10-2 骨と意地と、一振りの剣
——世界をぶった斬ってやったはず、だった。
聖剣を振り下ろした瞬間、金色の光と悪魔の魔力の渦で、意識がぐちゃぐちゃにかき乱される。
(これ完全に死ぬ時のやつだ……)
骨が砕ける感覚が、全身に走った。
肋骨も、背骨も、手足も、バラバラに弾け飛んでいくみたいに軽くなる。
「無理だろ、俺には。どうにかしてくれよ」
俺は弱音を吐く。
それでも何故か——
柄だけは、離せなかった。
◇
魔力の激流の中でも、聖剣は光を放ち続ける。
感知スキルが告げる狙いは悪魔の深奥。胸の奥でこいつを動かしてる、先代魔王の魂だった。
(頼むぜ、セレス!)
あと剣先一つで届く——その瞬間だった。
『——属性:聖。対象概念:英雄及びセレスティア・オリジン』
「概念防衛発動——不適格存在を排除」
冷徹な声が響いた。
聖剣の刃と核の間を、薄い膜のような光が覆う。
それは厚みを増していき、巨大な障壁となって俺たちの一撃を弾き返した。
『不正な魂を検知』
『聖剣は“正しき英雄”のための武器である』
『異世界魂の権限は、セレス英雄譚から逸脱——拒否』
「は?」
バチィィッ、と、聖剣から逆流する衝撃。
骨の身体が、空中で粉々に砕け飛んだ。
(お、おいおいおい!?)
頭蓋骨が回転しながら、空と地面が何度も入れ替わっていく。かろうじて握っていた右手だけが、聖剣と一緒に宙に浮いていた。
「英雄様ぁぁぁぁ!!」
遠くで聖女の悲鳴が聞こえた。
ルシフェリアの翼が、俺を追いかけるために広がる気配。
だが、それよりも先に——
『物語は終わった』
『聖剣の権限は、“正しき英雄”に与えられる』
天頂から降ってくる、いくつもの声。
世界の“約束”そのものが、俺に向かって不適格を突きつけてきていた。
(……本当に面倒くさいな、この世界)
バラバラになっていく身体を横目に、レイナの顔を思い出していた。
俺の右手と聖剣が、落下途中でふっと止まる。
ルシフェリアの翼が、光と闇の渦の中で俺たちを受け止めていた。
「境界、再指定。“英雄の真性”を優先——肉体に選定された魂。魔王の承認した魂」
「さあ、行きなさい骨。リミナル・セイント!」
彼女の翼から、白と黒の術式が溢れ出す。
天から降る閃光と正面衝突し、ぎりぎりのところで全てを食い止めている。
「物語の約束なんて知らないわ」
「今ここに居るお前は、ただの骨でも異世界魂でも、英雄の身体の持ち主なのよ」
俺はその間に自分の身体を組み立てていく。ちょっと骨折してるみたいだが、動けば何でもいい。
どうせ俺はカッコつけたって、カッコのつかないバカな骨でしかないからな。
『境界干渉を検知。優先度再評価——』
天界の声が、ルシフェリアに向けて警告を放つ。
「長くは持たない。出力を上げないと」
「でも、これ以上は……!」
「私も、やります!」
その隣で、リリスが両手を組んだ。
「宝具観測——上書き。聖剣の権限フラグを、“英雄様の身体”に連結」
聖剣の根元から、細かな魔法回路が走っていき、俺の右腕に聖剣と同じ紋様が刻まれていく。
「宝具構造を連結。承認対象:骨の英雄」
俺の身体と、聖剣が一体化していくような感覚。
「“英雄の器+世界に召喚された魂”——今はそれが、英雄様なんです」
『定義の改竄を検知。論理矛盾——』
リリスの声が少しだけ歪む。
「最後は、私ですね」
聖女が、真っ直ぐに天を見上げた。
「主よ。もしこれが、あなたの御心に反するというのなら——」
祈りの言葉が、空へと吸いこまれていく。
「愚かな私たちに、正しき運命への導きを」
聖女が聖具をぎゅっと握りしめる。
「私たちは彼を“英雄”と崇めたいのです!」
『——敬虔な信仰心を観測。大規模改変を保留』
天頂に走る紋様が、収斂していく。
防壁の光が、わずかに薄くなった。
「今よ、骨!」
「"自分勝手"だなんて、知ったことか。今この現実の英雄は——あんたでしょ!」
ルシフェリアが叫ぶ。
(言われなくてもな、俺は俺なんだよ!)
俺は、バラバラになりかけた骨を叩きつけるように元の位置へ戻した。
右手の指骨が、柄を握りこむ。
「待ってろよ、二撃目だ」
首の骨を鳴らしながら、聖剣をもう一度振りかぶる。
「“世界のため”じゃなくて、俺たちのために、こいつを振るってやるってんだよ!」
聖剣の光が、真っ二つに切り裂いた。
天界の防壁を、真正面から。
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