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第一章 結界を越える客人

夫婦は、ミノタウロスの居城がある山麓の秘境を訪れていた。

そこは強固な結界に覆われ、人の力では決して辿り着けぬ場所――そのはずだった。

「天王様はいらっしゃいますか?」

その声に、屋敷の内がざわめく。

来訪などあり得ぬはずの人間を前に、一人のミノタウロスが怒りを隠そうともせず歩み寄ってきた。

男は静かに名乗る。

「天王様に、一夜の宿をお貸しいただいた者です」

その言葉に、ミノタウロスの怒気がすっと引いた。

無言で踵を返し、天王を呼びに行く。

夫婦はその場で膝を折り、指を組んで手を合わせ、深く頭を下げた。

やがて姿を現した天王は、結界が破られた事実に内心の疑念を覚えながらも、静かに言った。

「先日は、たいそうなもてなしを受けた。礼を言おう」 「――して、今日は如何なる用向きで参られた?」

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