第13話 鬼
いろいろと用事が入ってしまい、投稿がここまで遅くなったことに深くお詫び申します
もしも長く付き合っていただけるなら今後ともこの小説をよろしくお願いします
銀髪の少女は戦陽師の少女たちを下がらせて前に出る
その間合いは二メートルの太刀が届く位置であった
振り上げられた太刀はそのまま銀髪の少女の頭上へと向かっていく
「チェックメイト」
睥睨するように仮面の人物が言い放つと同時に銀髪の少女はルービックキューブを頭上に掲げた
そしてルービックキューブで太刀を受け止める
そのことに仮面の人物はもちろんのこと戦陽師の少女たちも驚きを隠せない
唯一驚いていないのは先ほどの落ちたと見せかけた時の奇襲を防いだ少女だけだった
「マージカ。受ケ止メラレルトワ。ハハハ」
「笑ってる場合じゃないぞ」
そう叱責するように鬼に仮面の人物が言うと左の籠手が動き拳を作って銀髪の少女に殴りかかるが
それももう一つのルービックキューブで受け止める
「交響曲第八番、悲愴。第十七番、テンペスト。行きなさい」
そう言った瞬間、先ほど握っていたルービックキューブを手放すとカチカチと言う音とを立ててルービックキューブが回りだす
それと同時にルービックキューブは大きくなりやがて人間ほどのサイズになると先ほど太刀や拳を受け止めている部分が人の手となって行く
「コイツハマサカ・・・・・・」
「円舞傀儡!!」
「残念ながら円舞曲ではないの。私のは器楽曲だから器楽傀儡」
「マズイゾ。坊主」
鬼は焦ったように言うが仮面の人物も分かっているようで
「分かっている!!」
焦ったように声を荒げる
銀髪の少女が一息吐き、両腕を抱くように交差させた
「行きなさい。私の舞台達」
既にルービックキューブはその色を元に顔のない人の形をしており太刀を持っていた傀儡はそれを握りつぶして疾走、拳をつかんでいた傀儡はそれを放り捨てて地面を殴った
それを見た瞬間、仮面の人物は急いで後方へと跳躍する
そして数秒後先ほど仮面の人物がいた場所に上からまるでハリケーンの様な風の渦が直撃する
「ちっ・・・!!」
しかし同時に後ろへと回りこんでいたもう一体の傀儡は両手に西洋の騎兵槍が握られていた
右手にある騎兵槍を振り抜こうとしたがすぐに肩当てがカバーし攻撃を防ぐ
だがそれと同時に仮面の人物には耳障りな音楽が流れ出す
「これは・・・・・」
「マズイ、キクナヨ。坊主」
「無理に決まってるだろ!!」
円舞傀儡や器楽傀儡と言われる人形達はその性質上、音楽を媒体に作られている
自らが体験した音楽と言うものを蓄積させて作り出す
そしてその音楽は呪いとなり演奏者つまり操り手の意志によって発動できる
すぐに仮面の人物の脳内はトラウマで埋め尽くされようとしていた
悲愴―――――それはベートーベンが作り出したとされる代表的な三作のうち一つ
自分の曲にあまりタイトルを付けないベートーベンがつけたと言われる数少ない曲の一つである
緩やかながら哀しみと悲嘆を連想させるような曲が不似合いな戦場の中で流れ続けている
それと同時に仮面の人物の顔は苦痛にゆがみ始める
脳裏にはかつて無理だと分かっていても続けた二人だけの逃避行
そこには愛と言う小難しい物ではなく子供のころだからこそ純粋に守りたいと言う意志でずっと逃げ続けていた
しかしそんな逃避行が長く続くはずもなかった、ハッピーエンドになんてなるはずがないことぐらい子供の時には分かっていた
だがそれでも守りたかった
今は戯言にしか聞こえないがそれでもあのころから守りたいという気持ちは今も変わっていない
だからこそ今、目の前に無謀とも思える相手に向かって挑んでいるのだ
「坊主!!」
その声と共にすぐに仮面の人物が現実に引き戻される
明らかに先ほどとは違う曲が戦場を支配していた
先ほどとは違いテンポが速くまるで危険を知らせるかのような曲に変わっていて仮面の人物は目を左右へと振る
だがそんなことをするよりも速く仮面の人物の目の前から暴風の渦が仮面の人物にぶつかり飲み込んだ
テンペスト――――――日本語にすると大嵐と呼ばれている。ベートーベン七大ピアノソナタの一つ
弟子のシントラーがこの曲の解釈を尋ねた時のベートーベンの発言に由来する曲だ
仮面の人物はその暴風に飲み込まれ地面にたたきつけられる
