第28話 セレナの光と消えない影
第28話をお届けします。
セレナとの任務進行と、ディオンの内面的な孤独を描きました。
アリアの不在が、ディオンに大きな影を落としています。
セレナの献身とディオンの拒絶の対比を意識しました。
シリアスな心理描写をお楽しみください。
国境近くの森を調査して三日目。
新しい聖女セレナを加えた勇者パーティは、小規模な魔獣の群れを何度か退けながら進んでいた。
ディオンは先頭を歩き、古い直剣を腰に差したまま無言で道を切り開いていた。黒いマントが木々の影に溶け込み、灰色の瞳は前方だけを捉えている。英雄の力が強まった代償で、胸の疼きは常態化し、自己の存在が薄れていくような感覚が襲っていた。
セレナはディオンのすぐ後ろを歩き、明るい金髪を聖女衣装のフードで軽く覆っていた。青い瞳は前向きで、時折掌から柔らかな黄金の光を灯してディオンに近づけようとしていた。
「英雄ディオン卿、今日もお疲れ様です。私の浄化の力で、少しでも呪いを和らげましょうか?」
セレナの声は明るく、献身的だった。
ディオンは振り返らず、淡々と答えた。
「……必要ない。お前の光は、アリアのものとは違う」
セレナは少し傷ついた表情をしたが、すぐに微笑んだ。
「アリア様のことはよく聞いています。本当に献身的な方だったそうですね。でも、私は私なりに全力で英雄卿を支えたいんです。新しい聖女として、期待に応えたい」
レオン騎士団長が馬を並べてきて、満足げに言った。
「セレナ殿の浄化は確かに強い。灰の山脈での負担が軽減されてよかった。英雄卿も、少しは楽になっただろう」
ディオンは低く、抑揚のない声で言った。
「……楽になる、か。お前たちはまた、新しい道具を手に入れただけだ。アリアのように、いつか使い捨てにするつもりか?」
セレナは少し驚いた顔でディオンを見た。
「そんな……私は、本気で英雄卿のお役に立ちたいんです。アリア様の分も、頑張りますから」
その日の午後、小規模な魔獣の群れが再び襲ってきた。
ディオンは剣を抜き、一人で前線に立った。
「俺が相手をする。お前たちは後ろで待機しろ」
英雄の力が目覚め、ディオンの剣が風を切る。一撃で魔獣を倒し、次の敵へ飛び込む。しかし、力が強まるたびに呪いの代償が激しく襲い、息が荒くなった。
セレナは後方で両手を掲げ、黄金の光を放った。
「浄化の光よ……英雄卿を、清めて……守ってください!」
セレナの光は強く、ディオンの体を包んだ。呪いの疼きが一時的に和らぐ。
しかし、ディオンはそれを冷たく感じていた。
(この光は、アリアのものとは違う。アリアの光は、優しくて、希望を削りながらも温かかった……お前はまだ、それを知らない)
戦闘が終わった後、ディオンは剣を収め、膝をついて息を荒げた。灰色の瞳に深い疲労と自己嫌悪が浮かんでいる。
セレナが駆け寄り、明るく言った。
「英雄卿、お疲れ様です! 私の浄化はどうでしたか? 効果があったでしょうか?」
ディオンは彼女を一瞥し、淡々と答えた。
「……効果はあった。だが、お前の光は冷たい。アリアの光は、もっと……優しかった」
セレナの表情がわずかに曇った。
「アリア様のことは本当に尊敬しています。でも、私は私なりに……英雄卿の力になりたいんです」
夜の野営地。
焚き火の炎が小さく揺れる中、ディオンは少し離れた木の根元に一人で座っていた。
セレナが近づき、そっと黄金の光を灯した。
「英雄卿……一人でいるより、私と話しましょう。聖女として、貴方様の心の負担も軽くしたいんです」
ディオンは焚き火を見つめ、静かに言った。
「……お前は、アリアの代わりにはなれない。アリアは、俺の呪いを抑えるために自分の希望まで削っていた。お前はまだ、それを知らない」
セレナは少し傷ついた顔をしたが、微笑んだ。
「私は、頑張ります。英雄卿が一人で苦しまないように……」
ディオンは灰色の瞳を閉じ、胸の中でアリアの顔を思い浮かべた。
(アリア……お前は今、教会でどうしている? 俺はまた、一人になった。お前がいないこの孤独が……一番の呪いだ)
遠くの王都、教会の療養施設。
アリアは窓辺に座り、銀髪を乱したまま夜空を見つめていた。
彼女は静かに呟いた。
「ディオン様……新しい聖女様と一緒に、任務を頑張っているのでしょうか。私がいなくても……無事でいてください……私の光はもうないけど……心は、いつも貴方様の側にあります」
王都の夜は静かだったが、二人の心は、すでに離れ離れになっていた。
新しい聖女セレナの光は明るかったが、
ディオンの胸に残る影は、ますます深くなっていた。
救世主として期待されるディオンは、
これから訪れる最大の絶望と、必然の裏切りを、一人で迎えようとしていた。
第28話、いかがでしたでしょうか。
新しい聖女セレナとの日常と、ディオンがアリアを想うシーンを中心に書きました。
孤独と喪失感が、物語をさらに暗く進めています。
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次回もどうぞよろしくお願いいたします。




