シマネコ日誌
俺の名前はシマ。半分野良の通い猫だ。
今日は通い先の一つ、正蔵じいさんのところに来ている。ここには白雪っていう俺より年下の子猫がいるんだけど……。
「今日ねぇほっとけーきの日だよ! 僕みんな呼びに行くからシマ兄ちゃんお留守番する?」
何でだよ。
「俺がみんな呼ぶから白雪は待ってろ」
車危ねぇからな。
だけど本当に正蔵じいさんは白雪に甘ぇな。
ホットケーキも甘ぇし。
俺、甘ぇの好きじゃねぇんだけどなぁ。
「うん!じゃあ僕じいちゃんのお手伝いするね!シマ兄ちゃん早く帰って来てね」
お手伝いって、まとわりつくのはむしろ邪魔だと思うがな。
満面の笑顔で言われると、お手伝い止めとけとかホットケーキ嫌いっていえねぇ
仕方なく俺はミケさんとクロおじのところに向かった。
ミケさんは居酒屋の招き猫だ。 クロおじは野良だけど、居酒屋に入り浸ってる。
いつもの公園に行くと、2匹はすぐに見つかったブランコに乗ったミケさんを捕まえようとしてジャンプをしているつもりのクロおじ。
ジャンプだよな? デブおじ、いや間違えた、クロおじ。痩せろよ。
二匹に話したら、ミケさんからだけ返事が来た。
クロおじは息切れにこと切れそうになってた。
ミケさんが「行くのか?」っていったら、力なくしっぽが上がった。
逝きそうなのに行くんだな。 すげぇな、食い意地だけは。
息も絶え絶えなクロおじが復活する間、ミケさんはホットケーキでまた思い出し笑いをしてた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
それはまだ白雪が今より小さかった時
ホットケーキと言えず、それをふわふわって呼んでた時の事。
あの時も今みたく俺達はホットケーキを食べに白雪の所に集まっていた。
正蔵じいさんはちゃんと皆に1枚ずつホットケーキをくれたけど、白雪は食べるのが遅くて、クロおじが白雪のを取ったんだ。で、白雪が泣いてミケさんは怒って、俺は正蔵じいさんにおかわりをねだりに行った。
皆の所に戻ったら、ミケさんは呆れてて、クロおじは得意気で、白雪は、何か、キラキラしてた。
「にーちゃ! ふわふわ! おっきいの!」
前足の先にあったのは、太陽?え?
「え?」
「にーちゃ、とって!」
いや、無理だから。
「白雪、クロにとってもらえ」
ミケさんが助け舟を出してくれた。
「くょーちゃ、ふわふわ! ふわふわ!」
「まーだだ。まだ焼けでねぇ。あーんなでっけぇンだぞ? まーだまーだ焼けでねぇ」
くょーちゃはクロおじのことだ。前足で大きな丸を書いてクロおじが言う。
おかわりのホットケーキが来て白雪が食べるか悩んでて、それを見たクロおじが性懲りもなくまた奪おうとして、ミケさんに殴られてた。
猫って飛べるんだな、デブでも。
「にーちゃ、ふわふわおいちぃねぇ? にーちゃ、たべゆ?」
お前、クロおじに奪われたのに俺にくれんのか?
クロおじは白雪の優しさを見習ったほうがいいと思った。
「全部食っていいんだぞ」
「しやゆき、おっきいふわふわあゆもん!」
それ、食えねぇよ。
「じゃああっちのおっきいの貰うから、お前はこれ全部食え。」
「あい!」
よし、いい返事だ。
あむあむ食べて満腹になったんだろう、水を飲むとホットケーキが入ってた皿の上で丸くなって寝ちまった。
お前、なんかうまそうだな?
