9-3 二人の英雄
「この“霊体としての聖剣”は、聖剣という“概念”だ」
「これを地上の実体聖剣と重ね合わせる。そうすれば、聖剣は本来の輝きを取り戻す」
「そしてその剣で、先代魔王の魂を叩き斬るんだ。悪魔の中に重ねられた先代魔王の魂を昇華させるために」
セレスが聖剣を地面に突き立てる。
「つまりお前の英雄譚を、“今回の物語の展開”として利用するわけか」
「そうだ」
セレスが頷く。よく分かったと満足そうに。
「“英雄と魔王”の関係を聖剣が裁いたことになるだろう——記録としても、物語としても」
(完全に前作主人公の展開だな)
『補足するわ』
どこからか、ルシフェリアの声が聞こえてくる。
『物語が修正されれば、変更対象は狭まる。だけど——その歪みが生んだ“可能性”は、すべて変更の対象になる』
『要は、私が境界をいじってから後に生まれた存在ってこと。例えば骸骨英雄。ヤンデレ魔王。魔王の妹としてのリリス』
『“物語に不要な存在”は、聖剣伝説の成立と同時に、消去される可能性が高い』
「……消去、ね」
『世界に任せれば、どちらにせよそうなる。英雄譚のための破滅だって選ばれかねない』
『だから——行くしかないのよ、もう』
『……本当にごめんなさい』
ルシフェリアの声が、少しだけ震えていた。
◇
「消されるのは、怖いか?」
セレスが、静かに問う。
「怖いに決まってんだろ。一回、死んでようが関係ねぇよ。死ぬのと、消えるのは、別だ」
骨の指が、自然と握りしめられる。
死んでから復活している以上、余計にそんな風に思ってしまう。
「骨で存在し続けるのも、正直、嫌だけどな」
「人間らしいな。俺の死体だってのに」
セレスがははは、と笑いながら呟いた。
「どうせどっかで終わっちまうなら、やりたいことやってから終わりたいんだよ」
「レイナを取り戻したい。世界の都合で“正しさ”押しつけてくる連中に、嫌だって言ってやる——クソ面倒くせぇこと、全部やってからじゃないと、俺は多分、納得できねぇからさ」
「英雄失格だな。俺に言われたくはないか」
セレスが、苦笑する。
「世界のために自分を捧げるのが英雄ってなら、俺は自分を救うための英雄になりてえんだ——この身体とはぐれちまったお前も、この身体に迷いこんだ俺も、皆、救ってやりたい」
「そうか——」
セレスは、剣身を一度見た後に、何かを祈ってから、俺に剣先を向けた。
「悪くない答えだな」
「……お前、ちょっとキザな言い回しするよな」
「お互い様だろ。俺とお前は似たもの同士だからな」
セレスが、笑いながら答えた。
「ここからは、未来の話をしよう——」
「俺は、聖剣をお前に託す。夢を見せた存在が、今度はお前たちに夢を見る」
「俺たちは——物語の都合じゃなく、“俺たちのわがまま”として、物語のエンディングを選ぶ」
「……ああ、さすが『俺たち』だな」
骨の咬合部が、ギリ、と鳴った。
「世界の都合に、俺たちの“嫌だ”を見せつけてやるか」
「カッコつけやがって、この身体の本体」
「それは俺の台詞だろ」
セレスが、小さく笑う。
「死んでからも酷使されてるぞ、お前の身体」
「良いだろう。永遠に働いてもらうからな」
(嫌だよ、面倒くせぇな)
「良いか、後悔だけはするなよ」
セレスが、真剣な目で告げる。
「俺は“英雄”として終わった。そして物語は美しく終わった——だがお前は、きっと“お前”としての終わり方を選べる」
「お前の“面倒”は——俺がずっと戦ってきた“葛藤”の続きなんだから」
俺の前に聖剣の柄が差し出される。
それを骨だけの手で、強く握りしめた。
「——ラストシーンの始まりだな」
「ああ、バッドエンドは嫌いだぜ」
セレスの姿が、薄く青空に溶けていく。
「頼んだぞ、『俺』」
「任せとけ、『俺』」
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