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友との語らいとボッチ飯

最終確認で気になるところがたくさん見つかることってよくあるよね?

というわけで遅くなりましたが三話目です。遅くなった理由の一つが艦これやってたからってのは内緒だよ!

アリアと出会った日から早数日、ジュードの心は不安でいっぱいになっていた。

いや不安といっても別にどうしようもない問題が目の前に立ちはだかったわけでもわけでも突然状況が目まぐるしく変わり先が見えなくなったわけでもない。

まーつまりだ、俺が何をそんなに不安に思っているのかと言うと…「ジュードさま~!」…………ほら、来た。


「アリア、今日も来たんだ……」


「はいっ! あ、も、もしかしておじゃまでした……? 」


「そういうわけじゃないんだけどほら、他に友達なんかは……いやなんでもない」


彼女との交流は決していやなものではない。だがこうも連日来られると彼女の交友関係が非常に気になってくる。

いやきっと彼女は俺との縁を大事にしてくれているだけで流石にほかの友達もいるよね?寮の人とかこの学園貴族ばっかりって訳でもないんだし。

そんな心配をするのもアリアはここ数日、なにかとしょっちゅう俺の元を訪れているからだ。なんかもう取り入るとか考える必要ないくらいに。


例をあげると朝、登校するとどこからともなく現れて


「ジュード様、おはようございますっ!」


お昼になればお弁当片手に俺のところに来て


「ジュード様、お昼ご一緒していいですか!」


夕方、放課後になると


「ジュード様、お時間あるならお茶でも飲みませんか!」


他にも暇さえあれば


「ジュードさま!」


「ジュード様?」


「ジュードさまー」


と俺の名を呼びながら現れる。

なんだか懐かれた子犬に「かまってかまって」とおねだりされている気分だ。近頃なんてアリアに犬耳と尻尾が生えているのを幻視してしまうほどだ。疲れてるのかな俺。疲れてるんだろうな俺。

あまりの勢いに庶民と貴族が仲良くするのが面白くないと考えている奴でさえ「大変だな……」と労ってくる始末。なんだこれ。


しかしこの有り様ではもしかしたらエルフィンと知り合ってるかもなんていう甘い考えは捨てた方がいいだろう。行動範囲がこれではエルフィンと出会いようがない。

そんな俺の心情をアリアは今日も今日とて「お昼ご一緒しませんかー?」と最初の頃の遠慮などすっかり消え失せ人懐っこさのみが残った笑顔で語りかけてくる。

まわりにいる生徒たちはアリアの姿を確認するとああ今日もか、みたいな感じの笑みを浮かべてさりげなくこの場を後にする。ほんとお前ら空気読めるのな。

だけど今日はその誘いを断らざる得ない事情があった。


「あー、それなんだけど今日は一緒に食べれないんだよ」


「ええっ、駄目なんですか?」


「先に友人から誘われててね。 アリアのことを伝えて一緒に食べてもいいんだけど流石に今からじゃ遅いからね」


お貴族様のお食事にお邪魔するなんて!と恐縮していたアリアだがわからないことがあるのか首をかしげた。ところでお前、俺も貴族だってこと忘れてない?


「あれ? お貴族様ってお食事の時に誰かを紹介したりってイメージがありましたけど違うんですか?」


「んー、アリアはさ、友達とご飯食べる約束してたとしてその友達が連絡もなしに知らない人連れてきたらどう思う?」


アリアは少し考えてぽん、と手を叩いた。


「あっ、駄目ですね。 怒られちゃいます」


「そういうこと。 あいつはその程度で怒る男じゃないけどそれでもいきなり連れていくというのは失礼になるからね。 だから今日はお昼一緒に食べるのは無理。 また今度ね」


「はぁい…わかりましたぁ……」


アリアは酷くがっかりした様子―――きっと犬耳と尻尾があったならしょぼんと下に垂れていることだろうと容易に想像できるくらいに落ち込んでいる―――でお弁当を抱えて食堂に歩いていった。その姿はまるで捨てられた子犬のようで見ていて非常に心が痛い。

