8-5 俺たちの決意
「——もう、戻れないぞ」
そう言いながら、臆病だなと自嘲する。
聖剣を見つめながら、ゆっくりと呼びかけた。
「ここから先は、“あとはよろしく”とか言って逃げるわけにはいかねぇからな」
「覚悟なら、とっくに決めてます。英雄様のためにも、魔王様のためにも。この世界のためにも」
聖女が、自分の胸に手を当てながら答える。
「私も同じです。“物語の正しさ”なんてどうでも良い。私たちの正しさを作りだすために、先代の英雄様にもわがままを聞いてもらいますから」
リリスが、穏やかに微笑んだ。
「……そうね。悪魔は、“新魔王”として境界を超えてくる。黙って突っ立ってても、物語は止まらない」
ルシフェリアの視線が、保管庫のあちこちを巡った。
「ただ、ここで聖剣の能力を全開にしちゃうと、共鳴した聖遺物による影響が出るわ。最悪、内部から“大暴走”が始まるわよ」
「ですから——」
聖女が、ゆっくりと口を開いた。
「“ 聖剣を清める”という名目で、一度地上に持ち出すのはどうでしょうか」
責任者の顔が、引きつった。
「せ、聖剣を……持ち出す……?」
「はいっ。魔王の血や世界の怨念や、いろいろ溜まってしまっていますから。改めて儀式で“清め”を」
(理屈としては、間違ってないな)
リサが、即座に乗ってきた。
「教会による“浄化の儀”として持ち出し、商会としては“再査定”と申請します。王家には、“再鑑定”ということで」
「それで通るのか?」
「通します。各所に協力を要請しておきます」
「文言はこちらで用意します。“当該聖遺物の価値保全を目的とした持ち出し。管理責任は商会が負うものとする”——これでいけるはず」
(価値のためって言っておけば、だいたい通るんだな)
「儀式場所には条件があるわ」
ルシフェリアが、ゆっくりと続ける。
「人間領と魔王領のどちらでもない。天界の光も魔界の瘴気も、均等に揺らいでいる場所がベスト。世界の“釣り合う場所”ね」
「昔、集落だった荒野がある。魔王領と人間領の明確な境界で、今も魔力の鉱脈が乱れたまま残っている——そこを、儀式場にしましょう」
リリスが頷くと、ルシフェリアがそれに同意した。
「私は境界補強陣と、防衛結界の準備に取り掛かるわ」
「お願いします。魔王軍の残存戦力は、こちらで集めておきます。辺境領の防衛師団を振り分けます」
魔王軍の方針が固まったようだ。
「王国には、私からもそれとなく圧……いえ、協力要請を」
「圧って言ったな、今」
「督促を見送る、という交換条件付きで」
◇
聖剣の元に集った、教会の聖女、商会の代表、魔王軍の参謀、元天使、王女、そして骨の英雄。
世界のあちこちで、別々に動いていたはずの登場人物たちが、ゆっくりと一つの方向へと揃い始めていた。
(いよいよ、本当に“舞台”が整ってきたな)
聖剣の剣身を見つめながら、骨のどこかで、何かが燃え始めるのを感じていた。
——聖剣を中心に、物語が動き始めていく。
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