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ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜  作者: KeyBow


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第18話 森の切れ目

 ディノッゾとリリアが、森の中でささやかな絆を深めていた頃。

 神聖オルトリア皇国の国境都市セオドニックは、未曾有の大騒ぎとなっていた。


 忌むべき【死の森】から、わずか7キロ弱。この街は常に死の森の脅威に晒され、帝国との緊張関係の最前線だった。

 その日、夜警の兵士は信じられない光景を目撃した。


 死の森の夜空が、一瞬、真昼のように輝き、巨大な光の柱が街をかすめて天を突いたのだ。音はなかった。ただ、圧倒的な光だけが、森の一部を地図から消し去ったかのように、暗闇を抉り取った。


「て、敵襲か!?」

「いや、魔法の兆候はなかったぞ!」

「神の御業か、悪魔の所業か・・・」

「魔物はどこだ!?」


 城壁の上は、蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。スタンピードなどの異常を告げる鐘がけたたましく鳴り響き、騎士団が出撃準備を整える。

 神官たちが祈りを捧げ、魔術師団が必死で遠見の魔法を試みるも、死の森に満ちる濃い瘴気が、全てを阻んだ。


 ギャルダル帝国の新型魔導兵器か?

 あるいは森に眠る伝説の魔獣が、ついに目覚めたのか?


 様々な憶測が飛び交い、街全体が見えざる脅威への恐怖に包まれていた。


 ・

 ・

 ・


 そんな騒ぎになっているとはつゆ知らず、全ての元凶であるオッサンと少女は、丸一日かけた休養で完全に体力を回復させていた。


「さて、行くか。リリア」


「はい、ディノ!」


 溝を穿った翌翌朝、二人は自分たちが作り出した巨大な道へと降り立った。


 この溝は森の外に続いている!?

 溝に沿って進めば、楽に進めるかな?

 そんなかすかな希望を胸に、二人は慎重に、しかし確かな足取りで森の奥深くから森の出口へと進んでいった。リリアが前を向き、ディノッゾは後ろを向いて後ずさる形の為、遅々とした速度になる。


 溝の為、見つかったらあっという間に背後から迫られ兼ねないから、最大限の警戒をしていた。碌な戦闘訓練を受けていない素人のため、こうしないと不安で仕方なかった。


 ディノッゾが穿った巨大な溝に沿って進む!という奇妙な旅が始まって数時間。

 二人はあることに気づいた。


「ディノ、なんだかこの溝、少しずつ浅くなってきるような気がする」 


「ああ。どうやら、あのハメハゴニョとかいう馬鹿げた魔法は、少し上向きに放たれたらしいな。」 


 ディノッゾは、溝の壁面を検分しながら頷いた。その推測は正しかった。確かに徐々に溝が浅くなっていたのだ。また、ハメハメハと言うと、また暴発するのではと、ハメハメハとは言えなかった。ハメハメハと言うワードがこの溝を作った自らの暴走のトリガーだと思っていた。


 ・

 ・

 ・


 道中、一度だけオーガが横合いから現れた。

 以前なら死を覚悟するほどの脅威。だが、今のディノッゾは冷静だった。彼はリリアを背後に庇うと、手にした杖ほどの長さに縮めたままの槍を、無造作に構える。

 オーガが獲物を見つけた油断と侮りの表情で棍棒を振り上げ、不用意に間合いへと入ってくる。


(――今だ)


 ディノッゾは狙いを定めると、心の中で念じた。


「伸びろ」


 その瞬間、彼の腕の中で槍が瞬時に伸び、オーガが反応するよりも早く、その穂先は寸分の狂いもなくオーガの心臓を貫いていた。


「ブゴッ!?」


 巨体は、自分が何をされたのかも理解できぬまま、その場に崩れ落ちる。


「ふう。慣れてきたとはいえ、こいつはしんどいな」


 ディノッゾはオーガの死体に突き刺さった槍を抜きながらぼやいた。槍の力で倒すのは簡単だが、その後、血と脂にまみれながら死体を切り裂き、魔石を抜き取る作業は何度やっても気分の良いものではなかった。


 さらに二時間ほど進んだ頃だろうか。森の木々の密度が薄くなり、前方からこれまでとは違う、外の光が差し込んでいるのが見えた。


「ディノ! あれ、もしかして!・・・」


「ああ。どうやら、森の出口らしいな」


 ディノッゾは、はしゃぐリリアを制するように、慎重に言った。


「だが、待て。外に何があるか分からねえ。だから今のうちに腹ごしらえをしておこう」


 彼の言葉にリリアもこくりと頷く。

 二人の昼食の準備は手慣れたものだった。

 リリアがアイテムボックスから取り出した魔物の肉には、あらかじめディノッゾが木を削って作った串が刺してある。リリアが枯れ葉や枯れ枝を集めて生活魔法で火をつけると、ディノッゾがやはりアイテムボックスから取り出した、かまど用に取っておいた石を手際よく並べていく。


 そこで焼かれる肉には、森で採取した香草が丁寧に巻きつけられていた。さらに食器代わりにしているオランジの実の皮に、果汁を絞ってソースを作る。

 二人はこの数日のサバイバルで、オランジの果汁が魔物肉の臭みを消し、風味を豊かにすることを学んでいた。

 器として使ったのがきっかけで色々試してきた。


 鼻腔をくすぐる良い香りと共に、調理の煙がモクモクと空へと立ち上っていく。それが遠方への狼煙になっているとも知らずに。


 警戒をしていた者たちは、立ち込める煙を見て大騒ぎとなっているが、当の2人はのほほんと腹を満たしていた。


 腹を満たした後、二人はゆっくりと歩き始めた。

 いよいよ森の出口が見えてきた、というところで、ディノッゾは少しバツの悪そうな顔で足を止めた。


「リリア、小便だ」


「ねえ、先に出口に行っても良い!」


「ああ。もう出口だもんな。その辺で用を足しているから、何かあったら跳んで木の上に逃げるか、こっちに来るんだぞ」


「もう、ディノったら」


 リリアはくすくすと笑う。

 はやる気持ちを抑えきれず、彼女は一人希望の光が差し込む外の世界へと駆け出した。


「わぁ!」


 森を抜けた先は、なだらかな草原地帯だった。

 リリアは久しぶりに見る広い空に、思わず感嘆の声を上げた。


 だがそこで見たのは、それだけではなかった。


 幅5m程、自分たちが出てきた奇妙な森の出口。地面にはもう溝はなかったが、その幅で木が不自然に消し飛んでいた。


 そして森の出口を中心に、半弧を描くようにずらりと並んだ人影。


 磨かれた鎧。抜身の剣。掲げられた、見たこともない紋章の旗。

 それは明らかに何かを待ち構える、完全武装の兵士たちの一団だった。


 リリアの顔から、さっと笑みが消えた。


「訓練? それとも、戦争の真っ最中だったのかしら・・・? ひょっとして、まずい時に出てきてしまったんじゃ・・・?」


 兵士たちもまた突如として死の森から現れた、煤けたメイド服を着た女の姿に、驚きと緊張で固まっていた。

 あり得ない。屈強な戦士ならば力試しに入った奴が出てくるならともかく、メイド服の女・・・どんな魔物が化けているのか?と心身恐々となる者もいた。


 静寂の中、一人の騎士らしき男が、ゆっくりと剣をリリアに向けた。


「止まれ!――何者だ」


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