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6-4 魂の色

 美しい純白の光だった。

 この世界の魔王に宿っていた、レイナの“核”そのもの。


『異世界魂——摘出完了』

『回収プロセス、展開』

 空の裂け目が再び開く。

 そこから伸びてきた光の腕が、レイナの魂を掴んでいった。


「ルシフェリアさん、止められないんですか……! お、お姉様がっ!」

 リリスが、動揺しながら叫ぶ。


「無理。これはもはや天使の仕事じゃない」

「もっと上、天界そのものの介入よ」

 レイナの魂が、ゆっくりと空へと引き上げられていく。


 魔王の身体は、その場に残され——

「——っ」

 刻が止まった、人形のように横たわっていた。

「おい! レイナ!!」

 呼びかけても、返事はない。

 燃えるように輝いていた赤い瞳からは、光が完全に消えている。

「器だけ、残していったってことね」

 ルシフェリアが忌々しげに呟いた。


「魔王様っ!!」

「魔王様ぁぁぁ!!」

「ま、魔王様の気配が……消えてる……」

「嘘だろ……魔王様がいない世界なんて……」

 魔族たちの悲鳴が続々と上がる。

 兵士たちは、完全に動揺していた。

 ——天から、また新たな声が降ってくる。

『異世界魂の回収、成功』

『もう一つの異世界魂、一時保留』

『新たな物語への移行フェーズに突入』


「お前ら、何を勝ち誇ったみたいに言ってんだよ……」

(俺だけ残ってどうすんだよ)

「魔王魂の回収完了。……想定よりも楽に進んだな」

 悪魔が、静かに息を吐いた。


「英雄の魂回収は、後回しで構わん。物語はすでに、“悪役”を得た」

「魔王不在による、魔王領の災害、魔物の暴走、通貨崩壊。すべて世界の再構築に利用できる」

(何なんだよ、それ。あいつの望んだ未来の方がずっと良かっただろ)


 俺は、地面に膝をつく。

 目の前には、魂を抜かれて“器”だけになった魔王の身体。

 さっきまでのあいつとは違って、天使みたいな人形になってしまった。


「……おい」

 骨の手で、そっと肩を揺する。

「起きろよ。デートに行くんだろ」

「遅刻して不機嫌にさせるのは、馬鹿な俺の仕事だろ」

 返事はない。

 当たり前だ。中身がどこかに持ってかれたのだから。


「ああ、お姉様。ごめんなさい、ごめんなさい……」

 リリスが、震える手で姉の頬に触れる。

「私が余計なことを思わなければ……」

「魔王の魂は回収した。英雄の魂は、決戦後に回収する——物語は再び、正しい筋書きに戻っていくのだ」

 悪魔が、冷酷に告げる。


「……ふざけんなよ。世界のためだか何だか知らねえけどさ」

「——勝手に人の彼女連れていって、勝手に美談にしようとすんなよ」

 悪魔は俺に興味はないといった様子で、空から、この世界を我が物かのように眺めていた。


「神様……これは本当に、あなたの正しさなんですか……?」

 リリスが俯いたまま、小さく呟いた。


「どうすりゃ良いんだよ、レイナ——」

 俺は、目の前の“空の器”になった魔王の髪を、そっと撫でた。

(馬鹿みたいに怒ったり、笑ったりしてたのに)

 返事なんてなかった。

 それでも、習慣みたいに話しかけてしまう。


「世界が“正しさ”で刺してきたんだぞ。今度は、お前の魂ごと——俺一人が“嫌だ”って言ったって、どうしようもねぇのかもしれねぇけどさ」

 骨の指で、ドレスの裾をぎゅっと握る。


「世界のために、お前が消える物語だけは——」

「どうしても、納得できねぇんだよ」

(……また、クソ面倒くさいことを考えなきゃならないわけだ)

 ため息をつく気分だけ味わいながら、俺は悪魔を見上げた。


 レイナを取り戻せるのか。

 悪魔をぶん殴るのか。

 それとも——物語そのものを変えちまうのか。


 選択肢はいつだって、どれもこれもクソみたいに面倒くさい。

 骨のどこかで、静かに何かが固まった。


「俺が本当に主人公だっていうなら、物語で世界を変えられるはずなんだ——たとえ、それがどれだけ面倒でもな」

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