第11話 無知な強さと森の恵みと落とし穴
ディノッゾとリリアは、激マズだった魔物肉の謎を解くため、一つの仮説にたどり着いた。次に魔物を仕留めた時、ディノッゾは慣れない手つきで、その実践に取り掛かる。
「よくわからねえが、聞きかじった話だと、確か首に切り込みを入れて・・・逆さに吊るすんだったっけか?取り敢えず試すか」
肉屋のオヤジが言っていた「血を抜く」という言葉だけが、唯一の手がかりだった。ディノッゾはリリアに手伝わせて獣の巨体を木の枝にぶら下げ、逆さにした。生臭い血が地面に流れ落ちるのを眺めながら、これで少しはマシになるだろうかと期待を込める。リリアも不安げな表情で見守っていた。
十分に時間を置いてから焼いて食べた肉は、確かに、以前のような地獄のような味は消えていた。初めて食べたあの肉は、まるで腐った肉をヘドロに漬け込んだような吐き気を催すもので、しばらくの間、口の感覚が麻痺したほどだった。それに比べれば、今回は強烈な泥臭さは鳴りを潜めている。
だが、あの店で食べた、香ばしくジューシーな魔物肉の美味しさには、まだほど遠い。舌の奥に広がる血の鉄臭さ、そして微かにピリピリと舌を刺すような酸味が残っていた。
「うぇーっ!」
ディノッゾは盛大に肉を吐き出した。それでも、リリアは食べることをやめなかった。彼女にとっては、命懸けで戦い、必死で解体してくれたディノッゾの労力を無駄にすることなど、絶対にできなかったからだ。
「美味しい、とは言えませんけど・・・命の味、ですね」
リリアはそう呟き、小さく一口ずつ、その不完全な肉を咀嚼した。
ディノッゾはそんなリリアを複雑な表情で見つめながら、自分の迂闊さに苛立ちを募らせる。とんでもない魔法の槍を手に入れたところで、知識がなければ宝の持ち腐れだ。
それでも、これで少なくとも、飢えを凌ぎ、命をつなぐことはできる。
彼らが生き延びられている理由は、実はそれだけではなかった。あのドラゴンへのラストアタックによって、二人のレベルは大幅に上がり、身体能力が飛躍的に向上していたのだ。さらに、通常の人間には致命的となる、魔物の血に含まれる毒素や、不適切な処理による食中毒にも耐えられる、強力な耐性を得ていた。
彼らが今口にしている「少しマシになった」肉にも、本来であれば体を蝕むはずの危険な「血の毒」が、まだたっぷりと残っている。だが、その知識は二人にはない。彼らはただ、妙に不味い肉に顔をしかめるだけだった。
また、リリアが我慢して食べるのを見て、観念したディノッゾも涙を流しながら咀嚼していく。
せめて香辛料とかあればマシだと思いながら・・・
「チッ、これじゃあ次も、腹を満たすためだけの作業だな」
ディノッゾはそうぼやきながらも食後、森を進むことには変わりなかった。まだ見ぬ人里へ向かうためには、この未開の地を切り拓くしかない。彼らは、その体に宿る途方もない力と幸運に無自覚なまま、森の恵みと、そこに潜む落とし穴に、一つずつぶつかっていくことになるだろう。




