3:18歳の老犬だと!?
飼い主の独り言? のおかげでこの犬の年が18歳だと判明した。
18歳!? オレ自身は犬を飼ったことがないが、部下が可愛がっていた小型の犬が14歳で亡くなったとしょげかえっていた時、周りが高齢だ、すごく長生きだと慰めていたのを見聞きしている。その時に犬の14歳は人間の70歳くらいだとも聞いた。
この国の人間の平均寿命が80歳くらいだから、70ならば確かに長生きだな、と妙に納得したから覚えている。
それをこの犬は超えている、だと!? という事は90とか100歳とかなのか、この体は!
その割に元気だ。確かに人間でも90歳を超えても元気な人々もたくさんいるから、それ自体はおかしくはないが。
飼い主から聞いた、ドラゴンが爆発して、それによりオレがドラゴンスレイヤーになったという話。
オレがもっともほしかった称号だが、俺が死後にいただいても仕方がない気がする。普通、死んだら称号を頂いたってわからないのだから。
たしか、称号を貰えると遺族補償金の額が増えるはずだ。両親にそれが渡って、うちの屋敷の皆に十分な金が払えるのならいいのだが。
しかもそのドラゴンスレイヤーの中身は、今や年寄りチワワの中ときたものだ。
俺は今日も見えにくい目で、窓から庭を見る。見えにくいなりに、使用人が歩いていたり、庭の手入れをしているらしい職人動いているのが何となくわかる。花らしい鮮やかな色も。それに交じって動物らしいモフモフが動いているのも最近はよく見かける。
外に出てみたいと思わなくもないが、目が見えないのに知らないところに出されても困るから、今しばらくは家の中だけで良い。そのうちに少しずつは外にも出たいが。
それにしてもオレは何故この体に入ってしまったのか。やはりドラゴンの呪いか? しかし寄生虫に支配されていたのなら、それから解放したオレに感謝こそすれ、恨まれる覚えはないのだが。
だいたい、どんな理由だろうとよそ者が住んでいる土地を荒らしたら撃退されて当然なのだ。それが対人間でも対魔物でも。だからドラゴンに恨まれる筋合いはない!
それに恨みだろうと何だろうと、せめて人に入れたのなら、中身はオレだと証明も出来ただろうに。
犬では話せないし、何よりこんなヨボヨボでは何も出来ないではないか。
恨むぞ! ドラゴン!!
『それは悪かったと思っている』
「ひゃぉん!(誰だ!!)」
いきなり聞こえてきた声に、俺は警戒態勢を取った。
見えない目で周りを見回そうとしたが、慌てて動いたためにレースのカーテンに絡まって動けなくなった。そんなオレに笑いを含んだ声が聞こえる。
『何をやっているんだか』
「うるさい! どこにいる!」
『ここさ、目の前にいるぞ』
言われて窓に目を向ければ、確かにぼやけたモッフモフっぽい何かが、窓の外にいた。