7-6 不完全な英雄
「英雄ってさ、どうして英雄なんだ?」
「スキルとか、魔王みたいな魔力とかさ。英雄にもそういう力があっても良いと思うんだが」
進まない会議の中、俺が空気を変えようと円卓に話題を提供する。
(世界を一発で変えちまうような力。もし、そんなのが俺にもあったら)
「そ、それはありますよ! 英雄様は試練や苦難を聖剣でズバッと切り裂いていくのですっ!」
聖女が、パッと顔を上げた。
「英雄様には“聖剣”の加護が──」
「あっ、そういえば、まだお持ちじゃなかったですね……」
そして、言葉の途中で何かに気づいて固まった。
「俺の装備はこの棺桶だけだが」
「教会の認識では、“英雄=聖剣を持つ者”なんです。ですから、その……」
聖女が俺を見たり、視線を外したりを繰り返している。
「多分、教会と王国が忘れちゃってますっ!」
「忘れるなよ! 英雄には聖剣必要だろ!」
(この見た目で聖剣装備してたら、明らかに敵役にしか見えないけどさ)
俺がため息の代わりに上腕骨頭の辺りを鳴らすと、ルシフェリアが面倒くさそうに口を開いた。
「普通、本体そっちでしょ。あんたってぱっと見ただけじゃ、英雄の死体って分からないし」
「死体じゃありません! 聖躯ですっ!」
(久しぶりに聞いたな、そのツッコミ)
「英雄って何か。答えは簡単でしょ。“聖剣を扱う器”で、聖剣が英雄の属性を反映してるんだから」
「聖剣の方に、本来の価値が宿っている。そう考えるのは、割と自然な気がするけどね」
ルシフェリアの冷たい視線がこちらを捉えていた。
「じゃあ、聖剣はどこにあるんだ。厳重に管理されてるわけだろ?」
「魔王軍の私が知るわけないじゃない」
ルシフェリアが何を言ってるのかしら、といった様子で呟くと、リリスも同じように首を横に振っていた。
「聖女は知らなそうだしな。リサ、お前何か知ってるか?」
俺が問うと、リサがニヤリと笑った。
「はい。価値がつけられると、システムが崩壊する危険性があるものを収蔵している場所が王都にあります——教会と商会が共同管理している、地下保管庫ですね」
「帳簿にいくつか載ってたんですよ、“用途不明の聖遺物(完全秘匿)”が」
(明らかにそれ怪しいな。聖剣かどうかはまだ分からないけど)
◇
「私も聞いたことがあります。司教様がアクセスできる聖遺物が、王都の地下にあるという話」
「禁忌ということでしたが、教会の運営には全然関係ありませんでしたし……」
聖女が何かを思い出すように、話を続ける。
「……聖剣を秘匿する必要があったのですか?」
「どうなんでしょうか。商会としては一応、管理されているということで、わざわざ衆目に晒す必要もありませんし」
「確かにそうですね。英雄様の復活が目的なら、聖剣なんて儀式でしか使いませんから」
(だからって、骨と棺桶で野放しにするのもどうかと思うけどな)
聖女とリサが黙りこむ。
「先代英雄って、どんな力を使ってたんだ。この身体の持ち主は、どんなふうに“世界を救った”ってことになってんだ?」
俺は思いついた疑問を、そのまま口に出していた。
「英雄譚の話ですねっ! お任せください!」
聖女が嬉しそうに話し始める。
「『魔王の大軍を一度の斬撃で退ける』とか、『聖剣の光は、荒廃した大地を復活させる』とか。そういった奇跡の数々と……」
「あと、『英雄譚により、世界の信用が安定する』っていう記述もありましたね」
(ここはルシフェリアの話と合致してるな)
「王国の“経済史”の方にはちゃんと載ってるんですよ。魔王との対立による、深刻な経済危機は、“セレス英雄譚”の成立を境に回復したって」
リサが、帳簿のページをぱらぱらとめくりながら補足していた。
「王国のおとぎ話なんてそんなもんよ。天界にとっても悪くない筋書きだったし」
ルシフェリアが、つまらなそうに息を吐いた。
「魔王の力も、災厄も、経済危機も。英雄譚なんて、“聖剣の一振りでなんでも解決”とでも書いておけば、都合のいい物語が簡単に出来上がる」
「聖剣は、“世界を救った結果”じゃないわ——世界が望む物語を成立させる、"願いの象徴"」
ルシフェリアが、俺を真っ直ぐに見た。
「じゃあ、何だ。聖剣ってのは、物語を残すための"ただの道具"ってことかよ」
(願望器ではないけど、世界の鍵ってのが近いのか?)
「そこに居る俺たちの選択じゃなくて、物語が“こうなってほしい”って可能性を束ねる鍵……」
「はい、ご明察。骨をちょっとだけ見直しちゃった」
ルシフェリアが、皮肉混じりに頷いた。
「あんたが聖剣を握った瞬間、この物語は、英雄譚に昇華する。世界にとって、最も都合のいい物語へと、きっと収束していくわ」
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