8-1 いざ王都へ
「準備が整いました」
リリスの宣言が響くのは、普段よりも静かな魔王城の大広間。
魔族たちは、魔王不在の状況対応に追われていて、ほとんどが現場に駆り出されている。
(トップが居なくなったってのに、ブラック企業化が進んでるのが不憫だよな)
「ルシフェリアさんも転移しますか?」
「ええ、一緒にいくわ」
(そうだよな。行動は共にしてるけど、こいつらが正面から行ったら、王都が非常事態体制になりかねん)
「では転移陣、起動します——」
さっき辺境に飛んだ時の大型陣とは違い、小型の転移陣が描かれている。
(慣れねぇんだよな、この光の帯)
魔王とリリスでも陣の描き方が違うようで、綺麗に引かれた線を見ていると、彼女がとても丁寧な性格であることが分かった。
中心には、俺(棺桶+骨)。
その周りに、リリス、聖女、ルシフェリア、リサ、姫。
「座標はどこにしましょうか?」
リリスが転移陣を展開しながら。
「王都の真上は流石にちょっと。教会の敷地内も駄目だろうし、商会本部のすぐ隣、変な像のある公園あたりに落ちましょう」
「……あの、私のご先祖さまを変な像呼ばわりは」
リサが小さく呟いた。
◇
転移陣が強く輝き始める。
黒と銀の光が交錯すると、空間がぐにゃっと歪む。
(なんか、また落ちる未来しか見えねぇ!)
と、思った次の瞬間——
ドゴッ!
やはり落ちた。棺桶から骸骨が踊るように飛び出した。
(細かい骨を落とすと、探すのが大変なんだよ!)
どうやら地面から半メートルくらいの高さで微妙に浮いていたらしく、ロックが甘かった棺桶の蓋から飛び出して、最後は街路樹に全身の骨を強打した。
「英雄様っ! お身体をなくさないように、壺にしまっておきますから!」
「しまうな! 聖女が骨の壷抱えて地下に潜るなんて、どう考えてもただの納骨にしか見えなくなっちまうだろ!」
「骨壷?」
(しまった。この世界では土葬が当たり前だった)
俺は細かい骨を拾いながら、パズルのように身体を作り上げていく。
「英雄様の骨って、丈夫ですよね」
「発育が良かったんじゃない。健康そうだったし」
リリスとルシフェリアが何かに感心していた。
◇
「この辺はバキッとはめる。ここは慎重に置く」
骨を組み直して周囲を見渡すと、久しぶりの王都の光景。
石畳の広い道。
遠くに見える、教会の巨大な尖塔。
商会本部らしき建物は、横に長い。
(人があまりいないな。こっちにも影響してんのか)
「通貨の価値が崩壊してますからね。英雄信用失墜騒ぎから、オークションでの暴走、そして今回魔王不在という噂で、英雄の存在価値はなくなり、セレス札の信用が崩壊したままに」
「そして“魔王不在”の状況で、魔王領との交流も不安定。外に出れば魔物に襲われる可能性もありますし、各地の交易も途絶えかけてます」
リサが淡々と述べていた。
「まさに、世界規模の信用不安というわけですね」
何かに気づいたらしく、ああ、興奮します、と身をくねらせ始めていた。
(英雄信用の裏付けが、魔王との対立にあったんだもんな)
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