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呪われた英雄と裏切りの聖女  作者: 寝不足魔王


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第8話 休息の夜と忍び寄る亀裂

第8話をお届けします。


戦闘後の休息の夜を描き、パーティ内の微妙な温度差と、二人の内面的な会話に焦点を当てました。

英雄の呪いの代償と、アリアの献身が少しずつ限界を見せ始めます。


シリアスな心理描写を中心に、物語を進めています。

ごゆっくりお読みいただければ幸いです。

黒霧の谷に近い森の奥、勇者パーティは野営地を設営していた。


魔王の眷属・中核体の討伐から数時間。勝利の余韻が残る中、焚き火の炎が夜の闇を揺らしていた。


ディオンは少し離れた木の根元に座り、古い直剣を膝の上に置いて無言で磨いていた。黒髪が額に落ち、灰色の瞳は感情を殺したように静かだ。戦いの代償で体が重く、胸の奥に鈍い疼きが残っている。


アリアは聖女衣装の裾を軽く汚したまま、ディオンの近くに腰を下ろしていた。銀髪が乱れ、青みがかった金色の瞳に疲労の色が濃い。今日の戦闘で浄化の力を多用した代償が、じわじわと彼女を蝕み始めていた。


レオン騎士団長が焚き火の近くで声を上げた。


「今日は大勝利だ。英雄卿の一撃が決定的だった。国境の脅威は大幅に後退したはずだ。王都に報告すれば、民衆も大いに喜ぶだろう」


ミリアが興奮気味に頷いた。


「本当にすごかったです! 英雄様の剣技、目で追えないくらい速かったですね。聖女様の浄化も完璧でした!」


ガルンとエランも、遠慮がちに同意の声を上げた。しかし、彼らの視線はディオンに向けられるとき、畏怖と同時に「利用価値」を測るような冷たさが混じっていた。


ディオンは剣を磨く手を止めず、淡々と答えた。


「……勝利、か。俺が力を振るった結果だ。だが、喜ぶのは早い。この程度の眷属で喜んでいるようでは、本物の災厄が来たときに脆い」


レオンが少し表情を硬くした。


「英雄卿、謙遜は結構だが、もっと自信を持て。卿の力は王国にとって希望そのものだ」


ディオンは灰色の瞳をレオンに向け、短く言った。


「希望……その言葉が、どれほど重いか。お前たちはまだ知らない」


アリアはディオンの言葉を聞きながら、そっと掌に黄金の光を灯した。ディオンの体を優しく包み、英雄の呪いの疼きを和らげようとする。しかし、光はいつもより弱く、彼女自身の顔色がさらに青ざめた。


「ディオン様……今日の浄化、少しでもお役に立てましたか?」


ディオンは彼女を見て、抑揚の少ない声で答えた。


「ああ。お前の力は確かに効く。だが、お前自身が苦しんでいるのがわかる。浄化の代償だろ。俺のために無理をするな」


アリアは無理に微笑んだ。


「私は平気です。貴方様が戦うたび、少しでも負担を軽くできれば……それが私の役目ですから」


焚き火の周りで、他のメンバーたちが話し始めた。


ミリアがアリアに近づき、明るく言った。


「聖女様、本当にすごいですね。英雄様の呪いを抑えながら、みんなの回復まで……教会の聖女って、こんなに大変なんですか?」


アリアは控えめに答えた。


「はい……でも、皆さんの役に立てるなら、嬉しいです」


エラン神官が遠慮がちに口を挟んだ。


「ただ、英雄卿の呪いは根本的に解決しないと聞きます。聖女殿の力は……あくまで延命措置ですよね?」


その言葉に、場に微かな沈黙が落ちた。


ディオンは剣を鞘に収め、立ち上がった。


「そうだ。俺の呪いは、誰にも解決できない。力を振るえば振るうほど、愛する者を失う。最終的に、世界を救うはずの行為が……世界を壊す方向へ変わる。それがヴァルデン家の血統だ」


レオンがため息をついた。


「そんな暗いことを言うな、英雄卿。民衆は二人を『希望の光』と呼んでいるんだ。期待を裏切るようなことは——」


「期待など、幻想だ」


ディオンは冷たく遮った。


「お前たちも、俺たちを道具として使っているだけだろう。教会は浄化の力を、王国は英雄の剣を欲しがっている。俺が英雄になればなるほど……周囲は不幸になる」


アリアが立ち上がり、ディオンの袖をそっと掴んだ。


「ディオン様……そんな風に言わないでください。私も、貴方様も、ただの道具なんかじゃありません。一緒に戦っているんですから……」


ディオンは彼女の手を振り払わず、ただ静かに見下ろした。


「お前は優しすぎる、アリア。今日の戦いで、お前の顔色が悪いのも、俺のせいだ。俺の側にいれば、お前もいつか失うことになる。……それでも、まだ離れないのか?」


アリアの声が少し震えた。


「離れません。私にとって、貴方様は……ただの英雄様じゃありません。初めて、必要とされていると感じられる相手です。一人で苦しまないでください」


野営地の夜風が、焚き火の炎を揺らした。


他のメンバーたちは、二人の会話を遠巻きに聞きながら、それぞれ思い思いの視線を向けていた。レオンは現実的に、ミリアは好奇心で、ガルンは無関心に近い目で。


休息の夜は静かに更けていった。


しかし、この勝利の後、英雄の呪いは確実に深まり始めていた。


アリアの浄化の光は、まだ二人を繋ぎ止めているが、その光が弱まる日も遠くない。


救世主として期待される二人は、ゆっくりと、しかし確実に、裏切りの予感に包まれつつあった。

第8話、いかがでしたでしょうか。


勝利の余韻と、その裏側にある亀裂を描きました。

ディオンの自己否定の強さと、アリアの優しさがより際立つ回になったかと思います。


これから国境での任務が本格化し、上層部の思惑も徐々に明らかになっていきます。

感想や応援をいただけると、とても励みになります。


次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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