8-3 地下の扉
重い扉が開き、地下へ続く石の階段が現れる。
「では、ご案内します」
聖女の抗議に渋々同意した責任者に続いて、一行は地下へ向かった。
(なんか落ち着くよな。墓っぽいっていうか)
階段を降りるたびに、ひんやりとした空気が、骨の表面を撫でていく。
「へぇ、こんなことしてたんだ。結界との境界がこの辺りかしら」
「だ、駄目ですよ、ルシフェリアさん。明らかに敵役のセリフです」
リリスが、保管庫への通路を確認していたルシフェリアにツッコミを入れる。
「防御結界の層を抜けているのです」
リリスが、小声で説明する。
「上の層は、侵入者を感知する“探知”の結界。その下は、聖遺物の力が漏れないようにする“封印”の結界。そして、一番下には——」
「“聖遺物が暴走した時、王都ごと封じこめる防衛結界”よ」
ルシフェリアが、さらっと続けた。
「王都一つで世界が守れるなら、安いもんじゃないの?」
「確かにそうですけど。王都崩壊で世界を守れたといえるのでしょうか……」
リリスが苦笑していた。
「なんか出そうだな、この雰囲気」
「……多分、全世界の人がお前が言うなって思ってます」
リリスのツッコミを流しつつ、延々と続く石造りの廊下を歩いていく。壁には古いランタンと、淡く光る術式の線たち。静謐な空間に、骨のぶつかる音がカツンカツンと響いていく。
(もはや完全にホラーだな)
やがて、正面に巨大な扉が現れた。
灰色の石に、びっしりと刻まれた紋様。中心には、三つの印が重なっている。
「ここが、王都地下保管庫の封印扉です」
責任者が立ち止まり、扉を指し示した。
◇
近づいてみると——扉の表面には、
・教会の聖印
・商会の刻印
・王家の紋章
が、三つ組み合わさっていた。
「三位一体の契約です。教会が“神聖”、商会が“価値”、王家が“統治”を意味しています。いずれかが欠ければ扉は開かない。……広義での分散管理とも言えます」
「開けるのが面倒くさくならねぇか?」
(いちいちこんな事すんのかよ。マジで面倒だな)
「では、開扉手続きに入ります」
「聖女様。聖印への“承認”をお願いします」
責任者が一歩下がると、聖女が聖印にそっと手をかざす。
——淡い光が、掌から扉へと流れこんでいった。
「商会代表。刻印の中心に、“龍玉”を」
「承知しました」
リサが、懐から小さな宝玉を取り出す。
透明な球の中に、細い金の光が、鱗の写し絵のように輝いている。
「商会に伝わる龍玉です。高額取引の時に、“真価証明”に使われてきたようです」
リサが、その龍玉を、商会刻印の中心の窪みにはめこむ。
カチリ——という小さな音とともに、金線の綾が強く輝いた。
「王家の紋章の承認は、すでに私どもで行っております。最後に——」
責任者が言いかけた、その時だった。
「ん?」
後ろに立っていた姫のブレスレットがふいに光を放った。
「え、なになに? ぶっ壊すの?」
「正統の腕輪よ。王家の紋章に、直接反応でもしたんじゃないの」
ルシフェリアが、興味なさそうに呟く。
「つまり、“三つの鍵”が揃ったってことだな」
扉の紋様が、光り始める。
聖印、刻印、紋章——それぞれの線が絡み合い、扉全体に走る装飾へと広がっていく。
そして、強い輝きに変わる。
「——封印、解除です」
地響きのような音を立てながら、扉がゆっくりと開いた。
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