10-1 聖剣の復活
聖剣の復活が完了した——まさに、その瞬間だった。
空が、轟音と共に裂けていく。
灰色の雲の間に、漆黒の亀裂が走る。
そこから、闇と光が同時に溢れ出した。
「来たわよ! 防御結界展開!」
ルシフェリアが、両翼を広げる。
「す、凄い魔力です。でも全力を尽くします」
リリスが大規模に展開した陣の上で、魔術の詠唱を始めている。
(うわ、嫌な圧だな……)
亀裂の縁で、黒と金の光が、渦を巻いていく。境界空間そのものが、全て破壊されていくような感覚。
「“都合の良い悪役”様——満を持して登場ってわけね」
亀裂の中から、ゆっくりと、影が降りてくる。
巨大な両翼。半分だけ残った白い羽と、黒く変質した羽が、一定のリズムで交差していく。
脈を守るように、装着されている歪な金輪たち——全てが歪み、捻じ曲げられたように。
この距離からでも伝わる覇気は、神気単体でも、魔力単体でもなく、両者が混ざり合っている、悪魔特有の稀有な瘴気であった。
「ひどい様。あんな風になりたくないわ」
ルシフェリアが小さく吐き捨てた。
◇
悪魔が、ゆっくりと降りてくる。
金と紅の混ざった瞳が、俺たちを鋭く捉えた。
「聖剣の再起動を、確認した。物語は、最終局面に移行する——だが」
悪魔の視線が、俺に突き刺さる。
「その聖剣を握るのは、“正しき英雄”であるはずだ。“異世界の魂”が承認されるなど、物語への叛逆」
「貴様らが、“世界の敵”だ」
(あー、はいはい。知ってる知ってる)
「そりゃどうも。魔王の敵の英雄です」
俺は聖剣を軽く持ち上げる。
「ラスボスにそう言ってもらえると、なんか主人公っぽくなって助かるわ——俺は今からお前をぶっ刺すから、とりあえず覚悟しとけ」
悪魔の表情が、わずかに動いた。
「英雄譚に依存したシステムの方が、よっぽど“悪”ですよ。聖剣の維持費、対立による被害、価値の変動——全部、現場に皺寄せですからね?」
リサが、横から口を挟んだ。
「この物語が何だか知らねぇけどよ」
俺は、一歩、前に出た。
聖剣を握り直してから、悪魔に向けて構える。
「勝手に人の彼女連れてって、勝手に魔王とか言い始めて、勝手に“正しい物語”とか作ってんじゃねぇよ」
「英雄と魔王が敵対しようが、イチャつこうが、バカップルになろうが、どう終わるか決めるのは——」
骨の奥から、声を絞り出す。
「世界の方じゃなくて、俺たちの方だ」
俺は人形のようになった魔王の“器”の姿を思い出してから、聖剣の剣身へと祈りを捧げた。
「——見せてやるよ。こいつの力を」
聖剣が、輝きを増すと、強烈な光を放つ。
「骨の英雄様が、お前のことをぶっ刺してやる」
周囲では、黒と白の魔法陣が、いくつも展開されていく。ルシフェリアの境界陣も、リリスの魔法陣も、聖女の祈りも、全てが一様に起動した。
(見ててくれよ、レイナ。それと約束守れなくて、マジでごめん)
俺はそう心の中で呟きながら、聖剣を、真正面から振りかぶった。
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