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5-6 骨、やはり巻きこまれる

「まあ、いいでしょう」

 パンッと、魔王が軽く手を叩いた。

「英雄は、今のところちゃんと“何もしない”でここにいる」

「それをわざわざ“何かさせるため”に連れ戻しに来るだなんて——」

 赤い瞳が、じっと聖女を射抜いた。

「一番、英雄の何もしない権利を侵害してるの、誰かしら?」


「当然、私ですっ!」

 聖女が即答した。一歩も引く様子がない。

「自覚あったのかよ!」

「でも! 英雄様に“正しく何もしない”でいただくためには、常に私が、全ての誘惑からお守りしなければなりません!」

「束縛の言い換えやめろ。刺された痕が痛む」

(どうしてお前らは、同じロジックで動くんだ)


「魔王や偽物の聖女に惑わされて、間違った“何もしない”に堕ちてしまったら大変です!」

「“何もしない”に正解不正解があるのかよ。"そっとしとく"って選択肢も忘れてるぞ!」

 俺がツッコんだところで、双翼の影が差した。

「偽物の聖女、とはまた失礼な。聖女じゃなくて、元天使なんだけど——」

 回廊の方から、鈴の音とともに声がする。

 振り向くと、無彩色の羽根を揺らしながらルシフェリアが。その隣には、リリスも立っていた。

「王国側の聖女様。お会いできて光栄です」

「そっちの白い人は知りませんが、あっちは私と英雄様の夜を邪魔した女——」

「誤解を招く発言はやめなさい」

 ルシフェリアが、さらっと言った。

 しかし一瞬、魔王の眉間に皺が寄ったのを、俺は見逃さなかった。

(危なすぎるだろ。地雷原を颯爽と走り抜けていく)


「私は元天使として、“正しさ”と“堕落”の両方を見てきた——あなたは“片側だけ”に寄り過ぎている」

「何ですって! 英雄様への冒涜は許しませんっ!」

 聖女が杖を構えなおす。

(批判されてるのお前だぞ、聖女)

「私の愛は純粋です! 英雄様を正しい道に導くために、私は全てを犠牲にする覚悟で——」

「そういうところが危ないって話をしてるんだけど。元天使としては見てらんないってこと」

 ルシフェリアがため息をつく。指先の小さな魔弾を軽く弾くと、聖女の杖が宙を舞って、地面に突き刺さった。


「な、なんて強さなの——まるで悪魔のような強さです」

「はぁ? 喧嘩売ってんの?」

 ルシフェリアが聖女の"悪口"に反応した。

 ——彼女の周辺を、闇と光の渦が包みはじめる。


「る、ルシフェリアさん! 今はそんなことしてる場合じゃありませんよ!」

 リリスが慌てて止めて、何とか収まったが。ルシフェリアは不満そうな顔をしながら、そのまま聖女を睨んでいた。

「一同が揃ったって感じかしら。魔王としてはとても面白いところだわ」

「英雄としては、何とも言えないけどな——」

 魔王、聖女、リリス。

 それぞれの視線が、骨に突き刺さる。

(背骨がゾワっとしてる。何なんだよ、こいつらの覇気は)

「ここに、“世界の運命と一人の骸骨の今後”を決めるメンバーが揃ったわね」

「私と、聖女とリリス。そして商会代表に、バカ姫」

「バカ姫って可愛いあだ名。なんかぶっ壊したくなるかもー!」

 どこからともなく砲台が現れる。

「はい、どーん!」

 今度は、中庭を中心とした被害が。


「うわーっ! もうやめてくれー!」

「オレたちの洗濯物がー! 腰布が無くなっちまう!」

(めちゃくちゃ燃えてるのオークの腰布かよ! このままじゃ、魔王城がヌーディスト魔王城に!)


「せっかくだし、この場で一旦——」

 魔王が、何かを思い立ったかのように。

「英雄争奪・四者会談でも開きましょうか——」

「会談?」

 俺の背骨がざわつき始める。


「魔王と聖女とリリスと——それから英雄」

「それぞれが、“彼をどう扱うつもりか”と、“彼に何を望むのか”を語ってもらう」

「議長は?」

「もちろん、この私である魔王よ——」

(絶対、ロクな会議にならないだろ……)


「英雄様!」

 聖女が力強く宣言する。

「安心してください! 邪悪な案は私が全て否決しますからっ!」

「会議がめちゃくちゃ長引くだろ!」


 リリスが小さく息を吸った。

「私は——」

「世界の理を守りつつ、あなたの魂が無駄にならない道を提示します——“正しさ”と“安らぎ”の両方を叶える、唯一の案を。そのためなら、私も手段は選びません」

(一番危険なこと言ってないか、この子)


「私は議事録と分析を担当しますね。英雄様の心の変動を、定量化してみせます」

「やめろ。メンタルをアクティブに数値化するな」

(本来の俺は、メンタルの方が近い存在なのかもしれない)


「私はー?」

 姫が手を挙げる。

「何も決まりそうになかったら、議場をぶっ壊す役ー?」

「最後の手段が物騒すぎるからな。映画のラストシーンとかじゃないんだよ」


 そんなわけで——現世で話し合いを避けて死んだはずの俺は、異世界の魔王城で、どこにも逃げられず、クソ重い女たちの話し合い地獄に巻きこまれることとなった。

(マジで何の罰ゲームだよ、これ。ほんと面倒だな)

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