正直この子の最大の武器は素の行動で庇護欲を誘うことだと思う。流石乙女ゲームの主人公とでも言うべきか。




この学園で食事をとる方法は三つほどある。

ひとつはお弁当。

家から通っている庶民なんかは大体お弁当。たまに貧乏な下級貴族もお弁当だ。また、料理ができる人は寮住まいでもアリアみたいに自分で作ってきたりしている。

そして次がこの学園に通っている学生のほとんどが利用している食堂。

食堂といっても日本の大学にあるような学生食堂とは違う。この食堂を例えるのなら高級レストランといったところか。

流石に学生の数が多いので料理を運ぶウェイターはおらず学生が自分で取りに行く形式だが料理のレベルは高く料理人たちの腕も貴族のお抱えでもおかしくはない。

学園が出来た頃はもう少し質素、というか食堂らしく素朴な感じだったらしいのだがその代の貴族たちがこんなもの食べられるかと改善を要求し改装費用まで用意してきたため今の形になったのだという。

そして最後のひとつは特別食堂と呼ばれる場所だ。

食堂が高級レストランというならばこちらはその高級レストランのVIPルームといったところか。

そしてその表現はあながち間違いでもないと俺は思っている。

特別食堂は分かりやすく表現するなら接待で使われるような個室で一人、または少人数で食事するための場所である。料理も食堂と違い自分で取りに行くのではなくウェイターによって運ばれてくるのだからその扱いの差は歴然。

それだけに貴族であったとしても容易には利用することはできない。いわば公爵家クラスの御用達なのだ。

侯爵クラスでも顔パスで入れるのは俺ぐらいなもんである。ゆえに俺もなんだかんだでここをよく利用するのだが……そのほとんどが今回のように友人てあるエルフィン・アドルードとの食事の時である。


「それで、お前はそんなに疲れているというわけか」


「そーなんだよ。 どうも放っておけないしさ」


俺の話を聞いたエルフィンはいつも通り鉄仮面のように表情を動かさずに―――されどどこか楽しそうに―――相づちを打った。

やろう、他人事だからって楽しみやがって。いつか絶対お前に押し付けてやる。

そう決意しながら今日のお昼ご飯のバジルソースパスタを口に入れた。さすが特別食堂のシェフ、良い腕をしている。

テーブルの反対側ではエルフィンが優雅な所作でフィレステーキを切り分けている。肉も良いよね肉も。でも俺はそれより魚が食べたい。生魚。


「あー、刺身食いてえ……」


「ん? どうした?」


「なんでもない」


料理に対する不満と思われては大変なので誤魔化しておく。この世界ではちょっとしたことが原因で料理人の首が飛びかねないのだ。

……この国生食文化ないんだよね。というか生で食べるっていうこと自体に忌避感があるみたい。この分だと米はともかくお刺身とかそういうのを広めるのは無理そうだなあ。


「しかしお前がそこまで気にかける女か、一度見てみたいな。 連れてきても構わなかったぞ?」


「招待なしにここに連れてくるわけにもいかないだろ。 お前は良くても文句言ってくる奴なんてごまんといるんだから」


「そうだろうな。 まったく困りものだ」


前にも言った通りランシール学園はあくまで学びの場であり、そこに貴族であるとか庶民であるとかは関係ないというスタンスである。

だがそれはあくまで学園のスタンスでしかない。実際には学生の間には明確では無いもののヒエラルキーが存在し庶民と貴族の間ではもちろん貴族同士の間でも上下関係がある。

ぶっちゃけ俺が余裕ぶっこいていられるのも俺が学園内ヒエラルキーの上の中あたりにいるからだ。この辺になるとなにをやっても文句を言われない立場であるので気兼ね無く庶民たちとも話せる。

だがそれが俺でなくエルフィン・アドルードとなると話は違う。

アドルード家は実質的に貴族のトップといえる立場にある。そのため彼らに貴族の見本であることを求める者たちは少なくない。そういう人たちはエルフィンが庶民と親しくするのを許さないだろう。

そのエルフィンもだいぶ出会った当初の頭の固さが取れたとはいえ未だ庶民が気安く話しかけるな、とか言っちゃうタイプだ。今回アリアに興味を示した理由も友人である俺が気にかけているから。ただそれだけだろう。

いやまあこればっかりは貴族の常識の様なものなのでしかたがない。むしろ気軽に話しかける俺が変なだけである。


だけどそれ以上に問題なのはエルフィンが人嫌いの一面を持っていることだ。


エルフィンは元々のルックスとその能力、そして家柄によって学園内ではトップの人気を誇る。そのため入学当初はそれこそ彼に焦がれそのハートを射止めようとする淑女たちが押し掛け、更には自分を売り込もうとする者やおこぼれにあずかりたいという者共に囲まれまともに食事もとれないような騒ぎになったものだ。

