5-5 骨の仲間たち
「英雄様ーーーっ!! 会いたかったですーーーっ!!」
白い光が中庭に突き刺さる。
その中から、銀髪の聖女が飛び出してきた。
「わー! 高ーい!!」
その後ろから、ピンクのドレスを翻しながら姫。さらに、その陰から帳簿とアバカスを抱えたリサ。
「到着。魔王領、初上陸……記念撮影でもしときましょうか」
魔王城の中庭に、三人が派手に着地した瞬間——
「侵入者ーーっ!!」
「警戒態勢っ!!」
周囲の魔族たちが一斉にざわつき出した。
「待て! 落ち着け、お前ら!」
真っ先に叫んだのは、城門近くにいたオーク兵だった。
「魔王様の客人である英雄様の仲間たちだ。事を荒立てるのは良くないのではないか」
(見た目に反して紳士すぎるだろ! 俺も人のこと言えないけど!)
「しかし、それでは……一体、我々はこれまで何と戦ってきたのか」
武装した魔族たちが困惑している。
「別に良いのよ。私ならどうせ瞬殺だし」
魔王があっちいってなさいと、手で魔族たちを追い払ってしまった。
◇
ベンチの横の棺桶から、俺はそっと手の骨を差し出す。三人がうまく見つけられないと、騒動になりかねないので、一応、アピールしておかねば。
「おーい、ここだぞー。英雄というより、魔王軍の一員って感じだが」
「英雄様っ! ああ、私の英雄様だ!」
聖女の顔がぱっと明るくなる。
「よくぞ、ご無事で! 相変わらずちょっと臭いますね! でも、そこが尊いですっ!」
「褒め方がおかしいぞ。尊いというより、汚い?」
「ええ、今すぐお清めしますから! 魔王の汚れが付く前に!」
「いいよ、清めなくて!」
(油断も隙もありゃしねぇ!)
その後ろで、姫がきょろきょろと辺りを見回していた。
「わー、本当に魔王城だ! 尖ってるー! 黒いー! 倒れる瞬間みたーい!」
尖塔に向けて、砲台の準備を始める。
「はい、どーん!」
「うぎゃー! 敵襲だー!」
「せ、せっかくの偽札が! 全部燃えちまったよ!」
社畜魔族たちの悲痛な叫びが聞こえてきた。
「すみません、あの姫、今すぐ止めてもらえませんか?」
オーク兵が泣きそうな顔で魔王を見る。
「別に平気でしょ? そんなに強くないわよ、あの子」
「そうですけど。地味に被害が大きいんです——」
オークの言葉に頷くと、魔王が優雅に立ち上がった。
「皆さん、いらっしゃい。魔王城へようこそ」
「魔王、英雄様をはやく返しなさい! いえ、元々は私のものですけど!」
聖女が杖を構える。
「さりげなく所有権を主張するな」
「英雄様は教会の聖躯! 私が復活させた、神と私だけの共有財産です!」
「世俗でも教義でもアウトだと思うぞ」
(共有の範囲が狭すぎるだろ)
「共有財産……」
リサが、なにやら震えている。
「なんて甘美な響き……宗教法人と個人の境界が溶けていく……」
「興奮するポイントおかしくないか?」
◇
「で?」
魔王が、聖女たちを品定めするように見ている。
「わざわざ何をしに来たのかしら」
「決まってます!」
聖女が胸に手を当てながら、一歩前に出てきた。
「英雄様は、魔王に近づくと堕落してしまいます! その前に救出に——」
「ああ、そっか」
魔王が、ぽんと手を打った。
「“予防のお清め”ね?」
「はい! よくお分かりで!」
(予防接種みたいに言うなよ)
リサが前に出る。
「魔王様。一応、確認させていただきたいのですが」
「今回の“英雄との一日交渉権”は、あくまでオークションに基づく合意事項です」
「王国・教会・商会は、あなたが一億オーリスを提示したという“事実”に基づき、魔王との交渉ルートを開きました」
「つまり——」
彼女はアバカスを弾きながら続ける。
「英雄様の期間外の拘束は契約違反になります」
「なので延滞料を……踏み倒して……いただきたく……」
「そっちの打診かよ!」
はぁん、と身体をくねらせながら悶絶していた。大丈夫か、あいつ。
「もちろん。このまま全部踏み倒すのが魔王よ——契約書なんて、包丁でぶっ刺してあげる」
魔王が満足げに頷いていた。
(それは笑えねぇんだよな……)
「あとの問題は——」
リサの視線が、聖女に移った。
「教会による“私有”の方が、よほど拘束に近いという点ですかね」
「ち、違います! 私はただ、神の意志に基づいてですね!」
「じゃあ神が署名した契約書、出して?」
「…………」
「……ないですね?」
聖女がバツの悪そうな顔で、銀髪を指に絡めている。
「け、契約書は心の中にあります!」
「ただの信仰心じゃないですか」
リサの冷静なツッコミに、聖女がガクッと膝をついた。




