11-4 たとえ名前を忘れても
「あの、英雄様」
聖女が、俺の前に現れる。
「私は、きっとそのうち——英雄様のことを、ちゃんとは思い出せなくなります」
「それでも、どうか信じてください。毎朝“誰かのために聖水を作るとしたら”、その“誰か”は、きっとずっと英雄様のためですから」
「……それはそれで嫌だな」
「嫌ってなんですか! その心をお清めしますっ!」
「や、やめろよ! クソあちぃんだよ、あれ!」
でも、まあこんなのも悪くはない。
記憶が消えても、なんか忘れらんねーって感覚が残っちまうのは、骸骨の呪いみたいで面白いしな。
◇
「英雄様との契約は、ちゃんと書類にして残しておきますよ」
リサが、鼻をすすらせながらペンを走らせている。
「世界補正で、きっとすぐに白紙化されるでしょうけど、その瞬間まで、“骨のわがまま”として、ちゃんと署名付きで世界に存在させますから」
「最後まで書類かよ、お前……」
「はい、書類しか残せない人間なので」
(セレスは残ったけど、俺みたいな凡人は記録にも残れねえか)
◇
「なんかよく分からないけどさー、悪魔ぶっ壊せたから満足〜次の世界でも、なんかあったらぶっ壊しに行くねー」
「世界にとっては割と迷惑な約束だな、それ」
「はい、どーん!」
姫の笑い声も、だんだんと遠くなっていく。
◇
最後に、ルシフェリアが近づいてきた。
「さてと。あなたとの物語はここまでかしら」
「そうみたいだな」
「最後に、一つだけ」
ルシフェリアの目が、少しだけ優しくなる。
「自分の信じる正義と共に、もう一度羽ばたくことができるなら。それって、多分——この世界に残せる、いちばんバカな"わがまま"よ」
「お前にしては珍しく、ロマンチックなこと言うな」
「さっさと消えなさい、骨」
ルシフェリアが、軽く頭蓋骨を弾く真似をした。
でも、当たらなかった。
もう指先が、すり抜けてしまうから。
「気をつけて行ってきなさい。世界の外側はだいぶ広いんだから」
世界の輪郭が、柔らかくほどけていく。
境界線だけが、細い光として残る。
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