第21話 アフィリーナ・クロレス
龍牙がアフィリーナを背負い止まっている宿に帰ると裏口のそばに一人の人物が立っていた
それは龍牙も予想できていた故に特に顔を確認することもなく声をかける
「カリアナさんか」
「すみません。姫がご迷惑をおかけしたみたいで」
成程、カリアナさんはアフィリーナのことを姫と呼ぶようだな
なんてことを思いながら背中に背負っているアフィリーナを起こさないようにカリアナに渡す
「先に姫を寝かせてから話をさせていただきます」
「ああ、僕はそれで問題ない。下で待ってます」
はい、と短い返事をしてカリアナは裏口から中に入りかけ足で階段を上がった
そして龍牙はカウンターの方に行き適当に何か飲み物を探す
ちょっとぐらいならここの飲み物を飲んでもいいと言われているため龍牙はカリアナがつけたであろうろうそくの火に照らし出されながらその飲み物を見る
―――――とは言ってもそのほとんどが酒やワインと言ったものであり普通龍牙の様な未成年は飲んではいけないもんだが
龍牙はその中から適当に酒を取りだす
流石に寝起きにあれだけ動いてしまってはこれから寝るに寝られないしちょうどいい睡眠剤になりそうだと思いコップに半分ほど注ぐ
ちなみに龍牙が飲もうとしているのはウォッカだ。別名ではウイスキー、アクアビットとも呼ばれている物だ
おそらく日本経由でここに輸入された代物だろう
「お待たせしました」
カリアナは寝間着の上に上着だけ着て出てきた
龍牙の寝巻は部屋着と大差ないので別段おかしいところは何もない
「別にいいですよ。僕も酒を選んでいたし。いります?」
「私は結構です。と言うよりもあなた未成年でしょ?」
「まあ、ここにいる以上ここの法律が適用されますし、そもそも僕は昔から悪酔いが出来ない〝体質″ですから」
「体質、ですか・・・・」
「ええ、そうです」
そういいながら龍牙はコップを持ってカリアナが座っているテーブルに行く
そして龍牙が一口だけコップにある酒を口に浸した
しまった。少し味が薄くなってる、もう少し酒と水の量を考えるか
龍牙がコップを置くのを確認するとカリアナが口を開けた
「あなたは姫が過剰なまでの恐怖をあらわにしている姿を見ましたね?」
「ああ、正直言ってあれは尋常ではないと思ったがやっぱり何かあるのですか?」
質問に答えながらも龍牙は質問を返す
「はい、彼女自身が自ら内に秘めた罪、というものでしょうか。それが彼女の恐怖を後押ししています」
「罪?」
その言葉にカリアナは静かに頷く
「姫は昔からやんちゃのすぎる子でした。それは勝手に城から抜け出して遊んだりと従者の者はいつも姫を追いかけるのに疲れる毎日でした」
まあ、やんちゃな姫ならありそうだな。事実子供って言うのは興味惹かれた物に対して執着心がすごいからな
「そんなある日。近くの湖畔で遊んでいた時にあることが起こりました」
それは、と龍牙はあえて聞かない。どの道ここまで来たら話してくれるのだ
ならばわざわざせかすような物言いはやめよう、と思い龍牙は酒を飲む
「竜がその湖畔に現れたんです」
龍牙は目を細めた。
つまりあれは竜を見たせいで身体が動かなくなったのか
「その竜は従者五人をなぎ倒し姫に近づこうとしました」
そして僕に逃げろと言ったのはこれのせいか、自分の目の前で誰かが殺されるのだけは絶対に嫌だということでありかつてそれを行ってしまったがゆえの勝手な罪悪感を持っているということか、だったら・・・・・・
「話の腰を折るが一つだけ不可解なことがあった」
龍牙はテーブルに腕をついて両手を組みながらカリアナを見据える
「彼女―――――アフィリーナ・クロレスは僕に逃げろと指示を出しておきながら僕を逃がさぬように服の裾をつかんできた。この矛盾は一体なんだ?」
「そんなことがあったんですか?」
少し怪訝そうな表情を浮かべた後、何かを考え込むように顎に手を当てた
「姫は・・・・ですけど・・・・・・・・」
「あのー、僕は一切分からないんですけど・・・・」
「でも、ペンダント・・・・・・」
ペンダント?