喧しいのを嫌うエルフィンはそれ以来この特別食堂で食べるようになった。木っ端貴族たちの食事の誘いはすべて断り食事を共にする相手はほとんど俺、たまに同じ公爵家の面々と交流を兼ねてといったところだ。


……自分で言っておいてなんだけどエルフィンとアリアをくっつけるのってすげえ難しくない?絶対一番条件が厳しいルートだったろ。こいつ落とした原作のアリアすげえな。

原作のアリアの手腕に戦慄しながらもパスタを食べ終え、食後のお茶を飲んでいるとエルフィンがどこか遠い目をしながら口を開いた。


「まあなんだ、お前が変わりなくてよかった」


「その言い方、何かあったの?」


俺の問いにエルフィンは苦々しい顔で答える。


「……最近家に縁談が持ち込まれることが増えてな。 学園でも声をかけられることも増えてきた。 正直うんざりしてる」


「あー……それはなんとも気の早いことで」


そうは言ったもののこの世界では十代半ばでの婚姻もあり得る、というか遅くても二十歳になる前に結婚するのが当たり前なので決して早すぎるわけではない。実際母上は十代半ばで兄上を産んでいる。

もっとも学生であるうちに結婚、というのは稀でせいぜい婚約止まりがほとんどだ。……それでもまだ卒業は先のことなので十分早いともいえるのだが。


「お前の方はどうなんだ? 侯爵とはいえ彼のクロス家の子息ともなれば引く手あまたじゃないのか」


「まさか。 庶民と仲良くする変人貴族、それも次男坊に縁談が来るわけないでしょ。 来るとしても卒業後だろうね」


「ふん、そうとも限らないだろう? 上の連中はともかく上との繋がりが欲しい男爵や子爵にとってお前は垂涎ものの物件だ」


「やめて言わないで。 考えないようにしてるんだがら」


こちらとら晩婚化が進む日本の常識を未だ引きずっているからこの歳で婚約とか無理。考えたくない。しばらくは独身貴族でいたい。


「……というか俺たちもそういうの考える時期なんだね」


「ああ、気が滅入るが避けられないことだ。 俺たちにできるのは選択肢の中から出来る限りの良縁を選ぶことだけだ」


「これも貴族の義務ってやつか。 ま、誰と結婚しようが俺達の友情は変わらない、そうでしょ?」


「ふ、違いない」


そう遠くはない未来ことを憂いつつ、俺とエルフィンはこれから先も続く友情を誓って笑いあった。

……よく考えると影で氷の鉄仮面だとか呼ばれてるエルフィンの笑顔を唯一向けられる俺って下手すれば誰かに刺されね?



まあ余計なこと考えたりしたけどもそれで終われば格好がついたんだろうけど……うん、それで終わるわけがなかった。

具体的に何があったかというとエルフィンと別れてすぐに何故かえぐえぐと泣くアリアに突撃されたのである。


「うわーん、ジュードさまぁー!」


「え、ちょ、アリア!? なんで泣いてんの!? 何があったの!?」


「一人でお昼食べてたら寂しくなってぇ……」


「ボッチ飯!? お前ボッチ飯だったの!? え、同じ寮の人達は!?」


「話しかけようとおもったんですけど……みなさん食事の間も勉強してて……話しかけづらくって……ううう……」


「マナー悪いなそいつら! というかやめて!? 泣かないで! 心が痛いの! 俺は何一つ悪くないはずなのに罪悪感が半端ないの!」


その後、泣くアリアを宥めるのに残りのお昼休みのほとんどを費やすことになったのだった。


というわけで簡易自己紹介でも書きます。

あくまで大まかってか暫定なので変わるかもしれない。


・ ジュード・クロス

クロス家次男。15歳

物事の判断基準が日本人だった時のままなので非常にお人好し。

割とツッコミ体質だが無駄に行動力はあるため誰かを振り回すことも多々ある。


・ アリア・クォーク

実は王女というとんでも設定を持っている原作主人公。15歳。

原作ゲームでは主人公の立場にあるがメンタルは弱め。

わんこ属性。


・ エルフィン・アドルード

アドルード家嫡男。16歳。

ジュードの親友にして粗捜ししても粗が見つからない完璧超人。

あまりにも表情筋が動かないので影で氷の貴公子とか氷の鉄仮面とか呼ばれている。


・ ローガン・ベイル

クロス家使用人。27歳。

ジュードのお付きというか世話係。

冷静沈着な兄貴分。

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