第8話 戦闘中は真剣に!!
鷺ノ宮・若葉が到着する前、学園内の廊下では龍牙とリアネス対ビートハイスの戦いが続いていた
しかし現状は龍牙とビートハイスの一対一の様なものだった
ビートハイスが手を掲げ黒色の魔法陣を出す
「しかし、あの時は全く相手ができませんでしたが今はこうして戦えて我はうれしいですよ」
「その減らず口から叩きつぶしてやろう」
ビートハイスが出した魔法陣から黒い雷撃が走る
だが、龍牙はそれを避けて窓ガラスを足場にしてビートハイスに飛びこむ
そして雷を宿した右足でビートハイスの左側から顔面めがけて蹴りを放った
「おおっと!!」
ビートハイスはイナバウアの要領でそれを交わし両手を床につくとそのまま左足の先端に作られた魔力の剣で切りつける
龍牙もそれを分かっていて背中に雷の盾を作り出し防いだ
「流石に人間の中にある物を利用している魔術は厄介ですね」
そう、龍牙は人間の中にある神経伝達に使われる微弱な電気を流用している
魔力で雷などの魔術を作り出すより体内にある物でそれを強化した方が早く発動できる
「血、神経伝達、火に使う脂肪。これが人間なのでしょうね。我々には到底できない器用さです」
「かもな・・・・」
龍牙はその言葉と共に右腕の雷槍を二発撃ちだす
ビートハイスは一発目は避ける者の二発目は魔法陣を作り出し防ぐ
辺りに雷の轟音と魔法陣が砕ける甲高い音が響き渡る
「やりますね。吸血鬼相手に・・・・・」
「すまないが、そう言う相手も込みで僕達は格上と戦うためにここにいるんだ」
「格上だからと言って小細工を使わないと言うのは少しなめすぎですね」
その瞬間、ビートハイスのマントから二つの小さな玉が落ちた
それはシューッと言う音を立てて紫色のガスらしく物を吐いた
それが何か分かった龍牙は背後にいるリアネスに大声で
「リアネス!!海斗を連れて外に逃げろ!!」
そう言い終えたときにはその紫色のガスに飲み込まれた
・・・死霊は効かない、魔術も決定力に欠けるためにこの手段をとってきたか
龍牙は毒づきながら息を止めた
おそらくこれは毒ガスだ。
と言うか色からして毒ガスの類だろう、それが解らぬ龍牙ではない
だが、人間が無酸素状態でいられるのはせいぜい二分程度だろう
しかも一分をすれば気絶しビートハイスにやられるのは目に見えている
つまり一分でこれを打破しなければならない
周りが密閉空間でなければ龍牙は派手に魔術を行使しているだろう
だが今は密閉空間で外にはリアネスがいる魔術に巻き込みかねない
そしてこの毒ガスはおそらく龍牙を逃がさないように作りだされているはずだ
ビートハイスならば当然やるだろうな
ならここから逃げられる方法など限られてくる
龍牙はおもむろに右手でこぶしを握った
◆◇◆◇◆◇
毒ガスをまいてから一分が経とうとしていた
「さて、そろそろ神経毒に全身をむしばまれているか、無酸素状態で気絶しているか。まあ、どちらにしても止めは我がさすのですけどね」
ビートハイスも手首を切って血で剣を作り出した
こちらはレイピアの様な形をしておりそれは何かを刺すのに適した物だった
まさに相手にとどめをさすには絶好の武器である
そしてビートハイスはゆっくりと毒ガスの方へと歩いた
あれだけの態度をとっていた少年が今ではすでに毒ガスの中で倒れているのだ
そしてそれをすぐに殺すのもいたぶり殺すのも、そのまま拷問にかけようとビートハイスの勝手だ
それを考えるだけでビートハイスの口から笑みが絶えず浮かんでいた
ビートハイスが毒ガスの中へ一歩踏み込んだ瞬間、バチバチと電線が切られたような音がして毒ガスの中から雷撃が繰り出された
だがそれはビートハイスの狙ったものではない、何かの余波の様に思えた
