6-2 魂の回収
二つの魔力が激しくぶつかり合う。
黒と白、炎と闇が衝突しては、崖や巨大な岩を吹き飛ばしていく。
(いや派手にも程があるだろ。世界の終わりかよ)
地面には闇の満たす深い穴が開き、砦の防御壁のほとんどが崩壊していた。
(あんなのに骨が勝てるわけないだろ!)
リリスが必死に結界を張り直し、ルシフェリアが天と地の境界を辛うじて守りながら、聖女が負傷者の救護を行っていた。
「魔王様ーーーっ!! 見直しましたーーーっ!!」
「あんなに強かったとは……ただの気まぐれパワハラ魔王ではなかったのか」
「もしかして、俺たちヤバいことしてたのでは?」
MMGAのキャップを被っていた新魔王派の魔族たちが、次々とそれを外しはじめた。
将校たちも、武器を降ろしはじめている。
「ああ、砦が無駄になっていきますねぇ」
その中でリサだけは、なぜかうっとりとした目で帳簿を抱きしめていた。
(魔王も戦う相手がいないもんな。俺がこんなんだし)
「なんだあれ。変な紋様が陣に変化してるんだが」
この感覚に覚えがあった。攻撃のための術式ではなくて、魂に干渉するような性質。
(覚えがある。っていうか、この世界に呼び出された時の……)
英魂再臨の儀。
英雄の魂を呼び戻すために、世界の理を捻じ曲げた、あの無謀な儀式。
(ただ何というか、呼ぶというよりも連れ出す方に近いというか)
『対象——英雄の器』
『霊魂干渉——世界外魂の存在を確認』
『世界外魂回収プロセス、準備』
元の英雄に備わっていた感知スキルが告げてくる。流石にはっきり分かっていた。
——これは多分、“ゲームオーバーのチャプター”だ。
◇
「聞け、英雄——」
悪魔が、俺に思念を伝達してくる。
「貴様を英雄の器から外し、“正しい英雄の魂”を呼び戻す」
(どうせ間違いですよ。ほんと面倒くせぇ)
悪魔の足元に巨大な穴が広がっていく。
周囲に展開された陣が、俺の中で、魂レベルでの警戒音を鳴らす。
(何かが来る。棺桶に引きこもるべきか?)
『転移対象——異世界魂』
『回収して廃棄の後、英雄魂との再接続を予定』
「やっぱ俺を追い出すつもりだったのかい! 回収ついでに廃棄すんな!」
思わず叫ぶと、怪我人の救護を続ける聖女が振り向いた。
「回収も出来るんですね。知らなかったですっ!」
「えっ、教会も知らないのかよ」
「私たちは“英魂を迎えるための儀式”しかやってませんから」
(なんかこの組み合わせ、お盆みたいだな……)
「っ……!」
骨には、本来、感覚なんてないはずなのに、魂への扉を素手で鷲掴みにされたかのような、嫌な“冷たさ”が俺に走っていく。
「死ぬだろうな、これは。いやもう死んでんだけどさ!」
見えない“波”が、俺の本体を引きずり出そうとしてくる。
(多分これ、やべぇ。このまま追い出されたら、きっと二度と帰ってこれねぇ……)
「魔王よ、油断したな!」
「——っ。ユウト君、逃げて!」
悪魔が術を一気に展開した、その瞬間——
レイナが、俺の前に立っていた。




