第38話 東部国境の闇と募る想い
第38話をお届けします。
セレナとの任務中の夜のシーンと、ディオンの内面的な葛藤を描きました。
アリアの不在が、ディオンに大きな影を落としています。
セレナの献身とディオンの拒絶の溝が、徐々に広がっています。
シリアスな心理描写をお楽しみください。
東部国境の森を調査して十六日目。
新しい聖女セレナを加えた勇者パーティは、瘴気の発生源に近い古い遺跡の周辺で野営を続けていた。
ディオンは焚き火から少し離れた木の根元に座り、黒い長衣のまま古い直剣を膝の上に置いていた。灰色の瞳は炎を見つめ、表情は固く、感情をほとんど表に出さない。英雄の力が強まった代償で、胸の疼きは耐えがたいほど激しくなっていた。
セレナはディオンの近くに座り、明るい金髪を聖女衣装のフードで軽く覆っていた。青い瞳は心配そうにディオンを見つめ、時折掌から柔らかな黄金の光を灯して近づけようとしていた。
「英雄ディオン卿……今日もお疲れ様です。私の浄化の力で、少しでも呪いを和らげましょうか?」
セレナの声は明るく、献身的だった。
ディオンは炎を見つめたまま、淡々と答えた。
「……必要ない。お前の光は、アリアのものとは違う」
セレナは少し傷ついた表情をしたが、すぐに微笑んだ。
「アリア様のことは本当に尊敬しています。でも、私は私なりに全力で英雄卿を支えたいんです。新しい聖女として、期待に応えたい」
レオン騎士団長が焚き火の近くで、低い声で言った。
「セレナ殿の浄化は確かに強い。英雄卿の負担が軽減されてよかった。これで東部国境の調査もスムーズに進むはずだ」
ディオンは低く、抑揚のない声で言った。
「……負担が軽減、か。お前たちはまた、新しい道具を手に入れただけだ。アリアのように、いつか使い捨てにするつもりか?」
セレナは少し驚いた顔でディオンを見た。
「そんな……私は、本気で英雄卿のお役に立ちたいんです。アリア様の分も、頑張りますから」
その夜、野営地の空気は重かった。
セレナがディオンの近くに座り直し、そっと言った。
「英雄卿……一人でいるより、私と話しましょう。聖女として、貴方様の心の負担も軽くしたいんです」
ディオンは焚き火を見つめ、静かに言った。
「……お前は、アリアの代わりにはなれない。アリアは、俺の呪いを抑えるために自分の希望まで削っていた。お前はまだ、それを知らない」
セレナは少し傷ついた顔をしたが、微笑んだ。
「私は、頑張ります。英雄卿が一人で苦しまないように……」
ディオンは灰色の瞳を閉じ、胸の中でアリアの顔を思い浮かべた。
(アリア……お前は今、教会でどうしている? 俺はまた、一人になった。お前がいないこの孤独が……一番の呪いだ)
遠くの王都、教会の療養施設。
アリアは小さな部屋の窓辺に座り、銀髪を乱したまま夜空を見つめていた。
彼女は静かに呟いた。
「ディオン様……新しい聖女様と一緒に、任務を頑張っているのでしょうか。私がいなくても……無事でいてください……私の光はもうないけど……心は、いつも貴方様の側にあります」
王都の夜は静かだったが、二人の心は、すでに離れ離れになっていた。
新しい聖女セレナの光は明るかったが、
ディオンの胸に残る影は、ますます深くなっていた。
救世主として期待されるディオンは、
これから訪れる最大の絶望と、必然の裏切りを、一人で迎えようとしていた。
第38話、いかがでしたでしょうか。
セレナの明るさとディオンの孤独の対比を意識して書きました。
アリアへの想いが、ディオンの心をさらに締め付けています。
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次回もどうぞよろしくお願いいたします。




