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4-4 境界線ゲームと、第一条のドラフト

「じゃあとりあえず——ゲーム形式にでもしましょうか」

「ゲーム?」

「“境界線ゲーム”。私が質問するから、貴方は即答。私たちのルールをさっさと決めていく」

「お前、世界の約束をノリで作るなよ」

「壊しあうよりはいいと思うんだけど」

 魔王がこの世界の王よりも綺麗なことを言っていた。

「じゃ、まず一つ——」

 魔王が一本、指を立てる。

「“お互いの約束を、信じずに監視する”のは有り?」

「そりゃアウトだろ」

「即答ね。はい、アウト」

「じゃあ、魔王領からあいつらは撤退で——」

 魔王が軽く指を鳴らす。

 その瞬間、壁の地図の端っこで、黒く塗りつぶされていた部分が消滅する。

(二人の関係が、そのまま条約になりかけてるのでは?)


「じゃあ、次」

 また一本、指が折られる。

「連絡が取れない時間、どのくらいまでOK?」

「寝てる時は許せ。夢くらいは見させてくれ」

「その“寝てる時”が多すぎるのよ、貴方。下手したら永遠に寝てるし」

「知らねぇよ。ただの骨だしな」

 骸骨だけど、眠いものは眠い。

 永眠への誘惑みたいなものだろう。

「今みたいに“意識がある時”は?」

「一日かな。日付が変わる前に挨拶するとか」

「長くない? 何かあったら全部報告してよ」

「嫌だ。即レス文化圏からは脱退したい」

「なんか納得できないけど」

 魔王が盛大にため息をついた直後、

 今度は天井からぶら下がっている黒いランプが、わずかに揺れた。

「“互いに連絡がなくても進軍はしない”と。あいつらに命じておくわ——」

「進軍って。お前JKみたいなノリで、国の方向性決めてんじゃねぇよ」

「違反したら、刃物で刺す。と。罪には罰よね。刃物支給しとかなきゃ」

(刃物は一番危ないから!)

「第一条で禁止な」

「第一条は私たちの約束事でしょう?」

「“感情を処理せずに物理攻撃に走る”のはアウト。特に刃物で刺すのはマジでやめろ。経験者は語る」


「私の前で、よくそれ言えるわね——」

「だから、言ってんだよ!」

 しばしの沈黙。

 魔王が、ほんの少しだけ視線を逸らした。

「刃物は没収ということで」

 魔王が適当に納得している。

「じゃあ、次。“英雄を理由なく呼び出す”のは有り?」

「現世で一番やられてたやつだな」

「放課後、突然“今どこ?”って送ったり」

「“ちょっと会えない?”の“ちょっと”が三時間だったりな」

「だって会いたかったんだもん」

 魔王がダメージを受けていた。

「あれはなし。“なんか不安だから”みたいな、理由になってない理由で、英雄を呼びつけるのはアウト」

「どういう時なら呼んでいいの」

「世界が終わりそうとか。存続の危機とか」

「まさに今じゃない。魔王と英雄が対峙してる」

「じゃあ、“本当に何かが壊れそうな時だけ”——」


 しばらく沈黙があった。魔王は何かを考えてから、こう続けていく。

「“英雄の召集要件:世界の危機と私の危機”。これで良いわね」

「良くないだろ。魔王を倒すのが英雄だぞ」

「いいの。私が魔王だから」


「次、少し本題」

 魔王の声色が、僅かに低くなる。

「“英雄としての期待”を押し付けられるのと、“恋人としての期待”を押し付けられるの、どっちがマシ?」

「どっちもめちゃくちゃ嫌だが」

 俺は少し考える。

「まだ、英雄の方がいいのかもな——」

「恋人の期待と違って、失うもんは何もないし。誰も骨になんか期待してないから」

「それって、私のこと?」

「お前だけじゃないぞ。ほら俺、浮気してたからさ」

 魔王は黙りこんだ。そして早速、条約を無視して、机の上に刃物が突き刺さっていた。

(よ、余計なこと言っちまった!)


 しばらくしてから、魔王がぽつりと呟く。

「じゃあ──もし“世界の期待を押し付けてくる魔王”がいたら?」

「速攻倒しにいく」

「だったら受けて立つわ」

 魔王が笑う。

 でも、その笑いは少し寂しげだった。

「昔はね。“全部背負ってもいい”って思ってたの。貴方のことも、クラスの“天使”って呼ばれてた良い子の私も——」

 指輪の赤が、少し弱くなる。

「期待って、簡単に呪いになっちゃうから」


「逆に質問させてもらうけどよ」

 首の骨をゴキゴキ鳴らしながら、魔王に問う。

「お前、本当は何が欲しいんだよ」

「俺を所有したいのか。世界をぶっ壊したいのか。それとも、ただ一緒にいたいだけなのか——」

「全部よ。それでも順番くらいはあるけどね」

 今度は、ひとつずつ指を折っていく。

「まずは、“一緒にいたい”けど——でも“貴方が嫌な時に、会わなくても平気”って選択ができるようになりたい」

「……」

(もっと強いと思ってたんだが)

「その上で、“貴方が側にいてくれる”っていうのを、私が諦めないことを決めたい——」

「諦めない前提なのかよ」

「当たり前でしょう。やり残したことも、まだやってないことも沢山あるし」

「——やっぱり束縛じゃねぇか。英雄を束縛すんなって書いとけ」

(皆に言いたいけどな、これは!)


「でも、前よりはずっといいと思うから——」

 確かに。刺されて死ぬよりかはずっと良い。今の俺は骨だけどな。

「今の、何だ?」

 地震のように世界が揺れた気がした。

「とりあえずまとめましょうか」

 魔王は椅子から立ち上がり、壁の地図の端に、黒いインクでさらさらと書きこむ。

『魔王は、英雄の“逃げ場”を奪ってはならない』

「大事なのきたな。永眠権も保証して欲しいところだが」

「これが貴方の“何もしない権利”の、原型よ」

 魔王が柔らかく微笑んだ。俺は何だか懐かしいような気がしていた。

「世界を救うとか滅ぼすとか、その前に。貴方が、“押し付けられない場所”をちゃんと一個、確保してあげる」

 指輪が、静かに赤く輝いていた。


「とりあえず、その第一条には大賛成だな」

「じゃあ採択ね。可決。この世界は魔王主権だから」

「軽すぎだろ。あんなに重かったはずなのに」

「前よりずっと重いわよ。だって今は私、この世界ごと背負ってるんだから——」

 魔王がそう言って笑った顔は、クラスの“天使”だった頃よりも、ずっと人間味に溢れていた。

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