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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

らじこん!? (軽い版)

作者: どんゆう@Project_Catty

IDのプロジェクトとは内容は全く関係ない、中の人のラジコン経験から書いた架空小説です。一応連載版も書き始めてみてます。ラジコン好きな人も書き手さんも色々とツッコンで下しあ頂けると幸いです。

小さな頃から聴いてきた、丘の上からの甲高い蝉のような音。今までは気にも留めなかった。

自転車通学の途中でも、町に出かける時も聴こえてきたあの音。

その音は私が知らなかった激しい戦いが奏でるBGM。

そしてその出会いが私の運命を小さくても変える存在になるとは思ってもみなかった。


初春、久しぶりに都心へウィンドウショッピングして地元の駅からの一寸距離のある帰り道を自転車漕いでいた。成長期とは言えまだ女子中学3年生な私には少々しんどい距離。

家の近くまで来ると日は少し傾き、辺りは田んぼやらで自然が増えて寂しい雰囲気。

そして今日も丘の上から甲高い蝉のような音が聞こえる。

みー!みー!み!み!みー!


でも今日は何となくその音が気になった。

出先でちょっと嫌な事をした後だったので気分か感覚が鋭くなっていたのかもしれない。

気まぐれに丘の上へ行ってみようと思った。

上り坂をうろうろ探し、舗装の切れた交差点にやっと入り口を見つけた。

木々が回りに生い茂る凸凹な結構長い坂。

私は息切れして愚痴を少し言いながら自転車を押して坂を上る。

大きいベレー帽に流行の厚手のポンチョコート、一寸ヒールの高いレースアップブーツでは汗が出て足も痛くなる。


坂を登り終えるとその音はもっと甲高く、激しく聴こえた。

その方向へ行くと、広い場所に出た。

芝生で端っこには数台の車が駐車され、中央には腰の高さ位の頑丈そうなフェンスが立っている。

透けて見える限りは舗装され、あちこちと赤白で縁取りされた緑の島が浮いているようにみえた。

そこからいくつもの、その音が激しく聴こえる。

フェンスの右手には長い高台があり、数人の大人がフェンスの内側を右左と見ていた。

両手で黒い見慣れないものを持っている。

なんだろう?と思いながら広場中央、フェンスの傍へ近づく。

その中で何かが、目に追えない速さで甲高いその音を残して過ぎ去っていく。

大きさはA4厚手の雑誌より大きいだろうか?でもその動きは速く細かく、はっきりと認識できない。

ただ鋭い何かと感じた。

それは舗装路を、島の間を縫うように走る。そして長い直線舗装路。

その音がまるで…今まで興味がなかったモータースポーツ、F1エンジンの排気音のように聴こえた。

頭に浮かんできた言葉…ラジコン。

今まで男の人のおもちゃな趣味と思っていた、興味も無かったそれだった。

一台の車がすごい勢いで私の方へ向ってきて、右に曲がり長い直線を全開で甲高い排気音を残して

走り去って征く。

何も言葉が出なかった。よく分からないけれど何故か感情が高ぶり、心を激しく揺さぶられた。

私は自転車を押しながら、無心にフェンス沿いを歩いて車を見ていた。

暫くすると二台の車が接近しながら直線を、カーブを曲がり追いかけっこをしている。

その二台から激しい闘争本能を感じた。

前の車からは抜かせない!後ろの車は冷静にどこからかで必ず抜いてみせる!

私の方が気迫に襲われていた。

入り口から直線の反対側の端まで歩いてゆっくり車とコースを一心不乱に見ていた。

これは何?この激しい雰囲気と空間は?そして、どうして私はドキドキしているの?

そんな事を考えていたら、突然背後から声を掛けられた。

振り向くと40歳前後だろうか?ニコニコしたおじさん…よりもまだ青年という感じの人が立っていた。

彼は、珍しいね?ラジコンが女の子から観られているなんてと言った。

不思議な言い方。普通なら女の子がラジコンを見ているなんてと言うはずだ。

彼は、どう?これ1/8エンジンレーシングカーってカテゴリでオンロードでは最速で僕も最近始めたんだよ、と言った。

意味は良く解らなかったけど、言いようの無い迫力に気圧されていた。

高台から数人の男性が彼に声を掛ける。

電動カーのワールドチャンプさんー奥さん居るのに若い子に手を出すなんて犯罪ですよーとか、

そろそろ走りませんかー?とか一戦お相手してくださいよーとか。

え?ワールドチャンプ??この人、世界一の人なの!?目の前の優しそうなおじさんがそんな人に見えなかった。

彼は手を大きく振り、分かったー準備して走るからーと言い残し高台の下へ去っていった。

私も自転車を邪魔にならない位置に置き、高台の下へ向かった。

そこは長テーブルがいくつも並び、各々のテーブルの上にはタオルを敷いて良く解らない機材や車が置かれていた。

さっき声を掛けた彼のテーブルに向かうと、彼は車の準備をしていたようだった。

手際よく燃料を入れ、タイヤを取り付け、ボディを被せる。白地に鮮やかな緑のファイヤーカラー。

彼の隣のはす向かいには私と同じくらいの女の子が同じように車を準備していた。

彼女の顔を見て、あっと驚いた。不良っぽいけど妙に本の虫なクラスメートだった。

彼は知り合いかな?と呟く。

彼女は私を見て、ああ、あんた同じクラスのお嬢様じゃないか、とチャンプに聞こえるよう言った。

二人は各々の車に何かケーブルを繋ぎ、長細い箱の上に乗せた。

どうやら箱の中にモーターが入っているらしく、その音がした直後に今度は車二台から甲高い排気音が鳴り響く。

私はぞくっと震えた。何だろう、凄い、ドキドキする、ワクワクする、観てみたい。

二人は高台とコースの境目の舗装路付近に立ち、車を微調整しているよう。そしてその舗装路に車を置き、高台に昇って行った。

私は追い掛けて高台階段の下付近で彼らの車を見ていた。

二人の車はそこからコースに入る。コース上には他の車はいなかった。

二台は数周軽く走っていた。そして私が高台の彼らの顔を見上げた瞬間、二人の表情が変わる。

同じように見えるが、彼の目つきと雰囲気は鋭く圧倒的になる。

彼女もそれに負けじと目を吊り上げ、闘う雰囲気を激しくぶつけていた。

そして二台とも凄まじい排気音とスピードで競い始めた。

その速さとお互いの迫力はさっき走っていた車とは比較にならない、別次元で高いものだった。

誰もが息をのみ、静かに見ていた。いえ、誰もそうするしか出来なかった。言葉を発せなかった。

私は階段を昇り、二人の傍で競争を、いえ本当のレースをかいま観た。

心臓がドキドキする、ワクワクする。目が離せない、そして…私もやってみたい…走ってみたい…。

そんな強い想いが心も体も支配していた。


Fin


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