しかも動こうにも暴風が自身の身体を覆い隠しながら叩きつけてくる
「坊主!!」
返ってきた左の籠手が暴風の中にいる仮面の人物に声をかけるが中から聞こえるのは苦悶のうめき声だけだった
「捕獲完了です。本来はこうするのですよ」
先ほど仮面の人物を蹴り飛ばした少女にまるで先生が間違った答えをただす様な口調で声をかける
「私はどちらかと言えば殲滅向きの戦陽師ですから」
しかし少女は自分は不向きだ、と言うように非は認めたなかった
実際に非などあったわけではないが
「はぁ、これではわざわざ生き返らせた意味がありませんね。彼女にはもう少し有能に育ってほしかったものですが」
「何か言いましたか?」
彼女には聞こえづらかったらしく銀髪の少女に問いかけるが彼女はいいえ、と言って暴風で動けない仮面の人物に向かって歩き出す
暴風の中でも顔を上げて仮面の隙間から殺意と憎悪に満ちた瞳がうかがえた
銀髪の少女は目を細めながら
「大丈夫ですよ。すぐにあなたも彼女と同じ所に行けます」
そういいながら暴風の中に手を入れた瞬間、異質な魔力を肌で感じ顔をこわばらせた
手の先から腕の奥から凍えて行くようなそんな錯覚にとらわれる
それは侵入してきた少女の手に幾つもの刃がつきつけられているような感じだった
そして暴風が吹き荒れているせいでよく見えなかった銀髪の少女が近くに来てようやくその異質な魔力が現出場所を確認し眼を見開いた
仮面の人物の右手は血で汚れ、刀の刀身にも伝うように流れていたのだ
それを確認した次の瞬間には突っ込んでいた右手とは逆の方の手を動かしていた
悲愴と呼ばれた傀儡は暴風の中に騎兵槍を突き刺そうとした瞬間、騎兵槍もろとも傀儡が爆発したのだ
それと同時に暴風は弾け飛びゆらりと仮面の人物が立ちあがる
その姿はまるで起き抜けの少年の様に思えた
彼の右手に持っているものを見て銀髪の少女は舌打ちをする
「やはり彼が成功体に最も近い存在なのですね」
右手には先ほどの様に細みの刀ではなく一般男性の身長くらいはあるであろう大剣を片手で持っていた
それは普通の大剣とは違い柄を護る異形のハンドガードや角、まるで蔓の様に伸びた赤い筋、先の方だけ反った刀身、峰の部分についた無数の棘、それらを見ただけで普通に作られた剣ではないと言うのが分かる
その上仮面の人物の右腕は袖が破れ中から人間とはかけ離れた色をした腕が露出していた
血を何日も放置したような茶色っぽい赤、その上を血管の様に走る黒い筋、そして肘や肩に出ている鋭利でありながらも折れることのなさそうな角が突出していた
仮面のほとんどが壊れ砕け散り顔を隠すための力を失っていたが急激に伸びた髪によって本来素顔として見えるはずの左側の半顔は一切見えない
「ヴ・・・ヴァァァァ・・・・・・」
もはや人間の声でない声でうめき声を上げながら頭を押さえよろめく
「流石にまずそうね、あなたたちはすぐに――――――」
銀髪の少女は振り返りながら戦陽師たちに指示を出そうとしたがそれが命取りだった
後ろを向いたのを直感で察知した仮面の人物はすぐに地面を蹴って疾走し一秒とたたぬうちに銀髪の少女の後ろで大剣を上段に構えた
しかも自身の身長ほどある大剣を片手で――――――
驚愕の表情を浮かべた戦陽師たちを見た銀髪の少女はすぐに後ろに振り返り右手を奥から手前に引っ張るように引くとテンペストが銀髪の少女と異形化した仮面の人物の大剣の間に滑り込んできた
次の時には大規模な粉塵と衝撃波が襲いかかっていた
「灯様!!」
戦陽師の一人が粉塵の中に叫びながら突っ込もうとするがそれをもう一人の戦陽師が必死に止めている
だがすぐに粉塵から飛び出してきた銀髪の少女を見て安心するがそれもつかの間、あとから追ってきた粉塵の中から大剣がまるで砲弾の様に突っ込んできて彼女の右腕を吹き飛ばす
それに苦悶の表情を浮かべる銀髪の少女だがそう感じる暇もなかった
何故なら先ほどとばしてきた大剣をまだ勢いすら弱まっていない状態で銀髪の少女の背後でつかみ取る異形化した仮面の人物
その眼はまるで殺意を明確にしたように赤く発光する
それを感じた瞬間、銀髪の少女と対等に話していた少女が動きだす
このままでは殺される、そう考えた少女の判断だった
