3-1 骨、借金がかさむ
昼過ぎ。
商会前の広場に人だかりが出来ていた。
「では、英雄様の資産価値査定を始めます」
リサが眼鏡を光らせる。
手にはアバカスと、分厚い評価シート。
「戦闘力:E(死体なので)」
「知名度:A(悪い意味で)」
「将来性:測定不能(やる気がないため)」
「昨日の追加:匂い指数:Z(限界突破)」
「ひでぇ評価だな」
「全て事実です。価値はないと言えますね」
リサがばっさりと。だが、なぜか頬が赤い。
「で、でも……価値を逸脱する、背徳的な魅力が……でも、これは投資家としてはあり得ない——ああもう、何も計算できない……これはきっと恋……」
(おかしいだろ。ただの変態じゃねえか)
「魅力なら、私が一番理解してますよっ!」
聖女が割りこんでくる。
「英雄様はやる気がないこともありますが、愛さえあれば、全て清められますっ!」
「清めんなよ。これが俺の普通だからな」
棺桶の中から抗議したが、聖女には全く届いていなかった。
「英雄様。朝のお清めを忘れていました」
「あっちぃ! 聖水を霧吹きするな!」
棺桶の対面窓が開かれると、頭蓋骨をミストが襲う。清められるというよりも、まるで魂が剥がされてしまいそうな感覚。
(危ねぇ。どっか別の世界に逝っちまいそうだった)
「価値があるとかないとか、全部ぶっ壊そうよ」
姫が横でクラッカーを頬張る。
「無茶言うな。それって、まず俺をぶっ壊すってことだろ?」
「そうかも。準備万端だよ」
姫が派手にデコられた車輪付きの砲台を、どこからか呼び出した。
あんなもんぶっ放したら、俺どころか商会が吹っ飛んじまうだろ。
「やめろ。そんなもん出すなって」
「はい、とりあえずドーン!」
「うわぁぁあ! バカ野郎!」
特に狙いを定めずに発射。
建物には直撃しなかったが、石畳の道路が派手に吹き飛んだ。
「ひ、姫様! ただでさえ王国は火の車なんですよ!」
執事が慌てて走ってきた。
◇
「英雄様、大変です。債権者からの取り立てが——」
執事が深刻な顔で告げると、ゾロゾロと債権者たちがやってくる。
「宿屋の修繕費50万オーリス!」(聖水で水浸しにした分)
「精神的苦痛への慰謝料30万!」(臭いため)
「紙幣暴落による損失補填200万!」
「偽札工房破壊の修理費100万!」(NEW!)
「骨片清掃費20万!」(手が取れた分)
オーリス換算の負債がどんどん膨らんでいく。
(やべー。もうマイナス1億くらい行ってそう)
「面倒くせぇな。死体に借金の取り立てとか正気か?」
「死体にも責任はあります!」
債権者たちが叫ぶ。そして棺桶を取り囲んだ。
「私が! 私が肩代わりしますからっ!」
聖女が債権者たちの前に出る。
「ダメだ、聖女!」
(お前は美少女だから、確かにめっちゃ稼げると思う。でも俺の肉体の復活を待たずに、そんな夜のご奉仕だなんて!)
「聖女様にそんな財産が?」
「教会の備品を売れば大丈夫ですっ! 大聖堂は国宝の山ですから——」
(教会そのものを売るなよ。せめて贖宥状とか売っとけよ)
「はい」
リサがビシッと手を挙げる。
「リターンは……き、期待できませんが。価値無きものを、あえて手元に置いておくという愛……」
「悶えるな。俺は無駄な束縛と面倒ごとが大嫌いなんだ」
◇
大通りから従者を引き連れて、騒動を聞きつけた王がやってきた。
「これは由々しき事態です。僕から提案があります」
嫌な予感しかしない。
王は真面目だが、あの爆破姫の弟なのだ。
「彼を期間限定でレンタルすることにしました」
「レンタル?」
(死体のレンタルとか、王は何を考えてんだ)
「1日単位で貸し出し。収入で借金を返済します」
リサがアバカスを叩く。
「面白い試みですね。新たなビジネスの予感がします」
「面白くねぇよ。骨と一緒にいて何すんだよ」
王の指示に従って、執事が契約書を広げる。
「すでに灰商会との間で、オークション開催が決定しています」
「いや待て。俺の意見は?」
「もちろん死体に拒否権はありません」
「断固として抗議する。棺桶に引きこもってやる」
「どうぞお休みください。搬送の手続きはこちらで済ませますから」
(レンタルされてる間も、引きこもってればいいか)