龍牙はその言葉と今ポケットの中に入っている物を確認した
そして龍牙はそのポケットに入っている物をテーブルの上に出す
「なぜあなたが!?」
そこには裏口で拾ったペンダントが置かれていた
「裏口で拾った。裏口は対して人が通らないしちょうど裏口が開いていたから誰かが外に出たのだと思い行ってみるとアフィリーナ・クロレスに出会ったんだ。つまりこれはアフィリーナ・クロレスのだな?」
「はい、間違いありません」
そういいながらカリアナはペンダントの中身を確認する
「姫が恐怖に立ち向かうために必要なものなのです。これは」
「これが心の支えになっていたのか」
「はい、彼女が唯一信じることのできる人物の写真が貼られています」
龍牙はその言葉の中で引っ掛かる物言いがあった
その言葉を龍牙は聞き返す
「唯一とはどういうことだ?貴方は違うのか?」
その言葉にカリアナは初めて龍牙から目を逸らした
別に僕やリアネスが信じられないのは分かる。そもそもいきなり会ったやつを信用しろという方がおかしい。だれしもが絶対に心に持つ疑いと言う者があるせいだ
だがカリアナは違う。同じ吸血鬼である今まで従者を務めていたはずだ
なら信頼関係というものが構築されているはず・・・・・・・
「姫は絶対に誰も信じないのです。ある事件のせいで」
「事件?」
「はい、吸血鬼の中ではかなり大きな事件です。数十年ほどたった今でも鮮明に記録されたままです」
数十年って。まだ僕が生まれていない時期の事件か
ちょっと待てよ?じゃあアフィリーナ・クロレスや目の前にいる人は一体何才なんだ?
でも聞いたら殺されそうだけど、でも知りたい!!
「先ほどの話の続きになりますがその竜を倒した吸血鬼こそがこの事件の発端者であり犯人なのです」
「名前は聞いてもいいですか?」
「今は亡き人物です。それでもいいのなら」
「構いません」
それまで普通に聞いていた龍牙の喉が少しだけ乾く
「紅月・餓流です」
その言葉を聞いた時、龍牙は少しだけ口が動く
悟られぬように大きく息を吐き出す
「吸血鬼にしては珍しい名前ですね」
「父が日本人から吸血鬼になった人物で性が月島、母が吸血鬼で性がクリムゾンだったため、そこから取って紅月と言う性にしたようです。それぐらいしか私には分かりませんが・・・・・」
「人から吸血鬼に?」
龍牙は怪訝そうな表情でそう質問する
それにカリアナは一つ頷き
「はい、吸血鬼が自身の血を相手の体内に流せば半吸血鬼になることが可能です」
半吸血鬼と呼ばれるものであり吸血鬼と人の間の種族である。
人より魔力は強く、吸血鬼より魔力が弱い。全てにおいて人と吸血鬼の間の力を持つ種族だ
「いえ、僕の質問に答えていただきありがとうございます。では話の続きをお願いします」
「はい、その紅月さんが姫を助け、その後の従者となりました。勿論従者になりたての当初は姫の血と死というものを目の当たりにし心を閉ざしていましたがそれを直したのも紅月さんです」
龍牙はその話を聞きながら酒を味わいもせずのどに流し込む
「もちろんその後は紅月さんの後ろをついて歩く回るほど懐かれ二人はいい意味で主と従者になれたのだと思われました」
しかし、とカリアナは重苦しく息を吐くようにして言う
「紅月さんは王にこの国を出て行くと宣言したようです」
龍牙はただ静かにその話を聞く
「その理由は不明ですが、紅月さんは少なくとも吸血鬼国家には必要不可欠の人物でした。なので王もそれには猛反発しました」
何となく話しが見えてきた気がするな
「そこで事件は起きました。国から抜け出そうとした紅月さんが発見され直ちに捕獲命令が下り様々な吸血鬼が彼を捕獲しようとしましたが呆気なく失敗に終わりました。それだけならよかったのですが―――――」
どうやらそれだけではないようだ。これだけでも結構なものだろうにと思いながらその話の続きを聞く
「その道中で紅月さんは姫に出会ってしまったんです。返り血で汚れた状態で周りには死体が転がり片手には吸血鬼の武器が握られていました」
それは最悪だな、と思いながら龍牙は頬が引きつる思いをしていた
「そして姫に紅月さんはこう言ったのです」
カリアナは目をつむり思い出すようにして言葉を紡ぐ
「『全てはお前の父が悪い。怨むならお前の父を怨むがいい』と言い残して去って行ったんです。それが姫の最初で最後の従者の裏切りとなったのです」
成程、それだけ強烈な最後を見せられれば確かに人を信用できなくなるだろうな
「その後、姫は父を怨み続けて、今でも誰も信用しようとはしません。おそらくあなたの服の裾を引っ張ったのは現状理解ができない状態でありかつ頼れるペンダントもなくし行きの場のない恐怖が近くにいたあなたに向いただけだと思います」
「成程、人は恐怖を極限まで感じると何をしでかすか分からないですからね。吸血鬼も似た者と言うことでしょう」
そう言って龍牙はコップにある酒をすべて飲み干した
「これが彼女の他人を信じず竜に恐怖する理由です」
「一様は理解しましたが、一つだけぶしつけな質問になりますがいいですか?」
「はい?なんでしょう?」
「一体あなたたちは何才なんですか?」
「本当にぶしつけな質問ですね。女性に年齢を聞くなどと・・・・・」
ため息をつきながらそう言うと彼女は席を立ちあがりながらこう言った
「あなた方と〝精神年齢″は同じですよ」
そう言うと階段を上がって行った
その間、龍牙はコップを洗いその中に再び水を入れて一気に飲み干した
「面倒なことになったな・・・・・」
そしてまた龍牙はコップを洗った