たとえ自分が殺されても代替はいる、だが彼女の代替はいない
彼女が考えている間にも疾走し跳躍して彼の後ろへと回ろうとした時、その声は聞こえた
「全く、やりすぎだおまえは」
既に彼の後ろに回り込んでいた人物から発された男の声
それと同時に迷いのない一閃が異形化した右腕を切り裂く
「ガ・・・・グガガガガ・・・・・」
異形化した仮面の人物も後ろを振り向こうとしたがその前に異形化した右腕を切り裂いた男が彼の額に護符を張りつける
「少し眠れ、あとで思いっきり懲罰与えてやるから」
その瞬間、彼の瞳から殺意は消え焦点の合わない瞳へと変わり果てた
そのまま彼は重力に任せるままに落ちて行く
もちろんそれを支えるのは先ほど右腕を切った男だ
「すまんな。うちのが迷惑かけて」
男は肩に仮面の人物を担ぎながら暗闇からともしび程度の灯りの前に姿を現す
しかし顔はぎりぎり見えない
「別にあなたの不手際を今更糾弾する気にもなりませんし、それにあなたはもう連皇機関の人物でもないですし」
あきれたような声でその男に話しかける
男も肩をすくめるようにして言った
「相変わらず趣味の悪い格好してるな。アンタ、俺が少年時代もその格好してなかったか?」
その瞬間、後ろの戦陽師達の顔が引きつる
分かっていながらも言わないでおいたことをこの男はずけずけと、と言う風な感じだ
流石に格好のことを言われて頭に来たらしく肩がふるえている
「どうせ恰好だけ十代にしてろうが、中身はれっきとしたおばあちゃんなんだから無駄だろ?それとも見た目だけで判断するそこらのチャラ男を引っ掛けようとでもしてるのか?これだから女ってのは怖ぇーな」
「お前だっていろんな女に手を出していただろ!!下は小学生から上は新妻辺りまで!!おまえが人のこと言えるのか!?」
先ほどの優雅な口調はどこかへ消え去り怒り狂いながら荒々しい声で男に喚き散らす
小学生・・・、と戦陽師たちが男から距離を取る姿が見受けられる
何気にノリが良い戦陽師たちだな、と男はほほえましそうに見る
「小学生って・・・・人聞きが悪いな。あくまで保護しただけで手は出していない。それにあいつが今なお俺の後をついてきているのは俺のせいじゃない。お前みたいに見た目と中身を偽ってるやつに言われたくはねーよ」
「お前・・・八つ裂きにしてやろうかい?」
口端を痙攣させながら再びルービックキューブを取りだす
「公的機関の長とは思えない発言だな」
「お前が人のことを言えるとは思えないがな。ロリコン」
「だからロリコン言うな。そもそも俺はあんたほど歳上の人間でもねーよ」
それよりも、と言うように担いでいる手とは逆の手でかついている人物を指さして
「こいつが迷惑をかけたな。一様謝罪はしておく。だが―――――」
その言葉には既に先ほどの様におちゃらけた雰囲気は感じられず感じたのは彼の後ろに存在する大いなる神気だった
それを感じた瞬間、戦陽師達は駆けだす
「待ちなさい!!」
銀髪の少女は叱責して止めようとするがそれでも三人は止まらない
そして男はため息をつきながら語る様に話す
「まずは敵の情報をなるべく多く引きだし現状の自分で対抗しうる対抗措置を見つけ出す。むやみやたらに突っ込むのは死ぬよりも性質が悪い。何故ならそれで仲間の足を引っ張るからだ」
男がそう言い終えると左手があわく青色に光り出す
そこに刻まれたのは禍々しい奇怪な魔術紋様だった
どれにも当てはまらないその魔術紋様に銀髪の少女は眉をひそめる
「撃ち漏らすなよ。創偽の海竜王」
一瞬見えたその姿は青黒い体表を全身に纏い黄金の瞳を備えたあまりにも機械じみた漆黒の龍だった
だがその一瞬だけ見えた龍の姿に少女は目を見開く
「こんなところでそれを放ってこのビルが無事だと思うのか!?」
既に龍は口に輝かしい光を携え待っていたのだ
「大丈夫だ。問題ないから」
へらへらとした声で男は返すが少女は逆に緊張で身体を思うように動かせない
何故なら今の彼女ではあの龍のあの砲撃に耐えられないのだ
だがそんな緊張を余所に二人の少女は男へと疾走する
そして男が手を払うと見えぬ龍のよって口から光線が吐き出された
それはまるで無数の小さな針の様な光線でそれは何百という本数を一気に吐き出して屋上を一閃する
辺りは衝撃波で吹き飛び砂煙を上げて爆発する
