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9-1 境界という荒野

「座標、指定完了です」

「人間領と魔王領の境目。かつて戦場だった荒野へ——転移陣、起動」


 リリスが詠唱する。

 空間を歪ませるような、転移の感覚に襲われる。


 意識が閉じると、次の瞬間。

(しかし慣れねぇな。次は地上で頼むぜ)


 ビュンっと棺桶ごと空中に放り出される。

「おい、またかよっ——!」

 ドゴッ! 地面に落下。

 棺桶が砂地に美しく突き刺さった。

(今回は蓋をきちんとロックしておいたからな)


 抜かりない準備により、『旅の途中で死んだ冒険者ごっこ』をせずに済んだ。


「英雄様、お怪我は? 消毒します!」

「過激なお清めやめろ! 特殊清掃じゃねぇんだよ!」

「あの、特殊清掃?」

(しまった。この時代に孤独死の問題は無かった!)


 適当に誤魔化しつつ、棺桶からひょっこり顔を出して周囲を見渡す。


「荒れてんな。マジで何もねえよ」


 そこは——


 ひび割れた大地がどこまでも続いている。

 ところどころに、焼けこげた住居の跡。崩れた防御壁の残骸のようなものも見える。


 空は薄曇り。魔族や魔物の死体から発生する瘴気が、池のように点在していた。


「ここは……」

「昔、戦場だった場所です」

 リリスが、静かに言う。


 ルシフェリアが戦場ではないわ、と被せるように話し始めた。


「英雄候補と魔族が正面からぶつかり合い、多くの命が失われた場所。物語が一度、完全に壊されたまま、修復されていない“境界”——だから、光も闇も、安定しない」


「世界にとっては、願ってもない境界。——儀式には、うってつけの場所ね」

 ルシフェリアが忌々しげに空を見上げていた。

(どちらでもない場所ってことか)


 ふと、地面に残る、かすかな痕に気づいた。焦げた丸い輪。崩れた家の土台。折れた木の根。


「ここって……お前、まさか」

「そうよ」

 ルシフェリアが、少しだけ目を伏せた。


「私が天使としてここに来た時、観測命令を無視して、自己判断で先代魔王を守った村の跡地——あの瞬間に、物語は大きく変わってしまった」


「そこから先が、ここに繋がってるってわけか」

 俺の呟きに対して、ルシフェリアからの返事はなかった。


「中央に、儀式陣を組みます。英雄様は、ここで待機を」

 荒野の中央に、即席の陣形が築かれていく。


 石を組み上げた台座。その上に、俺と棺桶。中央に聖剣。


「絵面としては、完全に“墓”なんだが」

(元の墓ってどうなったんだろうな)

「境界観測完了。英雄譚との接続開始」

 リリスの魔力が、荒地の脈動に呼応する。

 聖剣を囲むように、複雑な交霊陣が刻まれていく。


「ここが“世界と物語の境界”。その周りに、リリスの陣形」

 ルシフェリアが、さらに外側の地面に術式を描いていった。


「そして、その外側に——死生境界を持続させるための陣。天界に回収されていない魂は、冥界に存在しているはずよ」

「聖剣復活は勘付かれる可能性があるけど、冥界への干渉は天使の関心にはならないと思う」

(ますます俺の存在が怪しいものに感じてくるな)


「私はここですねっ!」

 聖女が、教会の様式を模して、銀の皿と、聖水と、いくつかの聖具を並べていく。


「聖女の祈りと、“聖女の血”も媒介になりますから」

「血ってさらっと言うなよ」

「大丈夫ですっ。銀のナイフで指先を切るだけですから!」


 きっと大丈夫なんかじゃない。でも、仕方がない。


「私は、ここから記録します」

「この儀式の経緯、世界の変化、聖剣の再起動。全部、この帳簿に残します——物語ではなく、私たちの“歴史”として」

 リサが、少し離れた岩の上に座りながら。


「歴史を帳簿扱いするなよ」

「どちらも“世界との取引記録”ですから」

(めちゃくちゃ頼りになるのか、ならんのか。最後までよくは分からなかったが)


「……さて、と」

 全員の準備が整ったところで、ルシフェリアが天を見上げた。


「神よ、見なさい。ここに祈りを捧げながらも、叛逆を企図するものたちが揃ったわ——あなたの筋書き以外の全てを叛逆と呼ぶのであれば……」


「“世界”ごと、ぶん殴るって話だろ」


「そういうことね。私たちは裏切りの天使として」

 白と黒の翼が、静かに羽ばたいた。

読んでいただき、ありがとうございます!

定期更新してますので、よろしくお願いします!


ブクマ登録していただけると、感謝感激雨あられです!

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