11-1 消えていく物語
悪魔が消滅してから、少し時間が経った。
荒野の空気が、ようやく静まる。
さっきまで暴れていた魔力の渦も、弱く漂っている程度だ。
「改変状況、改めて整理します」
リサが、羊皮紙を数枚広げた。
「・王都:英魂再臨の儀に関する部分が修正」
「・教会:セレス札への霊的承認は廃止、市場参加は“復興債”へと転換」
「・商会:セレス札運用依存から、“債権発行や通貨発行などの金融業”へ移行」
「なんだ。元々はこういう世界線だったんじゃねぇのか?」
俺が思わず漏らすと、リサが目を細めた。
「そうですね。英雄信用が壊れましたから」
「世界の側もすぐに——“英雄と魔王のいない世界運用”に組み変わっていくと思います」
「……まあ、それならアイツも」
身体の今の主としては、ぎりぎり頷いてやれる範疇だった。
英雄の名前と肖像を、無意味な対立を前提として、使い回される世界よりはよほどマシだろう。
◇
「魔王軍はどうなんだろうか」
「うーん、魔王が不在になるので、しばらくは不安定になりそうですね」
リリスが、荒野の向こうを眺めた。
「英雄と対立する魔王が現れる世界、という前提は、一度リセットされていますから」
「はぁ、忙しくなりそうね」
「そうですね。ルシフェリアさんが魔王軍最強になるかもしれません」
「嫌よ。リーダーなんて絶対にやらないわ」
ルシフェリアが、ふんっと空を見上げていた。
「魔王軍の統治領も、いずれは“魔王”の支配ではなく、誰かが選んだ“国”として続けていくこともできるはずです」
「残念ながら、私はその未来を見ることはできませんが」
リリスが寂しそうに笑っていた。
「……あれ?」
聖女が、俺とリリスを何度も見た。
「英雄様、さっきより……ちょっとだけ、透けてきてません?」
(透ケルトンってか? スケルトンだけに)
「バカなこと思ってんじゃないわよ」
「思ってることが、透ケルトンだった」
俺のダジャレにルシフェリアが呆れかえる。
「でも、骨の輪郭が……なんか、ふわっと……」
「骸骨から幽霊にジョブチェンジだな」
俺自身が、一番よく分かっていた。
存在自体が朧げになってきている。
(身体も軽くなってきてる感じするし)
「“物語”の変更によって——補正領域は大きく縮小しました」
「その結果、“ルシフェリアさんが境界をいじった後”に生まれた世界線が——」
俺へと視線を向ける。
「“存在要件を失いつつある”状態、ですね」
「簡単に言えば、この世界から“退場”って話だよな」
◇
「魔王はどうなるんだ」
「お姉様は、“魂の抜けた器”として世界に留っていますが、器と結び付いていた“存在理由”の多くは、既に改変されたという扱いです」
リリスが淡々と述べる。
「リリスは?」
「私は、お姉様の妹として構成されていますが、お姉様の退場に合わせて、魂が不安定になりつつあります——元々、“魔王と英雄が対立する世界”のために用意された分割魂でしたから」
仕方がないですよね、とリリスが笑う。
「その舞台がリセットされた以上——“正しさで監視する妹”という役割も、同じように不要です」
(あっさりしてるな、こっちのレイナは——)
「納得いかねぇなぁ。世界のために走り回ってさ、終わるのが嫌で、ここまで来た結果がこれかよ」
骨の肩を落とす。
「“世界のため”じゃなくて、“あんたのわがまま”でここまで来れたじゃない」
ルシフェリアが柔らかく呟いた。
「それでも、お前らなんか要らねえ、って言われると、ムカつくもんはムカつくだろ」
「まあ、それはよく分かるけど」
「え、英雄様……消えちゃうんですか……?」
聖女が、心底つらそうな顔をしていた。
「そんな……やっと、ちゃんとお話できるようになったのに……」
「英雄様がいない世界だなんて……清める相手がいなくなっちゃうじゃないですか!」
「最後の理由それかよ! その辺清めとけよ!」
(ドSか、この聖女!)
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