第34話 王都の影と新たなる聖女
第34話をお届けします。
王都帰還後の上層部の動きと、セレナとの次の任務の準備を描きました。
ディオンとアリアの離れ離れになった心の距離が、徐々に強調されています。
シリアスな心理描写をお楽しみください。
王都セルフィアに帰還して三日目。
大聖堂の作戦会議の間に、再び重い空気が満ちていた。
ディオンは円卓の端に座り、黒い長衣のまま腕を組んでいた。灰色の瞳は無表情で、感情を殺したように静かだ。英雄の力が強まった代償で、胸の疼きはほとんど常態化していた。
新しい聖女セレナはディオンの隣に座り、明るい金髪を丁寧に整え、青い瞳で周囲を見回していた。掌から時折柔らかな黄金の光を灯し、ディオンに近づけようとするが、ディオンはそれを冷たく無視していた。
高位司教ガルドが羊皮紙を広げ、穏やかな声で切り出した。
「灰の山脈での任務は成功だった。英雄ディオン卿の活躍により、魔王の眷属は大きく弱体化した。しかし……新たな問題が発生している。東部国境で、再び大規模な瘴気の発生が確認された。民衆の不安が高まっている」
レオン騎士団長が頷き、続けた。
「次の任務は、東部国境の調査と対応だ。英雄卿を隊長とし、聖女セレナ殿を補佐とする。出発は五日後だ」
セレナは少し緊張しながらも、明るく言った。
「わかりました。私の浄化の力で、英雄卿の呪いをしっかり抑えます。全力で頑張ります」
ディオンは淡々と、しかし冷たい声で言った。
「……お前たちはまた、新しい道具を用意しただけだ。アリアのように、使い捨てにするつもりか?」
ガルド司教は微笑みを崩さず、静かに答えた。
「英雄卿。セレナの浄化の力は強い。君の負担も軽減されるはずだ。アリアは療養中だ。彼女のことは心配しなくていい」
その言葉に、ディオンの灰色の瞳がわずかに揺れた。
会議の後、ディオンは大聖堂の廊下を一人で歩いていた。
セレナが後ろから追いかけてきて、明るく声をかけた。
「英雄卿、少しお話ししてもいいですか? アリア様のことは本当に気になります。私も、彼女のように英雄卿のお役に立ちたいんです」
ディオンは足を止め、振り返らずに淡々と答えた。
「お前はアリアの代わりにはなれない。アリアは、自分の希望まで削って俺の呪いを抑えようとした。お前はまだ、それを知らない」
セレナは少し傷ついた顔をしたが、微笑んだ。
「私は……頑張ります。英雄卿が一人で苦しまないように……」
その夜、ディオンは宿舎の窓辺に立ち、遠くの教会療養施設の方角を見つめていた。
(アリア……お前は今、どうしている? 俺はまた、新しい聖女と共に任務に行く。お前がいないこの孤独が……一番の呪いだ)
一方、教会の療養施設。
アリアは小さな部屋の窓辺に座り、銀髪を乱したまま夜空を見上げていた。
彼女は静かに呟いた。
「ディオン様……新しい聖女様と一緒に、任務を始めているのでしょうか。私がいなくても……無事でいてください……私の光はもうないけど……心は、いつも貴方様の側にあります」
王都の夜は静かだったが、二人の心は、すでに大きく離れ離れになっていた。
新しい聖女セレナの光は明るく輝いていたが、
ディオンの胸に残る影は、ますます深く、濃くなっていた。
救世主として期待されるディオンは、
これから訪れる最大の絶望と、必然の裏切りを、一人で迎えようとしていた。
第34話、いかがでしたでしょうか。
セレナとの任務準備と、ディオンの内面的な孤独を中心に書きました。
アリアの不在が物語に大きな影を落としています。
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次回もどうぞよろしくお願いいたします。




