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2-2 偽札魔族との遭遇

 情報を元に、偽札工房へ。

 荒廃した集落の地下に、小さな印刷所があった。

「ここだよな」

「はい。気をつけてくださいね、英雄様」

「任せろ。既に死んでるけどな」

 中を覗いてみると、眼鏡をかけた真面目そうな魔族たちが作業中。

「あと100枚で今日のノルマ達成——」

 ゴブリンやオークと似た人型の魔族。

 曲がった背中と、必死な様子に哀愁が漂っている。

「うわっ、社畜魔族じゃん」

「行きましょう、英雄様っ!」

 聖女が、真っ先に飛び出していく。


「あなたたち! 神に対する冒涜です!」

「今すぐに、偽札製造を止めなさい!」

 魔族たちが、ビクッと振り返った。

「ひぃ! せ、聖女様だっ!」

 でも、よく見ると——


「あれ? 聖女様、なんか違う?」

「本物の聖女様は、もっと完璧で清楚で」

 聖女の顔が引きつる。

 そして、姫が転がしてきた聖水の樽に手をかけた。

「な、何を言ってるんですか! 私が本物です!」

「覚悟なさい! 聖なる裁きを——」


 魔族が土下座。

 好戦的どころか、絶対服従のポーズだった。

「お願いします! これしか稼ぐ手段がないんです!」

「魔王様からの給料じゃ生活できなくて!」

 魔王軍、ブラック企業説。

 こき使われる魔族を見て、肋骨の辺りがきゅっと痛んだ。

(可哀想に。俺と似てるだけあって、悲しみを感じる)

 話を聞くと、魔族の生活も大変らしい。

「魔王様は、愛があれば生きていけるわよ、って言うんですけど、愛じゃ腹は膨れないんです!」

 分かる。超分かる。

 似たような奴が、隣にいるしな。

「だから副業で偽札を。でも、本物より丁寧に作ってます!」

 リサが帳簿と偽札を確認すると、感心したように頷いていた。

「しかし原価計算すると本物より高コスト。これでは結局赤字ですね」


「霊性インクがめちゃくちゃ高いんです。教会から強奪する位しか、入手方法がありませんし……」

「しないでくださいっ! ちゃんと働いてくださいっ!」

 もう、何を言ってるんですかと聖女が。


「でも、これが私たちの仕事で。魔族たちは、そう生きねばならないのですよ」

「ダメじゃん。爆破しよう」

 姫が大笑いしながら、大砲を製造装置に向ける。

「や、やめてください! そんな危ないものを持ち出してはいけませんよ!」

「お前ら、魔族にしては随分と平和主義だよな」

「当たり前じゃないですか! 戦ったらより貧しくなりますから!」


 低姿勢で、ひたすら土下座を繰り返す魔族に、聖女が困惑する。

「で、でも偽物は偽物です! 正しい道に導かなければ!」

 俺は棺桶に寄りかかる——そして、いつものように。


「面倒だな。放っとけよ」

「英雄様! そんな無責任な!」

 俺と魔族をしばらく交互に見ていた聖女。

 いよいよ痺れを切らしたのか、聖水を大量に取り出した。

「もういいですっ! 私が全て浄化しますっ!」

「偽札も! 魔族も! 堕落した英雄様も!」

 やばい、なんか変なスイッチ入っちゃった。

「ちょっと! なんで俺まで?」

「全てを清らかに! 全てを正しく!」

「愛があれば清められますからーっ!!」

 決め台詞と、大量の聖水が降り注いだ。


「うわああ!」

 魔族が悶絶。


「ぎゃあああ!」

 スケルトンも悶絶。


「わーい!」

 姫だけは、なぜか傘を差していた。


「お、落ち着いてください!」

 リサは帳簿で頭を守りながら。

「聖女様! 建物の損害が! また赤字です!」

「構いません! 正義のための犠牲です!」

「仲間混ざってるからな! 仲間!」

 聖水攻撃で、偽札工房は水浸しに。

 でも——

「あれ? 偽札が消えない」

 黒い紙幣は、聖水を浴びても無事。

 むしろ良い艶まで出ている。

「防聖水加工までしてあります」

 魔族が誇らしげに。

 なんだ、その特殊技術は。


「品質には自信があるんです。すぐに破れてしまっては、私たちの仕事が増えますから」

「それが理由か。採算性無視して、丁寧な仕事をしてたのは」

 偽札魔族たちは、あくまでも作っているだけ。

「偽物に、私の聖水が効かないだなんて……」

 消沈した聖女がガクッと膝をついた。


 それを横目に、リサが偽札を手に取る。

「これは……投資価値がありますね。本物より優秀な偽物……」

 なんか頬が赤い。

 大丈夫か、こいつ。

「計算できない……これが恋……価値の倒錯に興奮してしまいます……」

 リサは偽札に興奮していた。


「ダメです! そんな邪な愛では、英雄様を導くことなんて出来ません!」

 聖女が張り合って叫んだ。

 大差ないだろと思っていたのだが、聖水を片手に圧をかけてくる。

「偽物に価値なんて! 英雄様、何か言ってください!」

「本物として承認しちゃえよ。こいつらにどんどん作らせれば、手間が省けるだろ」

「——労働力も確保できるしな」

「だったら、いっそ討伐してください!」

 瀕死の魔族たちが、震えながら懇願していた。


「英雄様。それは英雄にあるまじき発想では?」

 聖女の瞳から光が消えていく。

「じゃあ、こいつらどうすんだよ?」

「聖の奴隷になります。聖奴隷です」

「お前、それ違う意味にしか聞こえないんだが」

 社畜から聖奴隷。彼らに一体、どんなプレイを強要するのか。

「私の神杖に封印させていただきますね」

「ありがとうございます。これでようやく休めそうだ」

(どんだけブラックなんだよ!)


 聖女が銀の杖を魔族にかざすと、残像のように彼らが揺れはじめる。そのまま渦を巻くようにして、杖の先端から吸いこまれていった。

「封印完了です。英雄様の活躍のおかげですね!」

「マジで何もしてないけどな」

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