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5-11 魔王と骨と、転移と戦場

 出発の準備は、凄まじく早かった。

「魔王軍、転移陣展開完了!」

「王国姫、訳の分からない大砲の持ちこみ完了!」

「教会、不要な聖具一式持ち出し完了です!」

「魔王軍がまともに思えてきたんだが」


 中庭に巨大な転移陣が描かれている。

 黒と金の線が交錯しては、激しく交互に光を放っていた。

「英雄様はこちらへ。今日は特別に、底にクッションを入れておきましたから!」

 聖女が、棺桶をズルズルと引きずってくる。

「衝撃吸収、爆破耐性、防臭機能付きです。防虫剤と防湿剤も入れときますっ!」

「タンスじゃねえんだよ。棺桶だよ」

(そういう腐り方じゃないんだよなぁ……)


「おい、魔王。この陣って、ちゃんと安全なんだよな?」

()()()()の基準によるけど。問題ないと思うわよ」

「ユウト君は死なないから大丈夫よ」

「死ななくても、粉々になる可能性はあるだろ」

「平気でしょ。どうせ、また再構成されるし」

 魔王が興味もないわ、といった様子で答えていた。

 結局、陣の中には——

 魔王、リリス、聖女、リサ、姫、俺(棺桶)。

(そういえばルシフェリアを見ないんだが)


「転移魔法、詠唱開始!」

 リリスが静かに術式を唱える。

 同時に、魔王も指輪を輝かせ、魔力を流しこんだ。

「今回は“中立地点”を狙う。私とリリスの魔力バランスが重要になるから」

「はい、分かりました。正しく座標を指定しますね——」

 転移陣から光の柱が立ち上がり、今度は俺たちの周りを銀色と黒色の魔力が囲んでいた。


 さらに光が強くなっていく。

 銀と黒の魔力が渦を巻き、空間が閉鎖する——

 

 そして、次の瞬間。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁあ!」

 骨の雄叫びと共に、俺たちは空にいた。

「またかよ!!!!」

(骨なのに、ヒュンッと落ちる感覚がある!)


 荒れた平原と、巨大な砦。

 軍旗がはためき、そのうちのいくつかには「MMGA」の象徴らしき紋章が描かれているようだ。

「地上まで、だいたいあと三十メートルくらいです」

「いやーっ! 落ちちゃいますーっ!」

「地面にはい、どーん!」

 リサ、聖女、姫の三人も大ピンチ。

「安心なさい。着地保護くらいはしてあげるから」

 魔王が指輪をかざす。

 黒い霧が再び足元に集まり、ふわっと衝撃を吸収した。


「きゃっ! なんで私だけお尻から落とすんですかっ!」

「あら、ごめんなさいね。あまりにも大きくてみっともないお尻だったから、つい」

 魔王が蔑むような微笑で、聖女に告げた。

 一方、俺の棺桶はというと。

 どしゃっ、と鈍い音を立てて地面に落下。

 魔王やリリスが綺麗に着地している横で、俺は棺桶ごと転がっている。

「ぐるんぐるんぐるん……」

「英雄様ぁぁぁぁぁ!!」

 聖女が慌てて追いかけてくる。


 やっと止まった先で、棺桶の蓋が開いた。

「骨、何本かずれたな。バラバラにはならなかったが」

「大丈夫ですかっ! いますぐ整体しますから!」

「聖水マッサージもお付けしますね!」


「え、ちょっと待て、それはなぜか骨なのに痛みを——」

 バキッ! グキッ! ボキッ! と聖女の強制整体が始まる。

(最後、絶対しちゃいけない音してただろ!)

「ぎゃぁぁぁぁ!! 整体じゃなくて悪化してるから!!」

「愛があれば、英雄様の健康も復活しますっ!」

「復活どころか、複雑骨折しちゃうからな!」

 そんなドタバタの裏側で。

「おい、見ろ!」

「あれは——」

 砦の上で見張っていた魔族たちが、ざわざわと騒ぎ出す。

「魔王様じゃないか。まさか我々の——」

「待て。リリス様も一緒にいるぞ!」

「それと一緒に……英雄どもか!?」


 プレートメイルをまとった防衛魔族たちが、次々と武器を手に取っていく。

「なんか棺桶が転がっていったけど」

「本当に英雄でいいんだよな」

「知らん。ああやって笑いを取りにいってるんだろ」

(わざとやってる訳じゃねぇんだよ!)

 俺の苦労を骨を張ったギャグにすんな。

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