第9話 傷は深くまで
若葉は目の前の戦力を分析していた
・・・・貴族クラスの吸血鬼が二人とは分が悪い
いくら若葉がこの学園で八番目に強いと言っても相手も貴族クラス
つまり昔から血を受け継がせて力を蓄えてきた者たちだ
そして若葉はもう一人の灰色の黒髪の吸血鬼を見る
・・・確か如月の報告で聞いたリアネスを玩具にしていたビートハイスとか
言う吸血鬼か、もし奴があの系統の子孫だったらまず勝ち目がない
「流石にこれ以上騒ぐとあなたの国の治安局が来そうなので僕達はここらで解散しましょう。いいですね?」
ビートハイスに確認するように眼鏡の吸血鬼は視線を向ける
「我々もこれ以上面倒事は避けたいですし、厄介な奴らにもダメージを与えることができましたので」
「さらばだ。もう二度と会わぬことを期待する」
そう言うと彼らは霧状に変化してどこかに消え去った
「まあ、ここらが潮時というのは奴らにとっても分かっていたようだ」
若葉は日本刀を鞘に直した
「しかし傷は大きい」
龍牙を見ながら若葉はそう呟く
それは龍牙の傷もさることながらこの学園に与えた傷もかなり大きいものだ
「しかし、あの霧状化するあれは何とか対策を打たねば・・・・・・・」
あれのせいでグリア、そして危うくもミリアーナまでやられるところだった
「とりあえず如月を第三保健室に運ぶか・・・・」
気絶している龍牙の腕を自身の肩に回してそのまま歩いて行った
◇◆◇◆◇◆
「こりゃ、派手にやられたねー」
「ですがある意味これぐらいで済んでよかったと言うべきでしょう」
ステージの上に二人の人物が吸血鬼襲撃の惨状となった現場を見下ろしていた
一人はステージの上に立ち片手で今日の始業式の予定が書かれている資料をもっていた
そしてもう一人はステージの縁に座り膝の上に腕を置いて頬杖でその現場を見ている
「そうかい?そもそも死傷者の数も結構なもんでしょ?」
「ええ、二年五名。三年二名よ」
「三年が二人も死ぬとは。俺達のクラス?」
「いいえ、どちらもD組の生徒よ」
そうか、というとステージに座っていた人物が急に立ち上がり
「せめての償いにね」
と後ろに立っている人物に笑いかける
それで後ろにいる人物は何が言いたいのか分かり黙って頷く
そして二人は目をつむり、この理不尽な吸血鬼襲撃事件で散って行った命を弔うために黙祷をささげた
「状態はどうだ?」
とステージの脇にある二階へ行くための階段を下りてきた人物がいた
「副っちゃん」
「副会長・・・・・」
「いい加減その副っちゃんというあだ名はやめてくれ同級生は愚か二年の女子にまでそのあだ名で呼ばれる始末なんだぞ」
副会長と呼ばれた人物は綺麗に整えられた暗い茶髪を掻き上げるように頭を押さえる
「リーディアン、唯原。現在の復旧状態は?」
呼ばれた二人がステージの日のあたる部分に顔を出す
「体育館は瓦礫撤去作業が三十パーセントです。体育館へ続く廊下は瓦礫撤去作業は終え補修作業に移行しています」
緑色の髪を腰まで伸ばして黒ぶちの眼鏡をしている女性―――――唯原・飛鳥が答えた
「そうか、それよりリーディアン。弟の方はいいのか?」
リーディアンと呼ばれた青年はところどころはねた明るい茶髪を掻きながら笑うような表情を見せ
「あいつはそんな簡単に死なねーから大丈夫だって・・・・・」
「お前は・・・少しは心配したらどうだ?」
そう副会長が言うと、グリアと同じ瞳の色―――――緑色の瞳が少しそれ
「あいつに会うと関係が面倒になりそうだからいいよ」
憂いのある表情を浮かべた
「そうか・・・・・すまない。余計なことを言って」
副会長もそれを察し申し訳なさそうな顔をする
それを見るとリーディアンは笑みを浮かべて
「大丈夫だよ。そこまで辛気臭い話でもないし」
「まあ、無理はするな。相談できることは僕達が乗ってやる」
「私は嫌です」
「おい!!」
綺麗よく終われそうだったのを飛鳥はぶち壊す
「男の相談など意味がないでしょ。いつもいつも汚らわしいことばかり考えて」
「いや、男ってそんないきものじゃあ・・・・・・」
リーディアンは自身の男として威厳を保つために言い訳を考える
「あなただって同じでしょ?これの様に――――」
そう言って飛鳥が出したものは録音機だった
「なんで録音機?」
副会長は心底不思議そうな顔で首をかしげる
「これを聞けばあなただって嫌というほど分かるでしょ」
そして再生された内容は
『しょうもないとはなんですか!!おっぱいは男の夢なんですよ!!』
それは今朝の龍牙と海斗の説教だった
「海斗だな・・・・・・」
「うん、海斗君だね」
リーディアンと副会長は二人して大粒の汗を流し、頬を掻いたり乾いた笑みを浮かべた
「あなたたちだって同じでしょう?」
「「それは断じて違う!!」」
「リーディアン!あなたは生徒会室にいかがわしい本ばかり持ち込みすぎなのよ!!」
「その証拠はどこにあるんだ!!」
「私のロッカーを開けた瞬間にあなたのロッカーが開いたのよ。それで中から出てきたわ。たくさんね・・・・」
冷ややかな目で飛鳥はリーディアンを見る
それはもう豚や汚物を見るような目で・・・・・・・
「カイドス・・・・・・」
職務中というのを忘れ、副会長は親友の名を口に出していた
それほどまでにあきれたということなのだろう