10-3 きっと俺も、英雄だった
悪魔の胸に、聖剣の聖性がぶっ刺さる。
天使の白い輪と黒い翼が、剣の軌道に沿って真っ二つに裂けていた。
「——お前が真の英雄、だと……?」
「驚いたか、魔王。俺も同じ感想だった」
俺の中から、別の声がする。
この身体の、本来の持ち主——先代英雄セレスの声。
「“俺の聖剣”を、“俺”が握って、お前に叩きこんでるんだ」
「おまけに、“世界のため”じゃなく“自分のため”。そんな意味不明な物語、最初から用意されてるはずがない」
『英雄、貴様ッ——!』
悪魔の中から、別の怒気が混ざった声がした。
『お前は“世界のための死”を受け入れたはずだ! なぜ今さら、その物語を翻す!』
「翻してねぇよ。今の俺はただの亡霊さ」
セレスは、静かに言い返した。
「“自分のためだけの人生”で終わるのが嫌だって、最初は思ってた。ただ、あの時は——“他に選択肢がない”って、思いこんでただけだよ」
セレスが自嘲気味に笑う。
「それを、“骨の方の俺”がぶっ壊しに来やがったんだ」
「一度くらい会って、文句を言ってやろうと思ってな——カジノで全財産擦っちまうと、あり得ないって言われるような、綺麗な生き方してんじゃねぇよって」
巻きこまれながら、俺もツッコむ。
「やかましい。俺は俺で一生“理想の英雄”やらされ続けてるんだから」
セレスがバカなことやってんな、と笑っているような気がした。
◇
光は、先代魔王の魂に到達した。
怒りと、諦めと。絶望を煮詰めたような復讐の黒と対峙する。
「英雄セレスよ。今度こそ、決着をつけよう」
その深淵が、じっと俺たちを見ていた。
「“世界のための物語”ではなく——“俺たちの物語”として、な」
「しゃあねぇな。後輩に手を貸してやるか」
セレスが冗談混じりに応じる。
「“旧英雄譚”は閉じる。俺たちの新しい物語の素材となって——さあ、終幕だ」
「聖剣よ、この物語を書きかえてくれ!」
「俺の復讐は終わらない。ここで終わらせて堪……」
刹那。聖剣の光が、黒の核を包みこんでいった。
(物語って、どこまで続いていくんだろう)
浄化の光と渦巻く闇を背景に、セレスが、最後に俺に告げる。
「お前のわがまま、ちょっと気に入ったぜ」
「お前の身体も丈夫で良かったぞ」
俺は、柄を握ったまま笑う。
「お疲れ、先代。ゆっくり休めよ」
「……おう。お前もじきにこっちに来るんだろ」
「さあな。すぐには面倒くせぇし、もうちょっと彷徨ってから考えるとするよ」
光と闇が共に収束する。
観測の復活と合わせて、聖剣の刀身に、深いひびが走っていき、
ピキッという崩壊音がした、次の瞬間——
聖剣は、キラキラとした光の粒のようになって、天へと拡散していった。
(不思議な光景だな)
まとめて、一つの“終わった物語”として、世界の外側へと送り出されていくのだった。
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