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5-10 骨、何もしないを守りたい

「さすがに放っておくわけにはいかないか」

 魔王が椅子から立ち上がる。


「ユウトとじゃなくて、まさか(しもべ)と戦うことになるとはね。私的にはなんでも良いんだけど」

「あの、お姉様。彼らを攻めるのは——」


「何を甘いこと言ってんのよ。正しさってね、必ずどこかでぶつかり合うものなのよ」

 魔王の視線が、一瞬だけ俺に向いた。


「……昔の私ならすぐにぶっ刺してたけど。一応、彼らの話も聞いてあげる」

「はい! お願いします、お姉様!」

「私もなんとかしてみます。駄目だったら、責任を取って、この身を滅ぼすつもりです」

「それは駄目。だったら辺境区を滅ぼすわ」

 魔王が真剣な目でリリスを見つめる。その圧に負けたのか、リリスが渋々と言った様子で口を開いた。


「分かりました。でも罰を与えてほしいです」

「うるさい。そんなの私が決めるのよ」

 魔王が相手にもしないといった様子で。

「じゃあ、行きましょうか。反乱の現場に」

「待て。なんで俺もセットなんだよ」

 魔王が当たり前かのように、棺桶を運んでいく。俺は嫌な予感がしていた。

「目の前で英雄と魔王が直接対決してれば、彼らもきっと満足するでしょ?」

「負けるに決まってんだろ! 現世でも負けてるんだぞ!」

(こっちはただの骨でしかねぇ!)


「あれは私の負け。ユウトの言葉に負けたんだから」

「こっちでもそんなこと言われちゃったら、どうしようかしら」

 魔王が何かに期待するかのように、俺を見ていた。

(無いからな。絶対に無いからな)


「英雄様、危険ですっ! 穢れてしまいますよ!」

 その様子を聖女が睨むように見ていた。

「同行メンバーは——」

「私とリリス、英雄と愉快な御一行かしら?」

 魔王が俺たちを一人ずつ見ていく。

「愉快な御一行ってどういうことですかっ! とっても不愉快なんですけどっ!」

 信じられない、といった様子で聖女が抗議する。

(もはや、ツッコミきれない)


「でもよ、俺たちと魔王が一緒に行動してて良いのか? 魔王の信用がなくなっちまいそうだが」

「英雄と魔王は遅かれ早かれ出会うんだし。先に出会ってようと、後で出会おうと大差ないわよ」

(冒険や旅という過程をすっ飛ばすな)


「どうします? 王国に正式な通告を——」

 リサが帳簿の間から、姫の顔を確認しながら、何かを取り出そうとしていたが。

「要らないわよ。魔王に攫われたとでも言っときなさい」

 魔王が面倒くさそうに手を振っていた。

「神の名のもとに同行します!」

「英雄様がどんな不当な扱いを受けているか、この目で確かめ、清め、正してみせますっ!」

 聖女が杖を掲げながら、物騒な未来を語っている。

「まだ何もされてないからな?」

「予防清めです! 戦闘前に身を清めなくてはっ!」

(弱体化しちまうわ!)


「私は——」

 リリスが、少しだけ躊躇ってから口を開く。

「行くに決まってるでしょう。その方が面白いし」

「あなた抜きで“あなたを担ぎ上げる反乱”について話す方が大変なことになると思うんだけど——」

「多分、そうですよね」

 リリスが、苦笑いを浮かべた。

 そんなこんなで——

「いや、ちょっと待て。状況によっては、全滅の可能性もあるんじゃ」

 俺は棺桶から手を上げる。

「お前らに聞くんだが、“行かない”って選択肢は?」

「ありません。英雄には仲間と愛人が必要だと思いますっ!」

「ドヤ顔してるけど、それ愛の人って意味じゃないからな」

「愛よりも、まずは恋からよ。ユウトは私の恋人なんだから——」

(なんか、独占欲復活してないか?)


「英雄様。お話があります」

 聖女が、真剣な顔で近づいてきた。

「これは、きっと英雄様の“何もしない権利”を守るための戦い——もし戦わなければ、きっと何もしないことすら、許されなくなってしまいます」

「戦いって面倒くさいじゃん。刃物見ると、古傷が痛むし」

「最低限の行動で、最大限の休息を得る投資だと思ってください」

 リサが、俺好みの説得を試みる。

「それならやるよ。どうせ棺桶で寝てればいいしな」

「はい、英雄様の決定を歓迎します——」

 そして結論。全員参加だった。

(……面倒だけどな)

「嫌になるぜ、ほんと」

 骨の肩を落とす。

「お前ら、これだけは忘れんなよ——」

 全員の視線が俺に集まる。

「俺を旗印にして話を進めるなよ。その場で“嫌”って言ったら、一回止まれ」

 さっきの条件の再確認だった。こいつらはすぐに忘れるからな。


「当然でしょ」

 魔王が頷く。


「神に誓って」

 聖女も胸に手を当てる。


「はい、その方が正しいかと」

 リリスも、小さく頷いた。


「契約書と報告書作っときますね」

「始末書の可能性も。ああっ、こ、これだけ良い展開で、良い感じに進んでたのに、全部無駄になるってこと!」

 リサが、身体をくねらせながら羊皮紙を広げていた。

(相変わらずヤバい奴だよな)


「これは“英雄様のノー・ミーンズ・ノー条項”ッ!——」

 恍惚とした表情で、リサが宣言していた。

(もはや危険人物だろ、こいつ)

 こうして——

 俺は棺桶ごと戦場に運ばれることになった。

 今度は、“世界のため”でも、“魔王のため”でもなく——俺の“何もしない権利”を守るために。

 いや、やっぱりおかしくないか?

(まあ、いいか。どうせ死んでるしな)

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