6-3 レイナという魔王
「——そうは、させないわ……」
レイナの赤い瞳が、怒りで燃えていた。
「こいつは私の彼氏よ。世界に返すつもりなんてない」
「邪魔をするな、魔王——だが、筋書きは上手く機能したようだ」
悪魔の声が、初めて感情を帯びる。
『対象を感知——異世界魂の存在』
『優先度再評価。転移対象を切り替える』
(えっ? お前、それまさか……)
嫌な予感が、背骨から頭蓋骨まで一気に駆け上がる。
「くっ……あっ、ああっ!」
苦悶する魔王の胸元から、赤と黒の魔力が立ち上がっていく——異世界魂の“回収プログラム”が、対象を捕捉し直していた。
『異世界魂:世界に対する影響度——極大』
『英雄の器に宿る異世界魂:影響度——中』
『回収対象を切り替えます。物語は正しい方向に向かう』
「だったら俺を連れてけよ! こんなクソの役にも立たねえ骨の方で良いだろ!」
「レイナは嫉妬深くて、重くて、怖い女だけど、俺よりもずっとこの世界を守ろうって……!」
俺が叫び終わるのも待たずに、レイナが振り返っていた。
「ユウト君。それ褒めてないから」
ふっと、笑った。
「……やっぱり、あんたってバカだわ」
「お前、笑ってる場合じゃ——」
言い終わる前に、レイナが膝から崩れ落ちた。
◇
「っ……!」
魔王の身体が、びくんと震える。
黒いドレスの上から、光の束のようなものが何本も突き刺さっていくのが見えた。
「お、おい……」
俺は棺桶の蓋を蹴っ飛ばして、骨の手を懸命に伸ばす。
(やめろやめろやめろやめろ!! そっちは違うだろ!!)
『異世界魂の回収プロセスを開始します』
『廃棄プランの修正。器は現世側に残し、魂を天界で回収』
「ふざけんなよ!!」
骨の叫びなんて、この物語には届かない。
——世界の正しい修正は、止まらなかった。
「ごめんね、ユウト君。大見得切ったのに」
魔王の赤い瞳が、俺を見つめていた。
いつもより、少しだけ、柔らかい目で。
「謝るなよ!! そういうのは最後の言葉みたいで嫌なんだよ!!」
光の糸が、一斉に収束する。
「あのね——」
魔王の声が、少しだけ震えた。
「……最後に一つだけ。ユウトを嫌いになれなかったこと、ちょっとだけ後悔してるのよ」
その瞬間——
魔王の身体から、レイナの魂が引き抜かれていった。




