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7-3 半分の妹

 魔王城・最奥の一室。

 そこには、器だけの魔王が眠っている——

「こんな風に見てると、すぐに起きて面倒ごとでも起こしてくれそうなんだが」

 棺桶の縁に座りこみながら、つい愚痴る。

 骨の指で頬を突いてみたが、そのまま静かに眠っているだけだった。

(骨の方が元気ってどういうことだよ、まったく)


 隣で、リリスが椅子に腰かけていた。

「生体反応は安定しています」

「でも、魂の波形は……やっぱり、ほとんど残っていません」

 右手をかざしながら、何かを詠唱した後に、術式で器の状態を確認していく。

「“人形”みたいなもんってことか?」

「魔王の身体が人間と同じってわけがないだろうし」

「これまで通り"器"で良いかと。魂の受け皿のようなものですから」

(容器みたいなもんか。俺は骨型容器)

「——リリス。貴女、なんか変よ」

「魔王の魂が抜けてから、魔王の妹としての性質が変化し始めている」

 ルシフェリアが、部屋の隅から声をかける。

「変……ですか?」

「そんなつもりはなかったのですが」

 リリスがきょとんとしながら、ルシフェリアを見つめていた。


「俺には全然分からなかったけど。レイナには似てるなと思ったな」

(属性みたいなものなのか?)

「ねえ、リリス。一度、自分の"境界"を覗いてみない?」

 ルシフェリアが、ゆっくりとリリスに近づく。


「どういう意味ですか——」

「あなたはずっと、“魔王の妹”と“正しさ”だけに生きてきた。でも今、その均衡が崩れてしまっている」

「だったら次は、自分自身の“役割”を見直す番よ」

 ルシフェリアが静かに語り終えると、白と黒の翼が小さく羽ばたいた。


「私に、“何か"出来ることがあるんでしょうか」

「あるわよ。ていうか、貴女にしか無理」

 ルシフェリアはあっさりと言った。

「あなたは、“魔王の妹”。魔王と“同じルーツ”から分裂して、ここにいる存在だから——」

「英雄様。手を握ってもいいですか」

「いいけどよ。俺の手、骨だぞ」

「分かっています。確認したいことがありますので」

 そこまで言って、リリスが黙る。

 しばらくしてから、細い指で俺の指骨をそっとつかんだ。

(何が始まるんだ、一体。ルシフェリアも何か唱え始めてるし)


「二人の存在の境界に干渉。介入準備」

 ルシフェリアが、魔王の額に手をかざす。

 同時に、リリスの胸元にも、もう片方の手を置いた。

「よし。境界を再接続——」

「魔王とリリスの関係を境界より観測開始」

 白と黒の光が、煙のようにリリスの身体から立ち上っていく。それがぼんやりと空気の束のようになっていき、魔王の器へと浸透していった。

(魔力が流れてんのか、これ?)


「やっぱりね。リリス。あなたの魂、元々は一つの霊魂から分割されてるわ」

「貴女の魂と魔王の器の同期レベルが、単純な姉妹としての性質を超えてる」

 ルシフェリアが小さく笑う。

「同じ……霊魂」

「そもそも、あなたの“器”のベースは"天使"——」

 ルシフェリアの声が、少しだけ低くなる。

「天界が“魔王”の存在を安定させるために用意した、高位の天使の同位格体——要するに、魔王の妹はただの仮面で、堕天以外に用意された、天界の保険ってこと」

「私の本質は天使だった、と?」

 リリスが驚いたように、ルシフェリアを見る。


「堕天って、天界にも叛逆のリスクがあるし。私みたいに下位の天使なら、無視できるレベルだろうけど」

「さすがに魔王と釣り合わせるためには、高位の天使じゃないと——」

 ルシフェリアがかざしていた手を外していく。


「世界は、何度も魔王と英雄の対立を起こすことで、健全な循環が起きていた。でも、先代魔王が“枠組み”を超えてしまった」

「だから、その後の魔王は正統なんかじゃなくて——現実に合わせて、性質を再構成されるだけの魔王となった」

(要は物語に用意された、ただの敵役としての魔王ってことか。敵対することじゃなくて、敵対してる理由だけでも、魔王が用意されてしまう、ってわけだろ?)


「だったら、私の存在となんの関係が」

「だから、“魂を割って”転移させたのよ」

 ルシフェリアが、魔王とリリスを交互に見る。


「一つは——“魔王”の性質。これは“好きなもののためなら世界をぶっ壊せる部分”」


「もう一つは、“正しさと、自己犠牲”。まるで"天使"のような性質で、世界と役割のために、自分を削ることを厭わないところ」

(ってことは、まさか)


「——貴女たちは、同じ異世界の魂をルーツとしている。世界の目的に合わせて、それぞれが違う器に収められた」

「“あやまち“としての側面と、“正しさ”としての側面にね」

 ルシフェリアが、再び壁へともたれた。

「今回の物語からすれば、最も都合の良い配置だったということ」

「つまり——」

 俺は、言葉を探しながら、ゆっくりと口を開いた。

「魔王も、リリスも。元々は“レイナ”だったってことか」

「はい、そうなりますね。私の方はまったく覚えていませんが」

 リリスが、遠くを見つめるように俺を見ていた。


 その瞳に、色々な記憶が一度に浮かんできた。現世での驚き、不安、怒り、納得、全部ごちゃ混ぜだ。

(だからデジャヴのように重なりあっていたんだな)


 クラスメイトたちからは、「天使」と呼ばれていた、あいつ。

 誰にでも優しくて、空気読んで、学級委員で、クラスの空気まとめて、先生にも気を遣って。全部、自分の中に抱えこんで、「正しくあろう」としてた。

(どんな試練だよ、まったく)

「もっと早く気づけたら、良かったのかもな」

 それが今のリリスの雰囲気に近い。


 一方で——

 俺の前でだけ見せてた、もっと"悪魔"のような顔。

 「誰にも渡さない」とか、「世界よりあんたが大事」とか。

 あの執着と感情の塊が、魔王の方に全部詰めこまれてる。

(ほんと面倒くせぇ世界だな。俺が勇者で、彼女は魔王、ってか)

読んでくださり、誠にありがとうございます!

20〜23時頃に定期更新してますので、よろしくお願いします!


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