だが少女はそんなバカみたいな攻撃の中でも自分が無傷であることが確認するとすぐに腕で砂煙を払った
そこにいたものに少女は目を疑った
「これは誰の客だ?」
男は先ほどまでのへらへらとした視線とは違い疑惑と怒りの満ちた視線で少女と自分の間を睨む
少女も自身と男の間の物に目を奪われたのだ
他の者たちもその現実に硬直しきっていた
ただ唯一、男だけが知り、予感し、全てを見据えていたのだ
故に言葉を紡ぎ、疑惑と怒りの視線をぶつけることができる
そこにいたのは全身を鎧で包み風に長く透き通るように美しい少し水色が混じった銀髪をなびかせながら左手に持っている大盾を突き出しているような姿勢の〝鬼″がいたのだ
西洋の甲冑に身を包み、右手には砲撃型の騎兵槍、そして左手には突き出されるように構えている大盾
そして顔だけを隠すように作られた仮面の横―――――側頭部から捩じり曲がった白い角が出ているのだ
先ほど銀髪の少女たちを襲った奴は茶色っぽい赤だったがこれはそれとは真逆であり綺麗と思わせるほどだった
「あー、やっぱこっちも誰かに任せた方が良かったか、九尾は後回しにして先にこいつを片づけるようにあいつらに言い渡しておくか」
頭を掻きながら男はそうため息を吐くように呟くと再び龍に命じる
「創偽の海竜王!もう一度焼き払え!!」
硬直している他の奴らを置いておき男は攻撃を命令するが少女は大盾を前に付きだしながらも騎兵槍を引き絞る
そこには先ほど龍の神気とは違い禍々しい負の神気を帯び始める
見ていると気持ち悪くなりそうな、おそらく慣れているものであってもこの禍々しい神気に当てられた物は吐き気を催すだろう
それほどまでに不快な感じだった
「マスティマの槍。障害を取り除け」
透き通るようなまるで女性のオペラ歌手の様な声からそう紡ぎだされた言葉と同時に禍々しい神気によって何倍にも大きくなった槍は発射される
その切れっ先はそのまま吸い込まれるように見える流の口内に突き刺さり男が目を見開く
「何だと!?」
収束していた光が行き場を失い龍の口内で幾重にも渡って爆発する
そのまま龍は今度こそ本当に見えなくなり片方の神気が失われる
放ち終えた槍を引き、それとは逆に身体を押し出すように男に向かって疾走してくる
「くっ・・・・!?」
後ろ越しに帯刀していた刀を引き抜き下からすくいあげるように受け止めてそのまま上へと槍を逸らして仮面の鬼の懐へと突っ込む
しかしそれでも普通の人の動きより鈍い
何故ならその肩に仮面の男が乗っかっているからだ
そして仮面の鬼は男から目を離してはいなかった
そう、既に避けられることぐらいは予測の範囲内だったのだ
左脇の下から蛇の様に何かが伸びて男の胸元へと走る
前傾姿勢を取って懐に飛び込んだ男のが驚愕に顔をゆがめる
しかし男は横から来た衝撃に押し出されたたらを踏みながら仮面の鬼から距離を取る
代わりにその脇下から出てきた何かを受け止めたのは先ほどの三人の戦陽師の一人、銀髪の少女と対等に話していた子だった
その少女が暗闇の中あまりはっきりとはしない光量が顔に当たると男はまた別の意味で目を見開いた
何の交じりっ気のない漆黒の黒髪をポニーテールにしているがところどころ髪がはねている
そして少女は剣で受け止めながら鋭い瞳で仮面の鬼を見つめる
「お前・・・・・琴音、なのか」
琴音と呼ばれた少女は刀で払いのけながら男の方に視線を向ける
「私はあなたのことは知りません。誰ですか?」
「いや、別にただ〝昔″の知り合いだった男だ」
そういいながら男は立ち上がり警戒する
銀髪の少女や他の戦陽師二人も彼女を囲むように立つ
それを見た仮面の鬼は
「彼我の戦力を見て、撤退を開始する」
「逃がすとでも―――――うわっ!!」
全員が同じタイミングでそう言った
何故ならいきなり大盾が発光し男たちの眼をくらましたからだ
いきなりの発光に加え夜と言うこともありしばらく目に痛みが走っていたが攻撃を仕掛けてこなかったのは幸いと言うべきか、男はその場で膝をつく
そしてしばらくすると目から痛みは引き徐々に目を開けれるようになった
男が顔を上げると目の前には銀髪の少女が立っていた
「良いように使ってくれたものだ。駒成」
そう呼ばれ男――――――駒成は肩をすくめた




