5-4 骨、勝手に危機認定される
「どうだった、ユウト君?」
ひと段落ついたところで、魔王が中庭のベンチに腰掛けた。
俺はその隣に棺桶ごと置かれている。
「ここが私の“今の世界”。それなりに、頑張ってるでしょ?」
「まぁ、そうかもな」
「少なくとも、『全部燃やして骨だけ抱いて暮らす』みたいな世界じゃないのは分かった」
正直、やりかねないが。今は機嫌が良さそうなので、おそらく平気だろう。
「でも、魔族の暮らしも、軍の仕組みも、全部、魔王としてのお前が作った場所なんだろうけどさ」
「レイナは、最後、どうするつもりなんだよ——」
魔王が、少しだけ黙った。
風が吹くと、黒いドレスの裾がゆらめいた。
「どこにも行けないわよ——」
「私はもう人間には戻れない。魔王の座を降りるなんてできないし、魔王以外の役割なんてものはない」
(それは俺も同じだろうけど)
「だからこそ、いつまでも魔王でいるしかない。英雄と世界の両方を欲しがる魔王として」
「欲張りだな、レイナは」
「ええ、欲張りよ。元の世界では失ったものが沢山あるから」
魔王が、俺の棺桶を軽く蹴った。
「で、ユウト君。さっきのリリスの話、聞いてどう思った?」
「どうも何も、俺もきっとこの世界にいない方がいいんだろうなとしか——“世界のため”って言いながら、俺を世界の外に追い出すって訳だろ?」
頭蓋骨をかきながら答える。
「本物の英雄の魂がいたなら、そいつに身体返すのが筋だ、って意見も否定はしないし、世界のために正しいことをしたいっていうのも、理解はする」
「でも——」
俺は、きっぱりと言う。
「俺のいないところで、勝手に未来を決められてるのはムカつくよな。絶対に面倒なことに巻きこまれるじゃねえか」
魔王が少し笑ってから、空を見上げる。
「じゃあさ。今日一日で、“嫌な未来”と“まだマシな未来”を一緒に決めましょうよ」
「魔王と英雄が描く、理想の未来のお話——」
「そんなもん無かったよ。ただの二人の高校生の物語だって、簡単に終わっちまったんだから」
魔王が英雄の隣で微笑んでいた。
(ほんと、面倒な世界に来ちまったな)
(でも今度こそ、誰かの“正しさ”のために消えるのだけは——絶対に、断ってやる)
——その時。中庭の空気が、ピリッと揺れた。
「魔王様、敵襲です!」
「王国の連中がやってきました!」
城の周囲を警戒していた、武装魔族たちが魔王の元にやってくる。
「派手に来たわねぇ。英雄様のお仲間たちよ」
「あいつらここまで来たのかよ!」
(何考えてんだよ、まったく!)
「ええ。あの聖女、絶対に黙っていられない子だもの」
空の一角が光り、白い柱が地上に向かって伸びる。そして見覚えのある三つのシルエット。
「英雄様ーっ! 清めに来ましたーっ!!」
「ぶっ壊しに来たよー!」
「データ取りに来ました。どうも皆様、初めまして」
聖女、姫、リサ。
勝手に英雄様救出作戦、開幕。




