1-3 同行者たち
さっきあった事務的な説明からすると、教会と商会からも協力者が同行するようで、王国の姫が俺たちを監視する予定らしい。
英雄パーティのようなものだが、冒険の目処すら立っていない。
(ノープランすぎるだろ)
謁見の間を出てから、教会の協力者に城内を案内される。
「これがセレス札です。世界の宝です」
聖職者と思われる女性が、案内の最中に紙幣を広げて見せてきた。
銀髪で清楚だが、親しみやすい雰囲気を感じさせる。そして瞳の奥では、何故か——憧憬の炎が燃えていたのだった。
(これは好きなものを、まっすぐに見つめる瞳だ)
「今回、英雄様の復活を記念して発行されたんですっ! 1オーリスが100ルナ、現在のレートで1オーリスがセレス札50枚ですっ!」
「困らない程度に、英雄年金が支給されるので、くれぐれも清められた使い方をお願いしますねっ!」
「なんか老後というか、もはや死後のライフプランだ」
(全然分からん。どんくらいの価値があるんだろ)
セレス札を見ていたのだが、一つあまりにもヤバいところが。
「これさ、俺の顔だよな?」
「はい、もちろんです! 無駄のない凛々しい御姿です!」
「無駄がなさすぎるだろ!」
肉も無ければ、筋も無い。完全に素体だった。
「こんなもん流通させて大丈夫なのか?」
一周回って、骸骨の札がカッコよく見えてきた——きっとそれは、俺の精神年齢が14歳位だからだろう。
「肖像権の利用料は、借金と相殺しておきますねっ! 司祭様の判断なので、私にはよく分かってませんがっ!」
聖女が営業スマイル。慈悲はなかった。
彼女をよく見ると、手が微かに震えていた。
「あの、英雄様っ……」
「おう、どうした」
(多分、怖がられてるよな。さすがにこんな見た目じゃなぁ)
「本当に、本当に貴方が英雄様なんですね。私、ずっと待っていたんですっ!」
まさかの展開。聖女が嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。
「幼い頃から、英雄様に憧れていてっ! いつか必ず、私の元にも現れるんだろうって!」
「ありがとう。骨で良ければよろしくな」
(悪い気はしねぇな。この子、可愛いし)
と、その時——
「うっ……」
聖女が鼻を押さえる。顔を真っ赤にして、涙目に。
「ご、ごめんなさい。少し……その……」
「まぁ死体だからな。自分の臭いって、確かに分かんないもんな」
(三百年物のヴィンテージ死臭。ファ⚪︎リーズでも完全に無力)
「英雄様っ! 私が浄化しますからっ!」
「きちんと浄化されれば、英雄様も安心ですよねっ!」
「うわ、あっつ! 溶ける、骨が溶けちゃうからな!」
瓶に入った液体を浴びると、全身の骨に焼けるような痛みが走った。
「ひぃぃ! ご、ごめんなさい! 聖水の分量を間違えて……」
「聖水って、お前。この絵面はアンデッドとの戦闘にしか見えないだろ」
(あやうく逝っちまうところだった。しかし、どういう原理で痛みを感じてるんだよ)
「英雄様は私たちの奇跡なんです! もっと偉そうにしててくださいっ!」
「偉そうって。ただの骨に承認欲求はねぇよ」
(その辺歩いてれば、普通にチヤホヤされそうだしな。悪い意味で)
「聖水をたくさん浴びれば、英雄様はさらに聖人へと近づきますっ! 皆さんから尊敬されて、理想となるような振る舞いをですね」
「落ち着け。誰もが待ってれば、いずれはこうなる」
(何だか知らんが、聖水を浴びると少しやる気が湧いてくるかも)
どうやら骨に染み渡ってから、浄化の効果が現れるようだった。
「分かった。骨なりにベストは尽くす」
「はい! 信じてますからっ!」
「英雄様は、いつだって私を救ってくださるのです」
◇
「どっかーん!」
城の廊下を歩いていると、爆音と共に壁が吹き飛んでいった。
(危ねぇだろ。即死っていうか、即粉骨)
「英雄様〜! 会いたかった〜!」
ピンクのドレスを着た少女が、なぜか大砲と共に登場。
「姫様! また壁を!」
執事が青ざめている。
「だって普通に歩くの面倒じゃない?」
「この城さ、造りが古すぎるんだよ〜」
(面倒くさいのは分かる。俺も棺桶で永眠したいし)
骨が削れそうな位、同意している。
「そうだよな、歩くのって面倒だよな」
「でしょー! 英雄様も分かってくれる!」
姫が人差し指を勢いよく突き出す。
「ねぇねぇ、今から冒険行こう!」
「さっさと魔王倒すんでしょ? 楽しそう!」
「いや、俺行きたくないんだけど」
「えー、なんで?」
「当たり前だろ——面倒だからさ」
面倒くさいから、面倒くさい——
前提と結果の完全一致。これこそ骨論法。
「分かる〜! でも面倒だからこそ、ぶっ壊しがいがあるよね〜!」
「さっきも来てたけど、督促状も大砲で粉砕しちゃう〜!」
「つまり、爆破で解決!」
何でも爆破。すべて破壊。
こいつはヤバい。でも、なぜか気は合いそうだった。
◇
次に現れたのは、眼鏡をかけた知的な雰囲気の女性。手にはアバカスと帳簿。
「初めまして、商会のリサと申します。さっそくですが、英雄様の資産価値を査定させていただきます」
「資産価値って何だよ。俺は死体だよ」
「はい。戦闘力、知名度、将来性などを数値化して——」
リサがカチャカチャとアバカスを弾く。
「——現在の価値は、マイナス1000万オーリス。借金と合わせると、余裕でマイナスですね」
「存在するだけで赤字じゃねえか。せめて何か生み出したいもんだ」
「世界の負債、とでも言っておきますか」
「世界規模なのに、全然カッコよくねぇ!」
(マイナス1000万の男。俺のせいか、これ?)
「国家に養われている英雄。魔王討伐という名目で集めた税金を、死体の復活に投資——」
「当たり前の話ですが、この時点で国民からの合意が得られておりません」
リサがアバカスをパパっと弾きながら。
(王国が隠そうとした理由が分かったような)
「いや、将来性を考慮しましょう。動く骨をサーカスにして、収益化するのも有りです」
「どんな将来性だよ。芸人じゃねえんだよ」
「確かにそうですね。貴方が英雄としての立場を失ったら、アンデッド。魔物。モンスター。果たして、負債英雄と怪物どちらの方が……」
「分かってはいるけどさ、悲しいなマジで」
リサはアバカスを叩くと、鼻をつまみながら何かを思案していた。




