7-7 骨というエラー
「ここで改めて、“英魂再臨の儀”の話に戻ります」
聖女が円卓を見回しながら続けていく。
「英雄の肉体を復活させるには、以下の条件が必要です」
「1.英魂を宿す“器”」
「2.英雄と世界を繋げる“聖遺物”」
「3.聖人の"血"で描かれた特別な術式」
「4.贄となる“価値”」
「5.“本来の英雄の魂”との接続」
(ルシフェリアが言っていた、世界システムの話と共通している)
「……5、普通に失敗してると思うんだけど」
「はい。でも、英雄様が復活しましたからっ!」
聖女が笑顔で答えていた。
「リリス、詳しく分からないか?」
「そうですね。今、英雄様の器の中身は“異世界魂(=あなた)”です」
「物語の整合性からすると、本来の英雄の魂も、天界で回収できてないとは思いますが」
リリスが俺を見ながら、丁寧に答えていた。
「出来るわけないじゃない。英雄も魔王も、より"らしさ"があることが重要なのよ」
「俺は天界から、不適格の烙印を押されちまってるってことだよな」
「でしょうね。わざわざ言わなくても分かると思うんだけど」
ルシフェリアが呆れたように呟いていた。
(つまり、今の俺は、“英雄にログインは出来てるけど、本物じゃないアカウントみたいなもん”で、生じたエラーが骨の身体ってわけか)
◇
「ここで一番危険なのは、“中途半端な復活”を行うことでしょう」
ルシフェリアがつまらなさそうに続けていく。
「この骨を“英雄”として復活させると、物語は、“新英雄”を中心とした秩序に再編されて、通貨・信用・国家・商会・魔王軍、全部が、“新英雄譚を是とした再設定”を起こし始める」
(それはまずいな。リリスよりも予定調和のシナリオに落としこまれてしまいそう)
「どれだけ修正が起きるか見当もつかないし、先代魔王以後の物語が、無かったことにされる可能性が高いわ」
「じゃあ、“完全復活”も不完全ってことか」
俺は骨の指を鳴らす真似をしながら、得意げに言った。
「英雄自体を復活させるんじゃなくて、先代英雄の魂を一時的に呼び出すくらいなら、骨が英雄ってこともギリギリ保てそうだけど……」
「それは良いアイデアだな。つまり、“先代の想いを俺たちの手で繋げる”ってことか」
(これなら俺たち自身が、俺たちの物語としてターニングポイントに出来る)
「英雄の境界がきちんと保たれるってこと」
ルシフェリアが頷いた。
「もし悪魔に宿っている“先代魔王の魂”を、先代英雄と絡めて昇華できれば、旧英雄譚が、“あなたの物語”として消費される」
「そうすれば、この世界そのものを変える必要性が最小化して、物語も小さくまとまると思うわ」
◇
「問題としては、聖剣を探し出すことと、先代英雄の魂と接続する術式。商会では前例がありませんが」
リサが帳簿をパラパラめくりながら言う。
「相応の資質と、死生境界の操作知識を持った術者が必要になりますね」
「境界操作は私でしょ。言われなくてもやるつもりだったけど」
ルシフェリアがはいはい、といった様子で。
「もう片方は聖女か」
「わ、私ですか? 祈ることしか出来ませんよ」
「英魂再臨の儀を執り行ってるし。俺を呼んだのは教会じゃん」
「祈りは受け身ですから。神の承認を受けなくては、禁忌の術に触れることすらできません」
「やります」
俺たちの会話を見ていたリリスが、含むような笑顔を見せた後に、はっきりと言った。
「私なら、境界そのものにアクセスができます。魂の回収は天使の性質を、肉体の生滅には魔王の性質を使えますから」
「聖剣を媒介にして、先代英雄の魂を何とか見つけ出してみせます」
(英雄と魔王の対立が世界の循環を生むって言ってたもんな)
「“先代英雄本人の意思”を反映して、その上で、“この物語の終わり”を魔王軍と決める」
「俺たちの都合で、物語を予定調和にしてやろうってわけか」
(本当に殴り合うんじゃなくて、プロレスみたいにしちまうってわけだもんな)
「はい、英雄様が言った通りです」
リリスが俺を見る。
「外側の奴らが、“世界の予定調和”を押しつけてくる前に、物語の主役として、俺たちの舞台にしちまおうってな」
「はい。先代英雄と先代魔王を巻きこんで、この世界に生きている、私たちで」
俺とリリスとで視線を交わし合った。




