第31話 二日酔いの朝と、同時土下座
翌朝、ディノッゾは、ガンガンと割れるような頭痛で目を覚ました。部屋には、昨夜の酒盛りの残骸が散らかっている。
「ううう・・・飲みすぎた・・・頭が痛い・・・」
「ディノ、大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込むリリアに、彼は昨夜の記憶をたぐり寄せようとした。
「なあ、リリア。俺、昨日の夜、何かやらかしたか? あのセスティーナさんとかいう騎士様が、すげえ剣幕で出ていったような・・・」
リリアは、少し気まずそうに答えた。
「うん!ディノはねぇ・・・セスティーナ様に頬をぶたれてたよ」
「―――は?」
ディノッゾの顔が、さっと青ざめた。
まさか、殴られたとは。言われてみれば、あのあと兵士たちに大笑いされた。
「姫に何やらかしたんだ!」
そのあと散々酒の肴にされたことを、何となく憶えている。
(理由が、全く分からねえ!)
殴られるほどのことに、全く心当たりがない。
いや、ある。多分、酔った勢いで、何かとんでもなくデリカシーのないことを口走ってしまったに違いない。皇帝直属の聖騎士様相手に・・・
(やべえ、殺される!)
ディノッゾの脳裏に、最悪の未来がよぎった。こうなっては、もはや小手先の謝罪など通用しない。
(ここは、ジェスロの兄弟に言われ、これまで何度も窮地を救ってくれたという、あの必殺技を使うしかねえ!)
その名も、【DOGEZA(土下座)】。
(いつするか?)
ディノッゾは、固く拳を握りしめた。
(今でしょう!)
彼はリリアが止めるのも聞かず、部屋の扉の前まで進むと、意を決してひれ伏そうとした。
一方、その頃。
セスティーナは、自室のベッドで頭を抱えていた。
(なんてことをしてしまったんだ・・・私は・・・)
昨夜の自分の行動を思い出し、羞恥と自己嫌悪で悶絶していた。悲壮な覚悟で臨んだはずが、勝手に勘違いし、勝手に怒り、あろうことか皇国の最重要人物候補を平手打ちしてしまうとは。
聖騎士として、あまりにも未熟。
こうなっては、誠心誠意、謝罪するしかない。
彼女は覚悟を決め、ディノッゾの部屋の扉の前に立った。
コン、コン、コン。
控えめなノックと共に、セスティーナは扉を開け、ディノッゾは扉が開かれたのと同時に行動に移る。
「「申し訳ありませんでした!!」」
セスティーナは、部屋に入るなり、聖騎士のプライドも何もかも捨てて床にひざまずき、深々と頭を下げた。いや、床に額を押しつけていた。
ディノッゾは扉が開くと同時に、完璧なフォームで滑り込むように土下座した。
結果として部屋の入り口で、美しい女騎士と、みすぼらしいオッサンが、顔を突き合わせるような形で同時に土下座をするという、あまりにもシュールな光景が生まれてしまった。
「えっ?」
「もう、二人とも何してるの?挨拶はお部屋の中でしようよ!」
その中央でただ一人状況が飲み込めていないリリアが、困ったように呟いた。




