5-11 魔王と骨と、転移と戦場
出発の準備は、凄まじく早かった。
「魔王軍、転移陣展開完了!」
「王国姫、訳の分からない大砲の持ちこみ完了!」
「教会、不要な聖具一式持ち出し完了です!」
「魔王軍がまともに思えてきたんだが」
中庭に巨大な転移陣が描かれている。
黒と金の線が交錯しては、激しく交互に光を放っていた。
「英雄様はこちらへ。今日は特別に、底にクッションを入れておきましたから!」
聖女が、棺桶をズルズルと引きずってくる。
「衝撃吸収、爆破耐性、防臭機能付きです。防虫剤と防湿剤も入れときますっ!」
「タンスじゃねえんだよ。棺桶だよ」
(そういう腐り方じゃないんだよなぁ……)
「おい、魔王。この陣って、ちゃんと安全なんだよな?」
「ちゃんとの基準によるけど。問題ないと思うわよ」
「ユウト君は死なないから大丈夫よ」
「死ななくても、粉々になる可能性はあるだろ」
「平気でしょ。どうせ、また再構成されるし」
魔王が興味もないわ、といった様子で答えていた。
◇
結局、陣の中には——
魔王、リリス、聖女、リサ、姫、俺(棺桶)。
(そういえばルシフェリアを見ないんだが)
「転移魔法、詠唱開始!」
リリスが静かに術式を唱える。
同時に、魔王も指輪を輝かせ、魔力を流しこんだ。
「今回は“中立地点”を狙う。私とリリスの魔力バランスが重要になるから」
「はい、分かりました。正しく座標を指定しますね——」
転移陣から光の柱が立ち上がり、今度は俺たちの周りを銀色と黒色の魔力が囲んでいた。
さらに光が強くなっていく。
銀と黒の魔力が渦を巻き、空間が閉鎖する——
そして、次の瞬間。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁあ!」
骨の雄叫びと共に、俺たちは空にいた。
「またかよ!!!!」
(骨なのに、ヒュンッと落ちる感覚がある!)
荒れた平原と、巨大な砦。
軍旗がはためき、そのうちのいくつかには「MMGA」の象徴らしき紋章が描かれているようだ。
「地上まで、だいたいあと三十メートルくらいです」
「いやーっ! 落ちちゃいますーっ!」
「地面にはい、どーん!」
リサ、聖女、姫の三人も大ピンチ。
「安心なさい。着地保護くらいはしてあげるから」
魔王が指輪をかざす。
黒い霧が再び足元に集まり、ふわっと衝撃を吸収した。
「きゃっ! なんで私だけお尻から落とすんですかっ!」
「あら、ごめんなさいね。あまりにも大きくてみっともないお尻だったから、つい」
魔王が蔑むような微笑で、聖女に告げた。
◇
一方、俺の棺桶はというと。
どしゃっ、と鈍い音を立てて地面に落下。
魔王やリリスが綺麗に着地している横で、俺は棺桶ごと転がっている。
「ぐるんぐるんぐるん……」
「英雄様ぁぁぁぁぁ!!」
聖女が慌てて追いかけてくる。
やっと止まった先で、棺桶の蓋が開いた。
「骨、何本かずれたな。バラバラにはならなかったが」
「大丈夫ですかっ! いますぐ整体しますから!」
「聖水マッサージもお付けしますね!」
「え、ちょっと待て、それはなぜか骨なのに痛みを——」
バキッ! グキッ! ボキッ! と聖女の強制整体が始まる。
(最後、絶対しちゃいけない音してただろ!)
「ぎゃぁぁぁぁ!! 整体じゃなくて悪化してるから!!」
「愛があれば、英雄様の健康も復活しますっ!」
「復活どころか、複雑骨折しちゃうからな!」
◇
そんなドタバタの裏側で。
「おい、見ろ!」
「あれは——」
砦の上で見張っていた魔族たちが、ざわざわと騒ぎ出す。
「魔王様じゃないか。まさか我々の——」
「待て。リリス様も一緒にいるぞ!」
「それと一緒に……英雄どもか!?」
プレートメイルをまとった防衛魔族たちが、次々と武器を手に取っていく。
「なんか棺桶が転がっていったけど」
「本当に英雄でいいんだよな」
「知らん。ああやって笑いを取りにいってるんだろ」
(わざとやってる訳じゃねぇんだよ!)
俺の苦労を骨を張ったギャグにすんな。