その後、ビートハイスの前――――奥の方から何かがひしゃげる音が聞こえた
ビートハイスは何事か、と思い毒ガスを下げると
「いない!?」
そこには自分が欲していた物が無かった
代わりに遠くの体育館へ通じるドアがひしゃげ、その前に目的の物が座り込んでいた
「いってぇー・・・・」
少年は胸をさすりながら壁にもたれかかりつつ立つ
「あの傷は・・・・・!!」
少年の胸にはまるで大きな花のような傷跡が出来ていた
しかもそこから絶えず濃い色の血が流れ出ている
先ほどのビートハイスを狙っていなかった雷撃、何かがひしゃげる音、そしてあの胸の傷
それらの情報を分析し、ビートハイスは唇をかんだ
「やってくれますね・・・・・」
・・・これで仕留めるつもりでしたがどうやら無理でしたか
「がはっ、げほっ――――!!」
少年はそこで膝をついてドロッとした血を吐きだす
ビートハイスは床をブーツの踵でたたく
その合図と同時にビートハイスは全身が霧状になり消えて行く
そしてそのまま少年の前にその霧を集結させて現れる
「こちらとしても面倒な敵は先に始末しておくに限りますから。怨むなら自分の能力を――――ぶへらっ!!」
ビートハイスは体育館側から飛んできた何かに頬をぶたれそのままくるくると回転してうつ伏せに倒れた
しかしすぐに起き上がり
「何ですか人がせっかくいいところで!!」
そして飛んできた物を見るとそれは腕だった
しかもその腕は何もつけていなかった
ビートハイスはその腕をもちながら顎に手を当てて考える
しかしそうして考えていると次はわけのわからない衝撃に襲われた
「ぷぎゃあぁぁ!!」
もちろんビートハイスも巻き込まれごろごろと転がって行く
「な、何事、うぎゅう!!」
今度はビートハイスの顔面――――鼻に思いっきり重量が乗りベキベキと言う音を鳴らして折れる
「おっ、すまない」
ビートハイスの鼻を踏んでいたのは相棒である吸血鬼だった
「ひいから、はっはほのへ!!」
ブーツで顔全体を踏まれているため意味の解らない単語を発するしかないビートハイス
ビートハイスの顔からブーツをのけて前を見る相棒の吸血鬼
「お前は我をなんだと思っている!?」
「面倒な上司程度」
「貴様っ――――!!」
両手を上げて怒っているポーズをしているビートハイスを相棒の吸血鬼は片手で制する
「馬鹿騒ぎは後で。今は目の前の敵に集中します」
相棒の吸血鬼はいつもの余裕差が見られないことにビートハイスは訝しげに相棒の吸血鬼の方を見る
その時、体育館へ通じるドアが再び爆発した
ビートハイスはそのドアの方を見るとそこには黒髪を血などで汚し、ところどころ破けている軍服を着ている少女がいた
「おお、龍牙。大丈夫か?」
「先輩のせいで死にそうです・・・・・・」
「ははは、すまん」
笑い事ではないだろ、とビートハイスはげんなりしながらそのやり取りを見る
そして軍服の少女は少年を寝かしてこちらに向かって数歩歩いてきた
その時、敗れた軍服から胸の谷間が見え彼女の顔から流れた汗がそのまま谷間へと流れ込む
それを見ていたビートハイスは鼻血を一筋垂らした
「戦闘中に欲情するのはどうかと思いますが?」
「お前が鼻踏んだせいだろう!!」
相棒の吸血鬼が何か非難するような目つきでビートハイスを睨む
その非難の視線は不服だと言わんばかりに抗議するビートハイス
そしてそんなやり取りを見ていた軍服の少女は身体を半身にして胸の谷間を隠そうとした
それを見たビートハイスは心で叫び声をあげた
・・・・我は別に欲情していな―――――――い!!
しかしその言葉は誰にも届いてはいない
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