NO.01
”人間の国”を自称する王国にあって、その頂点となる者達が住まう宮殿が一室に彼女はいた。
シルクのように煌めく白銀の長髪に、王族の証でもあるルビーのような赤い目。それに加えて女性の羨望の対象となっている白磁のような肌に美を体現したようなプロポーション。王国の至宝とも言われる美貌の持ち主であり、また至宝でしかないと蔑まれてきた王国第三王女チェリルは一心に勇者の為に祈りを捧げていた。
ああ、勇者様。あなた様のおかげで私は生きる喜びを持つ事が出来ました。あなた様のおかげで皆からの畏怖と侮蔑が消えました。あなた様のおかげで私の力は目覚めました。全てがあなた様のおかげ。
ならば私はあなた様の為に祈りましょう。あなた様の為だけに祈りましょう。
それにしても私の王国の食事があなた様のお口に合わなかったのは残念。嗜好品の類もあなた様のお国には全く敵わないなんて。
ええ、勇者様。お望みならば叶えましょう。力ある者を呼びましょう。
でも、叶うなら、あなた様の本心を聞かせて欲しい。私への偽りなき想いを聞かせて欲しい。男の人なら気楽にお話出来るのかしら?
駄目よ、雑念が入ってしまっては祈りが届かないわ。
一心に祈りなさい。
そして召喚するのです。勇者様の望む女性をお呼びするのです。
昼夜問わず祈り続けて一週間が経過した頃。チェリルは召喚の時が迫りつつある事を悟り、勇者を呼びに行くよう傍にたたずむ侍女に申し付ける。
「ユリス。召喚がもうすぐ起きそうなの。勇者様を呼びに行ってくれる?」
「かしこまりました、チェリル様」
ユリスは勇者のいる部屋へ向けて、広大な宮殿を足早に進む。五分も歩いただろうか。ようやく勇者の部屋に辿り着いたユリスはノッカーを二度叩き室内にいるであろう勇者へ呼びかける。
「浩平様、ユリスでございます。入ってもよろしいでしょうか」
「構わないとも。入っておいで」
美麗な装飾の施された扉を開くと四人掛けのソファが対面式に二脚並べられ、その間には大理石で出来たテーブルが置かれた応対セットがすぐ目に入る。ユリスの手前側のソファには黒髪をショートにした清楚な美少女が座り、その向こう側のソファには同じく黒髪の人当たりのいい好青年がユリスに向かって微笑みかえている。
「どうしたんだい。今は朝食を取っている所なんだけど」
ユリスがテーブルに目をやると、未だ一匙も飲まれていないスープやちぎったばかりのパンなどが置かれている。食事を始めたばかりらしいと気付いたユリスだが、今は主人からのメッセージの方が優先度が高いと判断し口を出した。
「お食事中申し訳ございません。ですがチェリル様の召喚の用意が整いつつあるとの言伝でございます。来て頂けませんか?」
「それは大変だ。すぐに行かないと行けないね! 着替えて来るからユリスと奈々子は先に行っててくれ」
そう言うなりバスローブ姿の浩平は立ち上がり、部屋に入って左手にある寝室へ姿を消した。その姿を熱い眼差しで追い掛けていた奈々子は口をナプキンで拭い、立ち上がる。
「では行きましょうユリスさん」
「はい、急ぎましょう」
二人がチェリルの下へ行き静かになった寝室で、一人浩平は鼻歌交じりに上着へ袖を通す。
「久し振りにコーヒーが飲めそうだ。それに、魔族の屑共も近代兵器の前に散って行くだろうね」
浩平は一人嗤う。
一方、チェリルの部屋に辿り着いた二人は強張った表情のチェリルに出迎えられた。
「勇者様はどうしたの? もう召喚が始まっちゃう!」
「着替えてから来るそうよ」
「駄目っ! 来ちゃう!」
チェリルが叫ぶと同時に彼女の前方が青白い閃光に包まれ出し、やがて球状をかたどる。三人は直視する事が出来ずに光球から目線を逸らす。三人をすっぽり包み込める程大きい光球は十秒を過ぎると一気に消失し、光球のあった場所には二人の全裸の美少女が残されていた。
一人は膝のあたりまで伸びた黒髪が特徴的な十歳前後の少女で、べったり床に頭から這いつくばって倒れている。
もう一人は桃色の髪をした色々な箇所が成長している十七歳前後の少女でこちらは状況が掴めず呆然と座り込んでいる。
「あれ……二人?」
チェリルは小さく呟いた。