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NO.03




 天城がその今にも折れそうなほっそりとした肢体をくるりと後ろへ回すと、顔面に恐怖を張り付けた桃色の髪の美少女が座り込んでいた。


「君は?」

「僕? 僕は秋月陽。ねえ、なんで僕こんなところにいるのか知らない?」


 秋月陽と名乗った少女は迷子になった幼い子供のように体を震わせ、顔からは血の気も失せてしまっている。


「おや、奇遇だな。私もここがどこか知らないのだ」

「そ、そうなんだ」


 今にも気を失いそうな衝撃を受けていた秋月だが、目の前の自身よりはるかに小さな少女がまったく動揺していないことで気を取り直しなんとか理性を保つ。


(落ち着け、落ち着くんだ僕。こんな小さな子だって僕と同じ目に合ったのににこにこしてるじゃないか!)


「僕、頭がふらふらしててよく分かんなかったけどあそこの人たちとお話してたよね。紹介してくれないかな」


 そして天城を無意識のうちに心の支えにした秋月は天城の後ろで自分を見ているチェリルと奈々子を不審視する。


「私も彼女たちについては知らない。お二方、よければ我々に自己紹介をしてくれないだろうか」


 裸だと言うのに堂々とした態度の天城に促され、奈々子が口を開く。


「そうね、そうしましょう。私は志井奈々子。スキルを読み取る者、スキルリーダーとしてチェリルに召喚されたの。これからあなたたちも勇者様のためにがんばりましょう」


 意味が分からず数瞬動きを止めてしまう天城と秋月。


「すまない。君がなにを言っているか理解できない。スキルリーダーとして召喚されただって?」

「そうだよ! ふざけていないで説明してよ!」

「あはは。嘘じゃないんだけど信じてって言っても無理かもね」


 苦笑する奈々子は、意味ありげな笑みを浮かべる。


「じゃ。ちょっとやってみよっか」

「志井奈々子さんだっけ? もういい加減に……え?」


 スキルを読み取るだって? こいつは頭がおかしいんじゃないのかと奈々子に詰め寄る秋月の気勢は目の前で行われている不可解な出来事に削がれていった。


「それはなんだ」


 そんななかでも興味深そうに眺める天城の質問に内心得意な思いで奈々子が答える。


「言ったでしょう。これが私の能力よ」


 二人の前で奈々子は空気中に文字列を浮かび上がらせて見せた。駅で見かける電光掲示板そのままに多数の小さな電球を組み合わせたような文字列はこう表記していた。

 ”天城文月 対洗脳Lv.7 異界魔法Lv.8”

 ”秋月陽 創造Lv.7”

 あいにく奈々子の能力は文字を反転させる機能は持ち合わせていなかったので、左右が逆さになった文字を読み取った秋月はなにを意味するかが理解しがたく目をしばたかせながら二度三度と読み返す。

 一方の天城は魔法の存在する世界出身なため動揺することなくこれがなにを意味するかを尋ねた。


「秋月さんの創造は分かりやすいわ。つまり物を創る能力ね。チェリル、あなた浩平の望む通り召喚した訳ね」

「でも、天城ちゃんでいいのかしら」

「いや、ちゃん付けはよしてくれ」

「分かったわ。でも、対洗脳というのはなんなのかしら? チェリル分かる?」


 頭を勢いよくぶんぶんと振り回して否定するチェリル。


「ふうん……まあいいわ。あなたも自己紹介しなさいよ」


 びくんと体を震わせたチェリルはごくりと喉を動かすと口を開く。


「は、はいっ! 私はオモ王国第三王女チェリルです。以後なにとぞよろしくお願いします!」

「あなた王族でしょうにそれでいいの? ましてこの子にまで敬語使わなくてもいいじゃない」

「すいませんすいません! これが私の普通なんです!」

「もういいわ」


 勢いよく頭を下げる王女を前に呆れてみせる奈々子。威厳も何もあったものではない。


「あなたたちも自己紹介してくれない?」


 場の雰囲気を変えようと天城を見る。それを受けた天城はこくりとうなづき自己紹介を始める。


「うむ、私は天城文月。日本魔法技術大学四年だ。魔法陣の起動に失敗してここに迷い込んだらしい。よろしく頼む」

「えっ」


 耳慣れない大学の名前に秋月が思わず声を上げる。


「どうした」

「日本魔法技術大学ってなにさ! 日本にそんな変な大学ないよ!」

「失礼な。魔法においては日本で一二を争う学術機関を変と呼称するか」


 当然のように魔法のことを口にする天城を前に秋月の頭の中で日本の定義がぶれる。日本って何だっけ。魔法とか使う魔法の国だっけ? そんな訳がない。


「いやいやいやいや! なんで魔法が学術になっているの! おかしいよ!」

「私も魔法のある日本なんて想像もつかないけど、大学生だったのにも驚きだわ」


 先ほどスキルリーダーなどと自分を呼んでいた奈々子にも奇異に聞こえたようだ。


「た、確か大学というのは齢十八からなのでは?」


 自身の記憶を確かめるよう呟いたチェリルはふと気づいてしまう。


「え、ええ! あなた何歳なのですか?」

「私か? 今年で二十二になるな」


 全員が驚異の眼差しで天城を見つめる。そこで天城も気付いた。自身の体が以前のものでなかったことに。


「どうかなされましたか?」


 天城を除く全員が驚きで無言となっていた室内に、ユリスが天城と秋月に着せようと持ってきた衣服を手に戻って来た。


「ユリス」

「あら、もしかして二人の着る物を」

「はい、さあこれをどうぞ」


 天城と秋月に衣服を手渡すユリス。


「ありがとう」

「え、これを着るの?」


 二人に手渡されたのは、この場にいる全員が来ているような上半身がぴっちりしてて下半身がふわりとしたスカートのワンピースだった。


「ご不満でしたか。では今すぐ代わりの品を持って参りましょう」

「できれば男物の服ないかな」

「男物でございますか?」


 無表情だったユリスの顔に困惑が見える。


「駄目かな。出来たらでいいんだけど」


 秋月、愛想笑いしながらおねだりをやめない。


「いえ、ご要望でしたら用意いたしましょう」

「その服気に入らなかったの?」


 奈々子が口を挟む。何でわざわざ男物なんか思っているのがありありと分かる表情をしている。


「なんて説明したらいいのかな」


 言ったらおかしいと思われるかもしれないとは思いながらも、誤解は早く解いておいた方がいい。そう思い、一呼吸置いて。


「実は僕、男なんだ」


 と告白した。


「なにを言っているの? あなたの体、どう見たって女のものよ」


 案の定、奈々子やチェリルは怪訝な表情になる。

 だがその話題は打ち切りになった。扉をノックする音と共に男の声が室内に響いた。


「やあ、入っても構わないかな」


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