9-4 骨の帰還
意識が、荒野の光景へと引き戻される。
砂の匂い。
乾いた風。
皆の気配。
「英雄様っ!? お清め——」
「だから清めるなって言ってんだろ!」
目の前で、聖女が聖水を振りかけようとしていた。
「よかったぁ……戻ってこれましたね」
「何とかな。こっちは平気か」
「はい、大丈夫ですっ!」
(指の先。ナイフで切ったのか)
気丈に振る舞う聖女を見ていると、胸の辺り——いや、肋骨周りに、確かな熱を感じた。
聖剣が、本物の俺が持っていたのと似たような姿に。
「見せなさい。完全復活とまではいかないみたいだけど」
ルシフェリアが近づいてくると、そのまま聖剣をじっと見つめていた。
「でも、良い感じだろ。本物の俺も悪くない奴だった」
ボロボロだった剣身は輝きながら、表面の紋様に光の綾を生み出している。完全修復ではなさそうだが、“死体”だった頃の剣と比べると、聖剣としての気配が戻っているように見えた。
「十分、戦えるわよ。聖剣——“物語の鍵”として再起動完了ね」
「セレスは、この聖剣の行く末を見守ってくれるそうだ」
俺は、聖剣を天に突き立てる。
「先代魔王の魂を連れてくために、こいつの中に宿ってるんだ。俺の物語の結末は、俺自身でつけるってさ」
「さすが英雄様です。戻ってきたらすぐに結婚しましょうっ!」
聖女が胸の前で聖水を握りしめながら、嬉しそうにそう言った。
(それ、思いっきりフラグ立ってるからな)
「この聖剣は、もう“過去”じゃない。“今という現実”そのものだ」
格好をつけて、セレスと同じように腰に携えようとしたら、聖剣を地面に落としてしまった。
「だっさ。余計なことはしないほうがいいと思うわよ」
ルシフェリアの冷たい言葉。
「うるせぇよ! 少しくらいカッコつけさせろよ!」
「ふふっ、ちょっとダサいかもです」
「おい、リリスまで! その顔で言われると、昔のレイナに言われてるみたいで」
あの頃の記憶と合わせて、骨は少しブルーになった。
しかし、すぐに現実へと戻る。
(骨と、魔王と、リリスと、天使と、聖女と、リサと、姫と——)
「こんなクソ面倒くせぇ世界も、悪くはないのかもな」
俺がボソッと呟くと、肋骨の奥で、何かが静かに笑っているようだった。
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