見てたら俺も眠くなったから、皿の上で丸くなってみる。
うん、最高。お日様ぽかぽかで気持ちいい。俺も寝た。
「みあぁぁぁ!!!! にーちゃぁ~」
「ぎゃ!!! 何だ??どうした?!!」
白雪の泣き声で飛び起きたら、もう夕方だった。
ミケさんとクロおじも慌ててこっちにくる。
みゃあみゃあ泣く白雪を皆で舐めて慰めた
「にーちゃぁ、しやゆき、にょ、ふっ、ふわふわ、こげちゃ、うぅみゃあぁぁ」
ぁ~夕焼けが火に見えたんだな。
少し前に正蔵じいさんがホットケーキ焦がしたの見たから。
どうしよう。困ってミケさんを見た。クロおじは原因だから駄目だ。
ミケさんはちょっと考えて、白雪を呼んだ。
「この赤いのはお空がホットケーキをひっくり返すのを頑張ってるからなんだ。ホットケーキはおっきいからな」
「ほぇ? そーあの?」
コクコクとクロおじと頷く
「しやゆき、おそあ、おーえんしゅる!」
涙を拭いてキッと顔をあげた白雪がおっきな声で応援しだした。
「ふぇー!ふぇー!お、そ、あ!! がんがれー!! ふあふあー!! がんがれー!!」
白雪はまだ頑張れって言えない。 つーか太陽も頑張れなのか?あ、この場合ホットケーキか。
一人で応援は可哀想だから俺も応援してやった。
夕日が沈むと、白雪はへこんだ。
めしょめしょ凹んだ。
「白雪、応援がんばったな。ちゃんとホットケーキ焼けたぞ」
「にゃ?」
ミケさんが前足で指したのは真ん丸黄色いお月様
「ふぁあぁ!! ふわふわ! おいちしょうねぇ? しやゆきも!! みーちゃとって!」
みーちゃはミケさんのことだ。
「あのホットケーキはお空のご飯なんだ。白雪が食べたらお空お腹ペコペコだろうなぁ、可哀想に」
「にゃ!! うぅ~、ふわふわ、しやゆきの……」
「お空は昼間、白雪が沢山遊べるように明るくしてくれて、お昼寝のときはポカポカにしてあげたから、きっと今すごくお腹がすいてるだろうなぁ」
うにゃ、うにゃ、いいながらもお空に「おにゃかすいちゃ?」ってきいてた。
その後ろでクロおじが「ペコペコ~ペコペコ~」言ってる。
「にーちゃ! おそあ、ペコペコ! しやゆき、ふわふわあげゆね!」
「ありがとーありがとー」
クロおじ、その声どっからでてんだよ。 女みてぇだな。
「あい!」
「イイコだな。よし、じゃ俺等は帰っから。クロ行くぞ」
ミケさんはクロおじを引きずって帰っていった。
あの巨体を。すげぇな、カッコイイ。
その時から俺は密かにミケさんに憧れている。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
思い出にひたってたら、ミケさんが動き出した。
「さて、そろそろ行くぞ」
ミケさんの一言で皆が動く。
正蔵じいさんのホットケーキは、前よりは甘くない。
白雪ももうクロおじにホットケーキを奪われるようなヘマはしない。
しかし、食べ終わった皿の上で寝るのはやめられないらしい。まぁ、俺もだけど。
ミケさん達は俺等が寝てる間に帰っていく。見送りたいが、睡魔には勝てねぇ。
夕方寒くなって、起きると白雪と一緒に家に入る。
白雪は寒いにゃーと言いながらこたつに潜り込んだ。
尻だけをこたつから出している。 せめて逆にしろ。
俺は正蔵じいさんの膝に乗って丸くなる。
正蔵じいさんがホットケーキを焼くときは、凹んでる時だからな。
しわくちゃな手が背中を撫でてくる。
「白雪も!」
こたつから這い出てきた白雪に膝の上を譲ろうとしたら、正蔵じいさんの手が止めてきた。
『大した重さはないよ。ありがと、シマ』
本当かよ? ならいいけどさ。
二匹で丸まったら、正蔵じいさんが笑って撫でてくれた。
ふわふわと優しい甘さを含むこの空気の方が、俺はホットケーキよりも好きだと思った。
おしまい。