第33話 従者と侍女
朝食後、一行は冒険者ギルドへと向かった。事前に領主が本日は昼まで不在だと分かっていたからだ。
ギルドには今日のところは魔石の換金のために訪問する。身なりを整えたいというディノッゾとリリアの意向に沿って、セスティーナが案内役を買って出た。
道中、セスティーナがディノッゾとリリアに忠告した。
「リリア殿のアイテムボックスは、あまり人前で使わない方がよろしいかと。あれほどの容量を持つ空間魔法は、国に一人いるかいないかの希少スキルゆえ、あまりに目立ちすぎますので」
彼女によれば、同行していた兵士たちには既に箝口令が敷かれているという。
「ですので、ギルドにて提出する魔石は、一度この背嚢に移し、そこから出した方が自然に見えるでしょう」
セスティーナが差し出したごく普通の革の背嚢。ディノッゾは、彼女の配慮に素直に感謝した。全く気にしていなかったからだ。
ギルドに到着し、セスティーナが換金カウンターに声をかけると、係員が慌てて奥に駆け込むと、すぐに慌てふためいたギルドマスター本人が出てきた。
揉み手に脂汗と、動転していることが一目でわかる。
「おお、セスティーナ様!ようこそお出でくださりました!」
ギルドマスターはセスティーナに対してはこれ以上ないほど恐縮しているが、その隣に立つディノッゾとリリアには値踏みするような一瞥をくれるだけだった。
ディノッゾは槍を背負い、リリアは煤けたメイド服を着ていた。言葉はなくても、その姿は「聖騎士様の従者」と「侍女」であることを雄弁に物語っていた。
セスティーナが背嚢からサイクロプスの魔石を取り出すと、ギルドマスターは感嘆の声を上げた。
「なんと!噂には聞いておりましたが、これほどの……! セスティーナ様、貴女様お一人でサイクロプスを三体も討伐されたとは! まさに皇国の至宝! 流石はA級冒険者でもある聖騎士様ですな!これでS級昇格確実ですかな?」
その、あまりにも大きな勘違い。
セスティーナは、慌てて否定しようとした。
「い、いえ、ギルドマスター殿! それは違います! この方々・・・」
だが、彼女が真実を口にするよりも早く、ディノッゾが、彼女の伸ばしかけた手をそっと掴み、静かに首を横に振った。
(……面倒くせえ)
ディノッゾは、心の底からそう思っていた。
今ここで自分が倒したなどと説明すれば、ギルド中の注目を浴び、質問攻めに遭い、さらに面倒なことになるのは目に見えている。それは絶対に嫌だ。
(この聖騎士様なら、話がスムーズに進む。俺はただの従者と思わせておけばいい)
そのディノッゾの意図を、セスティーナは全く違う意味で受け取っていた。
(……なんと。彼は、これほどの功績を成し遂げておきながら、それを誇ろうとしない。それどころか全てを私の手柄として譲り、私を立てようとしてくれている……!)
リリアはディノッゾの意図を察したのか、こくりと頷いてみせ、それを見たセスティーナの胸にディノッゾへの尊敬の念が、さらに深く刻まれた。
「俺たちはあんたの従者と侍女としといてくれ。その方が何かと都合が良いんだ」
ディノッゾは彼女の斜め後ろからボソッとつぶやいた。
セスティーナはディノッゾの申し出に驚き、葛藤の末、当たり障りのない範囲で真実を告げることにした。
「いえ。単独で、ではありません。彼ら協力者の力を借りてのことです」
その二人の様子を見て、ギルドマスターは合点がいったように頷いた。
「なるほど!お二人は、セスティーナ様が雇われた護衛・・・いや、従者と侍女でいらっしゃるのですね!それにしても、この魔石の量・・・よほどの腕前と見ました!」
こうして、ディノッゾとリリアは、ただの**「聖騎士セスティーナの従者」**として、莫大な換金額を受け取った。
そして、彼らが次に向かうのは、身なりを整えた後領主の待つ、あの館だった。
事態は、ますますややこしい方向へと転がり始めていた。




