を熱々にしたの!? ハッ! もしかして謀反? 謀反なの!?」
「落ち着いてください」
それから数分後。
「ごめん、落ち着いた」
「それはなにより。 それでどうなさりましたか? あんなに慌てるなんて坊っちゃんらしくもない」
うん、ほんとにね。自分でも慌てすぎだったと思う。だけど由々しき事態だというのは本当だ。
「もしやアリア嬢のことですか」
「さすがローガン、そこに気づくとは……」
「最近坊っちゃんが話題に出すのはアリア嬢のことばかりですので」
え、そんなに話題に出してた?やだ、恥ずかしい。
「ええ、ここ数日の坊っちゃんの話の内容はアリア嬢のことが五割、食事に関することが三割、残りがその他もろもろです」
ふむ、食事の割合も結構多いな……いやそんなことはどうでもいいんだよ。あ、やっぱよくない!食事は大事!正義!
「…食事のことはともかくアリア嬢がどうしたのですか? もしや彼女の正体が……」
「いやそうじゃない。 だけど事態はある意味それより深刻かもしれない」
ジュードと真剣な表情にローガンも顔を引き締めた。例えどんなことも告げられてもせめて冷静さだけは保とうと覚悟を決め――――次の瞬間その覚悟が無駄であったことを知った。
「あいつ、――ボッチかもしれない」
いやいやローガンそんな目をしないで。これは割と深刻な問題なんだ。
「今日の様子を見るにどうも今のアリアには俺以外の友達がいないみたいなんだ」
「嫌な予感しかしないので聞きたくありませんがなぜそれを?」
「昼飯を一緒に食べなかったら寂しかったと号泣された」
「……なぜそんなことに」
「あいつがわんこ属性なのがいけないんだ……」
わんこ?と疑問符を浮かべるローガンは無視してどうするべきか考える。
「とにかくアリアのボッチを何とかしないと。 これはある意味国家の存亡に関わるよ!」
「考えすぎです」
「いやいや考えてみてよ! 本当にアリアが王女だったとしてその時ボッチだったりなんかしたらあの娘耐えられないよ!? ただでさえメンタル弱めなのに! そしたらこの国お先真っ暗じゃないか!」
てか正直乙女ゲームの主人公って鋼メンタルが普通だと思ってたんだよね……やっぱ現実はゲームと違うってわけか。
そんな俺の考えは余所にローガンが疑問を口にする。
「たしかにそれは不味いですがあくまで可能性でしょう? 」
「そうやって日和っても良いことなんてないよ! それにアリアが寂しげにしてるの見ると心が痛いし!」
(それが本当の理由なんですね)
なんかローガンの目が少し優しくなった気がするけどそんなこと気にしてはいられない。こうなったらアリアに直接言ってでも友達を作らせねば。ボッチ、ダメ絶対!
「それはよろしくないかと」
「え、なんで?」
「人に言われて作った友人など長続きはしません。 むしろアリア嬢自身に友達を作りたいと思わせないと」
ぐむむう、それもそうか……少し急きすぎてたか。
でも正直アリアも普通に友達作りたいと思うけどなあ。誰だって寂しいのは嫌だろうし……。
そう思ったので直接言ってみることにした。そこ、短絡的とか言わない。
「あっ、ジュード様どうしたんですか?」
「アリア、お友達増やそう!」
「え? あっ、はい! ………ふぇ?」
というわけでアリアの友達を増やそう大作戦はスタートしたのである。大丈夫、落ち着いてからもっかい聞いてみたら友達はもっとたくさんほしいって言ってた。
まず常識で考えると友達を作るのに一番適しているのは身近な人間である。しかし話を聞く限り寮に住んでいる連中は学者になりたいガリ勉共なので学業成績がそこまで芳しくないアリアは話が合わないだろう。ガリ勉連中にしても友達付き合いなんぞのために勉強の時間を減らしたくないはずだ。――まあもっともそんな余裕のない人間が学者になれるはずもないのだが。なれたとしても人付き合いが出来なければ庶民の学者が大成できるはずもない。
そうなる寮以外で友達を作る必要がある。しかし俺たちの前にはいくつもの壁が立ちはだかっていた!
「……よく考えてみたら俺も友達少ないんだよね」
「じゅ、ジュードさま、私がいます! 私はお友達ですから元気だしてくださいっ!」
「……うん、ありがとうね」
「ああっ、ジュード様の私を見る目がおじいさまみたく優しくなってます!?」
誰がおじいちゃんだ。流石に聞き捨てならないので頭グリグリの計に処する。
いたいいたい、と頭をおさえアリアが涙目になるが気にしない。将来的に王女だとかそういうのも気にしない。
「いや俺はいいんだよ。 何人かは友達いるし……貴族的に考えてたくさんの人と友達って訳にはいかないから」
時には友ですら利用し裏切らなければならないこともある貴族社会では信頼できる友人など数人いれば良い方なのだ。まったく貴族というのも大変だ。決してこれは友人が少ないことに対する言い訳ではない。
「お貴族様も大変なんですね」
いやそんなお前他人事みたいに……いや今は他人事か。
それはともかく流石に今の段階でエルフィンを紹介する訳にはいかないんだよね。……ほんとはしてしまいたいけどまわりの目もある。うーむ、難しい問題だ。友達なんぞ些細なきっかけさえあれば簡単に作れるがこの学園では貴族と庶民という差故にその些細なきっかけすらも掴めない。……この娘田舎から出てこないほうが幸せだったんじゃね?
