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9-3 二人の英雄

「この“霊体としての聖剣”は、聖剣セレスティアという“概念”だ」


「これを地上の実体聖剣セレスティア・オリジンと重ね合わせる。そうすれば、聖剣セレスティア・オリジンは本来の輝きを取り戻す」


「そしてその剣で、先代魔王の魂を叩き斬るんだ。悪魔の中に重ねられた先代魔王の魂を昇華させるために」


 セレスが聖剣セレスティアを地面に突き立てる。


「つまりお前の英雄譚を、“今回の物語の展開”として利用するわけか」

「そうだ」


 セレスが頷く。よく分かったと満足そうに。


「“英雄と魔王”の関係を聖剣が裁いたことになるだろう——記録としても、物語としても」

(完全に前作主人公の展開だな)


『補足するわ』

 どこからか、ルシフェリアの声が聞こえてくる。


『物語が修正されれば、変更対象は狭まる。だけど——その歪みが生んだ“可能性”は、すべて変更の対象になる』


『要は、私が境界をいじってから後に生まれた存在ってこと。例えば骸骨英雄。ヤンデレ魔王。魔王の妹としてのリリス』


『“物語に不要な存在”は、聖剣伝説の成立と同時に、消去される可能性が高い』


「……消去、ね」

『世界に任せれば、どちらにせよそうなる。英雄譚のための破滅だって選ばれかねない』

『だから——行くしかないのよ、もう』


『……本当にごめんなさい』

 ルシフェリアの声が、少しだけ震えていた。

「消されるのは、怖いか?」

 セレスが、静かに問う。


「怖いに決まってんだろ。一回、死んでようが関係ねぇよ。死ぬのと、消えるのは、別だ」


 骨の指が、自然と握りしめられる。

 死んでから復活している以上、余計にそんな風に思ってしまう。


「骨で存在し続けるのも、正直、嫌だけどな」

「人間らしいな。俺の死体だってのに」

 セレスがははは、と笑いながら呟いた。


「どうせどっかで終わっちまうなら、やりたいことやってから終わりたいんだよ」


「レイナを取り戻したい。世界の都合で“正しさ”押しつけてくる連中に、嫌だって言ってやる——クソ面倒くせぇこと、全部やってからじゃないと、俺は多分、納得できねぇからさ」


「英雄失格だな。俺に言われたくはないか」

 セレスが、苦笑する。


「世界のために自分を捧げるのが英雄ってなら、俺は自分を救うための英雄になりてえんだ——この身体とはぐれちまったお前も、この身体に迷いこんだ俺も、皆、救ってやりたい」


「そうか——」

 セレスは、剣身を一度見た後に、何かを祈ってから、俺に剣先を向けた。


「悪くない答えだな」

「……お前、ちょっとキザな言い回しするよな」

「お互い様だろ。俺とお前は似たもの同士だからな」

 セレスが、笑いながら答えた。


「ここからは、未来の話をしよう——」


「俺は、聖剣をお前に託す。夢を見せた存在が、今度はお前たちに夢を見る」


「俺たちは——物語の都合じゃなく、“俺たちのわがまま”として、物語のエンディングを選ぶ」


「……ああ、さすが『俺たち』だな」

 骨の咬合部が、ギリ、と鳴った。


「世界の都合に、俺たちの“嫌だ”を見せつけてやるか」


「カッコつけやがって、この身体の本体」


「それは俺の台詞だろ」

 セレスが、小さく笑う。


「死んでからも酷使されてるぞ、お前の身体」

「良いだろう。永遠に働いてもらうからな」

(嫌だよ、面倒くせぇな)


「良いか、後悔だけはするなよ」

 セレスが、真剣な目で告げる。


「俺は“英雄”として終わった。そして物語は美しく終わった——だがお前は、きっと“お前”としての終わり方を選べる」


「お前の“面倒”は——俺がずっと戦ってきた“葛藤”の続きなんだから」


 俺の前に聖剣の柄が差し出される。

 それを骨だけの手で、強く握りしめた。


「——ラストシーンの始まりだな」

「ああ、バッドエンドは嫌いだぜ」

 セレスの姿が、薄く青空に溶けていく。


「頼んだぞ、『俺』」

「任せとけ、『俺』」

読んでいただき、ありがとうございます!

定期更新してますので、よろしくお願いします!


ブクマ登録していただけると、感謝感激雨あられです!


読者の皆様、良いお年をお迎えください!

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