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呪われた英雄と裏切りの聖女  作者: 寝不足魔王


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第21話 頂上の決戦と深まる亀裂

第21話をお届けします。


灰の山脈での任務クライマックスと、パーティ内の大きな亀裂を描きました。

アリアの浄化喪失が、物語に大きな影響を与え始めています。


これから二人の関係と運命が大きく動き出します。

シリアスな心理描写をお楽しみください。

灰の山脈の頂上、古い遺跡の最奥。


勇者パーティ一行は、ついに魔王の眷属の中心地に到達していた。


周囲は灰色の岩と黒い霧に覆われ、空気は重く淀んでいる。遺跡の最深部から、強大な瘴気が噴き出していた。


ディオンは先頭に立ち、古い直剣を強く握っていた。黒いマントが風に激しく翻り、灰色の瞳は前方だけを捉えている。英雄の力がこれまで以上に強まっていたが、その代償で胸の疼きは耐えがたいほどだった。


アリアはディオンのすぐ後ろに立ち、銀髪を乱したまま弱々しく歩いていた。青みがかった金色の瞳は輝きを失い、顔色は極めて悪い。浄化の力が完全に失われて以来、彼女はただディオンの側にいることしかできなくなっていた。


レオン騎士団長が剣を抜き、低い声で言った。


「ここが最後の拠点だ。英雄卿、頼む。聖女殿は……後方で待機してくれ。もう浄化は使えないんだから、無理はするな」


アリアは弱々しく首を横に振った。


「私は……ディオン様の側にいたいんです。力はもう使えませんが……せめて、見守っていたい……」


ディオンは振り返り、灰色の瞳で彼女を見つめた。声は淡々としており、しかし強い葛藤が混じっていた。


「アリア。お前はもう十分にやった。光が消えた今、お前をこれ以上危険な場所に連れて行くわけにはいかない。後ろで休め」


アリアはディオンのマントの端を弱々しく掴み、震える声で言った。


「嫌です……ディオン様。私が何もできなくなっても……貴方様の側にいたいんです。一人で戦う貴方様を見るのが、一番辛いんです」


その時、遺跡の最奥から轟音が響き、巨大な魔獣の王が姿を現した。


体躯はこれまでで最大級。黒い霧を全身に纏い、目が赤く輝いている。圧倒的な瘴気が周囲を支配した。


戦闘が始まった。


ディオンが剣を抜き、一気に飛び出した。


「俺が正面から行く! お前たちは後ろで支援しろ!」


英雄の力が全力で目覚め、ディオンの動きが加速した。一撃で魔獣の巨体を深く切り裂き、次の攻撃をかわしながら反撃する。しかし、力が強まるたびに呪いの代償が激しく襲い、視界が揺れ、息が荒くなった。


レオンとガルンが前衛を支え、ミリアの魔法が飛ぶ中、アリアは後方でただディオンの背中を見つめていた。掌を何度も開閉するが、黄金の光は一切出ない。彼女の体は震え、膝が折れそうになっていた。


魔獣の王が咆哮を上げ、黒い霧を爆発的に広げた。霧が一行を襲い、ディオンは単独でそれを引き受けた。


「アリア! 下がれ!」


ディオンは全力で剣を振り下ろした。英雄の全力の一撃——魔獣の巨体が大きく裂け、黒い血が飛び散った。


しかし、その代償は大きかった。


ディオンは膝をつき、剣を地面に突き立てて息を荒げた。黒髪が汗で乱れ、灰色の瞳に深い疲労と自己嫌悪が浮かんでいる。呪いの疼きが、これまで以上に激しく胸を締め付けていた。


アリアは這うようにディオンのもとに近づき、膝をついて彼の腕に触れた。


「ディオン様……お疲れ様です……私の力が……何も……助けられなくて……本当に……ごめんなさい……」


その瞬間、レオン騎士団長が冷たい声で言った。


「聖女殿……もう限界だ。君の浄化が使えない今、君はパーティの足手まといになっている。英雄卿の負担が増えているのも事実だ。王都に戻って、教会で休養を取れ。これは命令だ」


アリアの体が震えた。


「そんな……私は……ディオン様の側に……」


ミリアが慌てて止めようとしたが、エラン神官も遠慮がちに同意した。


「聖女殿の負担も大きいようです……ここで無理をすると、命に関わります」


ディオンは灰色の瞳を鋭くレオンに向け、低い声で言った。


「……お前たちも、アリアを道具としてしか見ていないのか。浄化が使えなくなった途端に、足手まとい扱いか。俺の呪いのせいで彼女がここまで追い詰められたというのに……」


アリアはディオンの胸に顔を埋め、弱々しく言った。


「私は……平気です。ディオン様さえ……無事なら……」


戦闘は勝利に終わったが、野営地に戻った夜、パーティ内の空気は明らかに変わっていた。


焚き火の周りで、レオンがため息をつきながら言った。


「正直に言おう。聖女殿の力が使えなくなった今、このパーティの戦力バランスが崩れている。英雄卿の負担が大きすぎる。王都に報告して、聖女殿を交代させるべきではないか?」


その言葉に、アリアの肩が小さく震えた。


ディオンは焚き火を見つめ、淡々と、しかし強い怒りを込めて言った。


「お前たちは、アリアを『浄化の道具』としか見ていなかったのか。光が消えた途端に、用済み扱いか」


アリアはディオンの袖を弱々しく握り、静かに言った。


「ディオン様……私は……貴方様の側にいたいんです。たとえ足手まといでも……」


ディオンは彼女の手を握り返し、灰色の瞳を伏せた。


(お前の決意が、いつか最大の裏切りを生むことを……俺は知っている。それでも、お前を離したくないという気持ちが……俺の最大の弱さだ)


灰の山脈の夜は冷たく、二人の影は長く伸びていた。


聖女の浄化の光が完全に失われた今、

パーティ内の亀裂は、はっきりと表面化し始めていた。


救世主として期待される二人は、

これから訪れる必然の絶望と裏切りを、静かに迎えようとしていた。

第21話、いかがでしたでしょうか。


パーティメンバーたちの本音が露わになり、ディオンとアリアの絆が試され始めました。

灰の山脈での任務は、そろそろ終わりを迎えようとしています。


感想や応援をいただけるととても励みになります。

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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