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ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜  作者: KeyBow


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第23話 聖騎士の挨拶

「リリア、ちょっと、あれを下ろしてくる」


 ディノッゾは、返事を待たずに地面を蹴った。

 女騎士と兵士たちが息を呑む前で、彼の体は砲弾のように空へと舞い上がる。


 彼は、兵士が引っかかっている枝の、さらに数メートル上空に到達すると、即座に進行方向にエアクッションを発動させた。森の中で何度も練習した技術だ。ただ真下に降りようとすると、魔法の反動で体が明後日の方向に吹っ飛んでしまう。進行方向にクッションを置くことで、勢いを殺し、狙った場所へと降りることができる。

 彼は、兵士が引っかかる枝の、さらに太い幹の根元に音もなく着地すると、まずその状態を慎重に確認した。


 鎧は衝撃でひしゃげ、手足はあり得ない方向に折れ曲がり、枝の又に体がぐったりと引っかかっているだけだったが、まだ息がある。  


(こいつを直接抱えて降りるのは危険すぎる)


 ディノッゾは即座に判断した。下手に動かせば、折れた骨が内臓を傷つけかねない。 


「おい、下で見てる奴ら! そこから離れろ!」


 ディノッゾが地上に向かって叫ぶと、彼は槍を構え、兵士が引っかかっている巨大な枝そのものを、根元から切り離しにかかった。

 凄まじい威力を秘めた槍が、大木の枝を豆腐のように切り裂いていく。やがて、巨大な枝が、重傷の兵士を乗せたまま、ゆっくりと地上へと落下を始めた。


「うおおっ!」


 地上で見ていた兵士たちから悲鳴が上がる。だが、ディノッゾの仕事はまだ終わっていない。

 彼は落下する枝と並行するように跳躍すると、その下方に回り込み、何度も、何度も、短いエアクッションを連続で発動させた。

 巨大な枝と兵士の体は、幾重にも重ねられた風のクッションによって落下速度を完全に殺され、まるで羽が舞い落ちるかのように、そっと、静かに地面へと横たえられた。


 そして、先ほど木より下ろした重傷の兵士を、駆け寄ってきた衛生兵にそっと引き渡した。

 

「おい、こいつの息はまだある。すぐに街に運んで助けてやってくれ」


 衛生兵たちは、絶望的な状況から生還した仲間の姿に、驚きと希望の声を上げた。


 ディノッゾがリリアの元へ戻ると、意外な光景が目に飛び込んできた。リリアが、あの美しい女騎士と何やら楽しげに話している。

 ディノッゾの帰還に気づいたセスティーナは、すっと立ち上がると、彼の前に進み出た。そして、スカートの裾を優雅につまみ、最も丁寧な一礼をした。


「私の名は、セスティーナ・フォン・アルビオン。皇帝陛下に直接お仕えする、聖騎士にございます」


 その名を聞いた瞬間、ディノッゾの中で旅の途中の酒場で耳にした噂が繋がった。


(ああ、そうか。こいつが、あの噂の、弱冠二十歳の聖騎士か・・・確かに若いな)


 落ち着いて改めて見ると、その完成された造形美は、噂以上だった。


(一年前、兄弟と呼び合うほどの仲になったジェスロが連れていた女たちも相当な美人だったが、こりゃあ引けを取らないな。いや、アイツラはまだ少女だったが、こいつは見た目通り、大人の女だ・・・)


 セスティーナの丁寧な挨拶に、ディノッゾは居心地悪そうに頭を掻いた。


「ああ……ディノッゾだ。ただの御者だよ」


 彼はそう名乗るのが精一杯だった。


 セスティーナは、目の前の男から発せられる、あまりにも普通すぎる自己紹介に、逆に言葉を失った。何かを問いたださなければならない。聖騎士として、この異常事態を把握する責務がある。彼女が、意を決して口を開いた。


「ディノッゾ殿。……では、あのサイクロプスの死体はどうしますか?」


 彼女の問いに、ディノッゾは、まるで道端に転がる邪魔な岩でも見るかのように、三体の巨人の死体を一瞥した。


「ああ、あれか。俺は解体ができるわけでもないし、あんまり美味そうにも見えねえから、いらないかな。あっ!燃やしたほうが良いのか?」


 その、あまりにもあっけらかんとした言葉に、セスティーナだけでなく、周りで聞いていた兵士たちも皆、唖然とした。


(いらない……だと……!?)


 兵士の一人が、信じられないという顔で息を呑む。


(サイクロプスの素材だぞ!? その皮、骨、魔石……全てを合わせれば、一体だけでも男爵の館くらいなら、軽く建てられるほどの莫大な金になるというのに……!)


 セスティーナも、同じ驚愕に目を見開いていた。彼女は、ディノッゾが価値を知らないのだと思い、必死に説得を試みた。


「お待ちください、ディノッゾ殿! サイクロプスの素材は、かなり高価なのですよ! そのまま放置するには、あまりにも……!」


「へえ、そうなのか?」


 ディノッゾは、大して興味もなさそうに相槌を打つ。その態度に、セスティーナは自らが対応するしかないと判断した。彼女は、近くにいた防衛隊長に声をかけた。


「隊長。この三体を、街まで運べますか?」


「はっ……! いえ、セスティーナ様、とんでもない! これほどの巨体、出直さねば到底……!」


 隊長が、しどろもどろに答える。


「だよな」


 ディノッゾは、そのやり取りを聞いて、あっさりと納得した。そして、まるで道端の木の実を指すかのように、リリアに向き直った。


「なあリリア。あれ、入るか?」

 その、あまりにも軽い問いかけに、リリアは少しだけ考え込むそぶりを見せた。そして、こくりと頷く。


「そうですね……。試してみましょう」

 セスティーティーナたちが「何を試すのだ?」と訝しげに見ている前で、リリアはサイクロプスの一体のそばに立った。そして、おもむろに虚空に手をかざす。

 うっすらと半透明の四角い枠――アイテムボックスが出現する。

 そして、次の瞬間。

 山のように巨大なサイクロプスの死体が、まるで小石でも吸込むかのように、音もなく、その小さな枠の中へと消え去った。


「…………は?」 


 隊長が、間抜けな声を上げた。

 リリアは、同じ手順で、二体目、三体目の死体も、あっさりとアイテムボックスに収納してしまう。 


「な……巨体のサイクロプスが三体・・・あのアイテムボックスの中に……?」


 兵士の一人が、震える声で呟いた。

 セスティーナは、もはや何も言えなかった。

 彼女は、ただ、この煤けた服を着た少女と、人の良さそうなオッサンが、自分たちとは全く違うことわりで動く、規格外の存在なのだという事実を、改めて認識するしかなかった。




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