そういえばなんでアリアはランシール学園に入学したんだろう。生徒がほぼ貴族の学園に庶民が入学とか目的がなければ辛いことしか無いのに。
その辺の事情とか原作でもその辺語られてなかったみたいなんだよね。せっかく張本人が目の前にいるんだし聞いてみるか。
「そういえば寮の連中と話が合わないって言ってたけど、アリアは学者を目指してるわけじゃないんだよね。 なんでこの学園に?」
「おばさまから聞いてんですけど、私を育ててくれたおじいさまとおばあさまが必要になるからって入学に必要なお金を用意してくれてたらしいんです。 それで亡くなる前には私をここに入学させるように遺言まで……」
「必要になる?」
「はい、詳しくはおばさまも話してくださらなかったんですけど」
これはあれか。そのおじいさまとおばあさまとやらは気づいてた?もしくは王女誘拐に何かしらの形で関わっていたとかだろうか?
いや、そもそも本当にただの誘拐なのか……ぐぬう、その辺の事情までは覚えてないんだよなぁ。
「なるほどね……その、おばさまとやらは?」
「おじいさまとおばあさまが遺してくれたお金は私の入学費用でギリギリでだったみたいで引っ越しのお金までは残ってなかったんです。 あ、でもお金が貯まったらこっちに来るって言ってました!」
なるほどなるほど、つーことはそのうち学園の近くに叔母が住んで…………あれ?そういえばゲームのOPムービーではアリアが学園に登校してくるシーンがあったような。
記憶が確かだとしたらゲームのアリアは寮に住んでないことになる。ならアリアはそのうち寮を出て叔母と暮らすようになるんだろうか。寮は校舎からは離れてるけどあくまで学校の敷地内にあるんだし。
そういうことだったらアリアの叔母には早めに来てもらった方がいいかもしれない。少しばかりストーリーがずれるかもしれないが主人公がほとんど攻略対象たちと知り合ってない現状では今更というもの。なにより寮暮らしをしている今のアリアはお世辞にも楽しそうじゃないのだ。
――――その考えに至ったのは純粋にアリアを思ってのことだったが実のところ『ゲームのアリアは寮住まいではない』というのはジュードの勘違いである。アリアが登校するシーンはOP演出の一貫で実際にはゲームでのアリアは寮住まいであった。
しかしその辺の事情は自分でゲームをプレイしたことがないジュードにとってはわからぬことであり、それを指摘できるものもこの世界にはいなかった――――
「なら、良い場所……って訳でもないけど少なくとも格安で住めるとこ紹介しようか? 」
「わぁ、ほんとですか! あ、でもまだ引っ越せるだけのお金は……」
「大丈夫、引っ越し費用はうちが負担してあげるよ」
「あわわわわ、そんな悪いです!」
「いーのいーの、ちょうど持て余してた物件だからね。 正直空き家だと管理費用が……」
世知辛い話は止めよう。アリアに暇をもて余してノリと勢いで始めた貸し家事業の事情なんぞこの子に話すことでもない。
余談ではあるがこの国では家を貸すという概念がほとんどない。そのため学園の寮以外ではアパートすら無く他国から来た人が滞在するには別荘を買うかもしくは宿に泊まるしかなかった。だが別荘なんぞ気軽に買えるものではないし宿に泊まるにしても長期になれば宿代もばかにならない。
そこに目をつけて始めた貸し家事業だったが大成功だった。事情があってこの国に長期滞在しなければいけない人なんかがこぞって借りたのだ。また、家が気に入った場合、買い取っても良いことにしているので将来的にこの国に移住したいと考えていた人達にも大人気だった。
そのため空き家はほとんど残っていなかったのだが……どーしてあそこの家だけ余っちゃったんかな?俺の見立てではあと数年もすれば市場が大きくなるからあの辺も便利になるのに……。
とにかくその家は現状では市場から少し離れていて家々が疎らな一画にあるせいで住む人がなかなか見つからなかったのだ。人が入らないからと取り壊すのももったいなかったしちょうど良い。
アリアも家族と一緒に住めるし家の管理費用は浮くしで良いことだらけ、まさに一石二鳥である。
って、今日は不動産的な話をするために来たんじゃなかった!大事なのは友達作りだ友達作り!
「話戻すけど友達になれそうだなー、って人はいない?」
「えっ、えっとですね! うーんと……そのぉ……あの」
「……いないの?」
「……ごめんなさい」
謝らないで、困るから。心が痛いから。
こ、ここまできたら何がなんでもこの娘に友達を作ってやらなきゃ男が廃る!とはいえ貴族以外でアリアと仲良くしてくれそうな人なんて……あー、もう!思い付かん!もう貴族で良いかな!?というかエルフィンで良いよね!?まわりの意見なんて知ったことか!
「わ、私なんかのために無理してくださらなくてもぉ……」
「いいや、このまま引き下がれるか! こうなったら俺の親友を紹介してやる!」
当初の予定とはまったく違う形での紹介となるがしかたない。そのためにも――――
「だからねアリア、お前にはテーブルマナーを学んでもらうよ!」
「えっ、ええーっ!?」
ちょっと無理ある展開だったかな?まあいいか。直せたら直します。
あとメインキャラあと何人出そうかな・・・。まあ多くてもあと二人だろうけど。