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5-5 骨の仲間たち

「英雄様ーーーっ!! 会いたかったですーーーっ!!」

 白い光が中庭に突き刺さる。

 その中から、銀髪の聖女が飛び出してきた。

「わー! 高ーい!!」

 その後ろから、ピンクのドレスを翻しながら姫。さらに、その陰から帳簿とアバカスを抱えたリサ。

「到着。魔王領、初上陸……記念撮影でもしときましょうか」


 魔王城の中庭に、三人が派手に着地した瞬間——


「侵入者ーーっ!!」

「警戒態勢っ!!」

 周囲の魔族たちが一斉にざわつき出した。

「待て! 落ち着け、お前ら!」

 真っ先に叫んだのは、城門近くにいたオーク兵だった。

「魔王様の客人である英雄様の仲間たちだ。事を荒立てるのは良くないのではないか」

(見た目に反して紳士すぎるだろ! 俺も人のこと言えないけど!)

「しかし、それでは……一体、我々はこれまで何と戦ってきたのか」

 武装した魔族たちが困惑している。

「別に良いのよ。私ならどうせ瞬殺だし」

 魔王があっちいってなさいと、手で魔族たちを追い払ってしまった。

 ベンチの横の棺桶から、俺はそっと手の骨を差し出す。三人がうまく見つけられないと、騒動になりかねないので、一応、アピールしておかねば。

「おーい、ここだぞー。英雄というより、魔王軍の一員って感じだが」


「英雄様っ! ああ、私の英雄様だ!」

 聖女の顔がぱっと明るくなる。

「よくぞ、ご無事で! 相変わらずちょっと臭いますね! でも、そこが尊いですっ!」

「褒め方がおかしいぞ。尊いというより、汚い?」

「ええ、今すぐお清めしますから! 魔王の汚れが付く前に!」

「いいよ、清めなくて!」

(油断も隙もありゃしねぇ!)


 その後ろで、姫がきょろきょろと辺りを見回していた。

「わー、本当に魔王城だ! 尖ってるー! 黒いー! 倒れる瞬間みたーい!」

 尖塔に向けて、砲台の準備を始める。

「はい、どーん!」

「うぎゃー! 敵襲だー!」

「せ、せっかくの偽札が! 全部燃えちまったよ!」

 社畜魔族たちの悲痛な叫びが聞こえてきた。


「すみません、あの姫、今すぐ止めてもらえませんか?」

 オーク兵が泣きそうな顔で魔王を見る。

「別に平気でしょ? そんなに強くないわよ、あの子」

「そうですけど。地味に被害が大きいんです——」

 オークの言葉に頷くと、魔王が優雅に立ち上がった。


「皆さん、いらっしゃい。魔王城へようこそ」

「魔王、英雄様をはやく返しなさい! いえ、元々は私のものですけど!」

 聖女が杖を構える。

「さりげなく所有権を主張するな」

「英雄様は教会の聖躯! 私が復活させた、神と私だけの共有財産です!」

「世俗でも教義でもアウトだと思うぞ」

(共有の範囲が狭すぎるだろ)


「共有財産……」

 リサが、なにやら震えている。

「なんて甘美な響き……宗教法人と個人の境界が溶けていく……」

「興奮するポイントおかしくないか?」

「で?」

 魔王が、聖女たちを品定めするように見ている。

「わざわざ何をしに来たのかしら」

「決まってます!」

 聖女が胸に手を当てながら、一歩前に出てきた。

「英雄様は、魔王に近づくと堕落してしまいます! その前に救出に——」

「ああ、そっか」

 魔王が、ぽんと手を打った。

「“予防のお清め”ね?」

「はい! よくお分かりで!」

(予防接種みたいに言うなよ)


 リサが前に出る。

「魔王様。一応、確認させていただきたいのですが」

「今回の“英雄との一日交渉権”は、あくまでオークションに基づく合意事項です」

「王国・教会・商会は、あなたが一億オーリスを提示したという“事実”に基づき、魔王との交渉ルートを開きました」

「つまり——」

 彼女はアバカスを弾きながら続ける。

「英雄様の期間外の拘束は契約違反になります」

「なので延滞料を……踏み倒して……いただきたく……」

「そっちの打診かよ!」

 はぁん、と身体をくねらせながら悶絶していた。大丈夫か、あいつ。


「もちろん。このまま全部踏み倒すのが魔王よ——契約書なんて、包丁でぶっ刺してあげる」

 魔王が満足げに頷いていた。

(それは笑えねぇんだよな……)


「あとの問題は——」

 リサの視線が、聖女に移った。

「教会による“私有”の方が、よほど拘束に近いという点ですかね」

「ち、違います! 私はただ、神の意志に基づいてですね!」

「じゃあ神が署名した契約書、出して?」

「…………」

「……ないですね?」

 聖女がバツの悪そうな顔で、銀髪を指に絡めている。


「け、契約書は心の中にあります!」

「ただの信仰心じゃないですか」

 リサの冷静なツッコミに、聖女がガクッと膝をついた。

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