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11-1 消えていく物語

 悪魔が消滅してから、少し時間が経った。


 荒野の空気が、ようやく静まる。

 さっきまで暴れていた魔力の渦も、弱く漂っている程度だ。


「改変状況、改めて整理します」

 リサが、羊皮紙を数枚広げた。


「・王都:英魂再臨の儀に関する部分が修正」

「・教会:セレス札への霊的承認は廃止、市場参加は“復興債”へと転換」

「・商会:セレス札運用依存から、“債権発行や通貨発行などの金融業”へ移行」


「なんだ。元々はこういう世界線だったんじゃねぇのか?」

 俺が思わず漏らすと、リサが目を細めた。


「そうですね。英雄信用が壊れましたから」

「世界の側もすぐに——“英雄と魔王のいない世界運用”に組み変わっていくと思います」


「……まあ、それならアイツも」

 身体の今の主としては、ぎりぎり頷いてやれる範疇だった。


 英雄の名前と肖像を、無意味な対立を前提として、使い回される世界よりはよほどマシだろう。

「魔王軍はどうなんだろうか」

「うーん、魔王が不在になるので、しばらくは不安定になりそうですね」

 リリスが、荒野の向こうを眺めた。


「英雄と対立する魔王が現れる世界、という前提は、一度リセットされていますから」

「はぁ、忙しくなりそうね」

「そうですね。ルシフェリアさんが魔王軍最強になるかもしれません」

「嫌よ。リーダーなんて絶対にやらないわ」

 ルシフェリアが、ふんっと空を見上げていた。


「魔王軍の統治領も、いずれは“魔王”の支配ではなく、誰かが選んだ“国”として続けていくこともできるはずです」

「残念ながら、私はその未来を見ることはできませんが」

 リリスが寂しそうに笑っていた。


「……あれ?」

 聖女が、俺とリリスを何度も見た。


「英雄様、さっきより……ちょっとだけ、透けてきてません?」

(透ケルトンってか? スケルトンだけに)


「バカなこと思ってんじゃないわよ」

「思ってることが、透ケルトンだった」

 俺のダジャレにルシフェリアが呆れかえる。


「でも、骨の輪郭が……なんか、ふわっと……」

「骸骨から幽霊にジョブチェンジだな」

 俺自身が、一番よく分かっていた。

 存在自体が朧げになってきている。

(身体も軽くなってきてる感じするし)


「“物語”の変更によって——補正領域は大きく縮小しました」

「その結果、“ルシフェリアさんが境界をいじった後”に生まれた世界線が——」

 俺へと視線を向ける。


「“存在要件を失いつつある”状態、ですね」

「簡単に言えば、この世界から“退場”って話だよな」

「魔王はどうなるんだ」

「お姉様は、“魂の抜けた器”として世界に留っていますが、器と結び付いていた“存在理由”の多くは、既に改変されたという扱いです」

 リリスが淡々と述べる。


「リリスは?」

「私は、お姉様の妹として構成されていますが、お姉様の退場に合わせて、魂が不安定になりつつあります——元々、“魔王と英雄が対立する世界”のために用意された分割魂でしたから」

 仕方がないですよね、とリリスが笑う。


「その舞台がリセットされた以上——“正しさで監視する妹”という役割も、同じように不要です」

(あっさりしてるな、こっちのレイナは——)


「納得いかねぇなぁ。世界のために走り回ってさ、終わるのが嫌で、ここまで来た結果がこれかよ」

 骨の肩を落とす。


「“世界のため”じゃなくて、“あんたのわがまま”でここまで来れたじゃない」

 ルシフェリアが柔らかく呟いた。


「それでも、お前らなんか要らねえ、って言われると、ムカつくもんはムカつくだろ」

「まあ、それはよく分かるけど」

「え、英雄様……消えちゃうんですか……?」

 聖女が、心底つらそうな顔をしていた。


「そんな……やっと、ちゃんとお話できるようになったのに……」

「英雄様がいない世界だなんて……清める相手がいなくなっちゃうじゃないですか!」

「最後の理由それかよ! その辺清めとけよ!」

(ドSか、この聖女!)

読んでいただき、ありがとうございます!

定期更新してますので、よろしくお願いします!


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