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NO.09




 宿舎を出て二十分も経過しただろうか。

 閑静だった宿舎周辺とは違い、大学に向かうにつれ人の往来が激しくなっていく。道も本来なら四頭立て馬車が二台横に並べる広々したものなのに、二頭立て馬車が通ると通行人が脇へどかないといけないほどだ。建物も人が多すぎる故か、二階から上が道路に向かって突き出している。

 そんな混雑した道を、シギロームは天城を背負い秋月の手を引っ張って大学目指し突き進んでいた。


「背負ってもらい申し訳ありません」


 結局シギロームの速度についていけなくて疲弊した天城がシギロームの背中で恥ずかしさに顔を赤くして呟いた一言に、シギロームは爽やかに笑う。


「気にすることはない。その体格ではこの人ごみを通るのは難しいだろうからね」


 シギロームは声を張り上げる。


「さあ、大学はもうすぐだ」


 二人のやり取りを恨みがましく見つめる秋月をよそに、ずんずんとシギロームは足を踏み出していった。

 さらに五分ほど歩いた先にリガストグラアワ大学はあった。塀はなく、人々の行きかう道に直接高射が建っている。全体は三階建てで煉瓦造り、一階部分は外壁部分をアーチ構造にしていて二階三階にもアーチ形のガラスをはめ込んでデザインの統一を図っている。

 三人はアーチをくぐって大学の一階通路に入り、教室と教室の間に造られたトンネルも突っ切って大学の中庭に到着する。この大学はカタカナのロの字のような形状をしているのだった。

 そこから階段を昇って二階に上がった三人はやっと講堂に辿り着いた。


「おはようございます!」


 シギロームが講堂内に入ると中の学生たちが一斉に立ち上がり挨拶をする。


「うん、おはよう」


 講堂内部には四人用の細長いデスクが十二脚設置されていて、二十人弱の学生たちは好き勝手に席に着いている。

 学生たちはシギロームが背中に女の子を背負い、後ろにも一人ついてきているのに気が付いた。


「君たちは、そうだな。あの辺に座ってなさい」


 シギロームは天城を床に下ろすと、空いていた中央最前列の席を指差す。天城はシギロームに感謝を述べた後、嬉々として席に着いた。その姿はまるでお母さんの語り聞かせを楽しみにする幼児のようだ。


「やっぱり帰った方がいいんじゃ……」


 周りの目を気にしてびくびくと天城の隣に席を占めた秋月はちょいちょいと天城の肩を叩き耳打ちするが、そんな提案聞きたくないと天城は一喝する。


「くどい!」


 もうこの子だめだ。いざとなれば創造スキルがあるしねと言い訳じみた根拠を支えに秋月は諦めて開き直ることにした。


「なあ、あんた誰? 助教授に連れられてたけど知り合いなの?」

「可愛いよね」


 シギロームの話を楽しみにわくわくな天城と若干ふてくされた秋月の後ろの席の学生が話しかけてくる。始めに話し掛けて来た男は朴訥とした印象の男でもう一人はほんわかとした雰囲気の男だった。


「いきなり失礼でしょ!」

「ちょ」

「痛って……」


 その二人を小突いたのは真面目そうな女性だ。


「ごめんなさいね。こいつら馬鹿だから」


 そこでずいいと天城が出てくる。天城はとってもいらいらしていた。好きなドラマを観ていたのに隣で大音響で音楽を流されたり、読書中の本にコーヒーぶっかけられたりされるレベルの怒りを抱いていた。


「君たち大学生にもなって講義中に私語かね。助教授が面白い話をしてくれようとしているのに信じられない!」


 びしっと指出して怒りを発露させる天城。


「静かにしないなら私の邪魔になる。口を閉じるか、我々から離れるか選びたまえ」

「ご、ごめんねえ~。さっ、あんたたちも真面目にする!」

「へいへい」

「可愛い……」


 変態の手を掴む。


「あんた、もし手出したらもぐわよ」

「……何を?」


 変態は女性の眼差しが自分の又に向いているのに気付き顔を青くした。




 講義が終わると、真っ先に天城がシギロームへ駆けより矢継ぎ早に講義中思い付いた疑問点を質問していく。シギロームも乗り気でそれに答える。


「ねえ、あの子何なの?」


 この講堂にいる人間は誰しもある一定以上の供用を身に付けている。だが、彼らにしてみても理解できない高度な会話が天城とシギロームの間に繰り広げられていた。

 遠巻きに二人の様子を見つめる学生たちは一緒に来た秋月に質問をぶつける。


「さ、さあ」


 だが秋月も天城のことを特別よく知っている訳ではない。


「そんなことより!」


 ずかずかと天城に歩み寄った秋月は不満で一杯だ。


「もう、早く帰るよ!」


 これ以上天城の勝手は許さない。不退転の覚悟で立ちはだかる秋月。


「何を馬鹿なことを! 今から研究室にお邪魔するんだっ!」


 自身の立場をすっかり忘却し、だだをこねる天城。

 秋月は天城の脳みそまで子供になったんじゃないかと本気で疑った。現状は決して楽観できないというのに何が研究室にお邪魔する、だ。殺されるかもしれないんだよと憤る。


「秋月君、悪いがこの子は貸してもらうよ」

「んなあ!」


 秋月はもう頭がくらくらしてきた。シギロームは天城の事情を知っているじゃないか。なのに、どうして!?


「いいです! 僕一人で帰りますよ!」


 秋月は天城の元を駆け足で去ってしまった。

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