第4話 不幸の始まりでーす
「しかし、長かったな。説教」
「どちらかと言えば弄ばれていただけの様な感じがする。主に僕が」
あの後、落ち込んだ僕は慰めるのか弄んでいるのか解らない時間が過ぎて既に始業式の半分の時間を費やしていた
龍牙はため息をつきながら階段を下りる
そのため息で出た空気の代わりに新しい空気を吸い込んだ瞬間、空気に混じる異臭を感じた
後ろの海斗に手で止まるように指示を出す
「どうした?」
「鉄・・・?いや、血っぽいにおいがする」
「錆ついた鉄でも露出してんのか?でもこの学園って最近改修工事されて新しくなった上にでかくなったはずだよな?」
「ああ、だから錆ついた鉄が露出しているはずがない。だとすれば・・・・・」
階段を下りてつきあたりに顔を出す
そこには血だまりの中に倒れている学生がいた
龍牙は急いでその学生に近づく
続いて海斗も後ろをついて行く
「おい、これって」
「ああ、死んでいる。でも何で?この学園を知らない人間なんていないはずだ。戦闘訓練を受けた生徒ばかりの学園に簡単に犯罪者が入り込むとは思えない」
「だったらなんでこいつは死んでるんだ?」
「さあな、何か起こってるわけだけど、こいつはどうやら抵抗もなく心臓を一突きにされたらしい」
学生の手を見ると血以外で特に汚れた部分が見当たらない
爪の間にもいるいの付着物がついた痕跡もない
龍牙がもう少し細かく見ようと学生の手に顔を近づけた瞬間、その手によって龍牙は顔をつかまれそのまま押し倒され、マウントポディションを取られた
「ぐっ――――!?」
そのまま開いたもう一方の手で龍牙の首を絞めにかかる
「がはっ!?」
しかも人間にしては力が強すぎるために十秒と持たずに首の骨を折られそうだった
しかし、そばにいた海斗が顔に蹴りを思いっきり叩き込みその学生を引き剥がした
「どうやら遠慮なんてしてる場合じゃねーな」
海斗はネクタイを緩めて呼吸を楽にする
「おそらく心臓は止まっているから魔力は送り出せないはずだ。だとしても奴も戦闘訓練を受けた身と言うことだけ忘れるな」
「言われなくても分かってるよ」
首をさすりながら龍牙は立ちあがる
魔力の源である心臓が今動いていないならば魔術は使えない、と言う海斗の仮説はおそらくあっている
なにせ僕を捕まえた後、魔術で殺してしまえばそっちの方が早いからである
だがそれをしなかったということは
「死霊を使う死霊傀儡術師の類か?」
「おそらく。囮は龍牙の方が適役だろう」
「ああ、スピードで翻弄する。お前はしっかりと狙えよ」
「分かってるよ」
そう話しているうちに学生がこちらに向かって突っ込んできた
海斗は後ろに、龍牙は前に走る
龍牙は二歩目で拳を突き出した
それは相手の学生もこちら以上のスピードで接近してきたからである
そして学生は龍牙よりも速いスピードで拳を避け態勢を低くし左足を支点に回し蹴りをたたき込んできた
龍牙も腕をすぐに引いてしゃがむ
だが学生の方はすぐに回し蹴りを途中で止めそのままかかと落としをする
マジかよ!!人間業か!?
いや、そもそも操られているのだから人間の域は超えているなと思いつつ、踵落としを両腕をクロスして受け止める
重ッ!?
足はどんどん力と重さを増していき、龍牙はとうとう膝をついた
後ろを見ると海斗がすでに魔術を起動させようとしていた
しかしそれが命取りとなった
龍牙は背後を見ているが故に、視界が狭まり学生の攻撃が分からなかった
学生は支えである左足で龍牙の横面を思いっきり蹴った
骨が砕けるような音を立てながら龍牙は空き教室のドアを破り転がった
「龍牙!!」
海斗は学生を睨んで魔術を行使した
学生がいる左右の壁からいきなり、四角形の岩がと出現し学生をプレスした
それこそ逃げる間もなく左右の壁から岩が迫り挟み込まれたはずだ、と海斗は砂煙が上がっている場所を見つめる
しかし砂煙がはれると、思いもよらぬ事態となっていた
学生は両手を拳にしてその岩を砕いたのだ
「そんな、ばかな・・・・」
学生は両手の骨を鳴らし、海斗に向かって走った
海斗も魔術で岩の壁を次々に出すが全て殴るというひとつの動作で破壊されていく
「こんなの人間超えてるぞ!?」
そう毒づきながら相手を遅らせることしかできない海斗は歯を思いっきり噛んだ
「防御は防御なりの戦い方をするさ」
学生が海斗との距離一メートルほどに達した時、学生は腰に拳を握りしめた腕を構えていた
「アッパーでもくらわせる気か?」
海斗は口端に笑みを浮かべながらそう学生に問う
もちろん学生が答えるわけでもなく、ただその拳を海斗めがけてはなった
それと同時に海斗は岩をアッパーが来る腕めがけて下から突き上げた
そのまま腕ごと身体は天井にたたきつけられた
海斗は更に追撃をかけ、両足ともう一方の手を岩で固定した
「ふぅ~・・・・・」
海斗は尻餅をついて天井を見上げる
「新学期早々災難だぜ。まったく」
しかし死体相手にこのざまでは先が思いやられそうだ
そのまま海斗は頭を掻いて廊下に寝転がった
そして目をつむろうとした